バンビ爆誕。in 神戸三宮。
鈴木すず(16歳)の人生のモットーは、大人しく、何事もなく、とにかく平和に生きること。
で、ございます…。
それなのに。
「警告しとくわ〜」
三宮駅の快速が止まるホームから、やたらと天井の低い地下街『サンチカ』を抜けたあたりで、佐伯宗吾先生は、出会って1秒で物騒なことを言い出した。
黒い髪は、激しい寝ぐせなのか、そういう最先端の爆発ヘアなのか判別がつかないほどボサボサにハネ散らかしている。小脇に抱えた出席簿は角がすり切れており、右手にはファミリーマートのプラスチック製アイスコーヒー。聖職者というよりは、完全に、徹夜明けしたおじさんの風情で。
すずは、その猫背の背中を必死で追いかけながら、母が送ってきた高校のホームページを思い出す。
<通学・勉強への不安があっても大丈夫!
事情があって、今の高校に通えない、働きながら通いたいと言う方に選ばれています!
幅広い選択肢の中から、一人ひとりの状況にあわせたクラスが選べます。
勉強やテストも、優しく親切な先生が手厚くサポートしてくれるので、心配しなくて大丈夫!
学校行事も充実!クラスメイトや私たちと一緒に過ごしましょう!>
要するに、普通に高校ではないってこと。
それは覚悟していた。
がしかし!
(は、早い!息切れる!)
佐伯はとにかく歩くのが速い。まずはその高校までたどり着けるか。
平日の昼下がりでごった返す人混みを、モーセのように割って進んでいく。すずは、東京のラッシュに放り込まれた田舎のネズミのような心持ちで、置いていかれないようにスニーカーの紐をきつく結び直したい衝動と戦いながら足を動かした。
「うちの高校、普通の高校やと思って入ったら、だいぶびびるからな〜。覚悟の準備だけしとけよ!」
佐伯は一切振り返らずに、ストローをズズズと鳴らした。
( な、何?どんだけ覚悟がいるの?この高校は!…とは、言えないから…)
「……は、はい!」
と元気に答えておく。
「あ、制服なー、一応あるけど、でも何着てきてもええど。あと当たり前みたいに年齢がそろってないからな。午前中にガッツリ現場で一汗かいてから来るやつもおるし。海外勢もいっぱいおるぞ〜。カップ片手に、これからスタバの新作の文句言うために登校するギャルもおる。高校生やのに、財布に俺の月給より札詰まってるやつもおる。多様性のバゲンセールや」
(それって、ほんまに高校なん!?)
すずは喉まで出かかった疑問を、ごくりとのみ込んだ。尋ねたら、その瞬間に自分の負けのような気がしたのだ。何に対する負けかはわからないけれど。
地下街の階段を駆け上がり、地上に出ると、目の前がまぶしいほどの光で満たされた。
フラワーロードを南へ進む。そびえ立つビルのガラス窓が容赦なく2月の太陽を反射させていて、すずはたまらず目を細めた。
二月の終わりの神戸は、まだきっちり冬だった。
ビルの間を走る冷たい風が、すずの頬を容赦なく叩いた。奈良を出る時にはちょうどいいと思った薄いコートが、三宮の風の前ではまるで頼りない。
フラワーロードを南へ進む。ガラス張りのビルは、冬の終わりの白い光を冷たく跳ね返していた。
奈良の三郷町にいた頃、学校へ至る一本道には、急な坂と、大きな川と青々とした田んぼと、それらを静かに見下ろす緑の山しかなかった。朝の空気はいつでも少しひんやりとしていて、遠くには生駒や信貴山の稜線がくっきりと見えた。それが、すずにとっての「世界」の標準仕様だった。
だから、三宮の街は、何もかもがバグったように速すぎる。
すれ違う人々のヒールの音も、右折していく市バスの排気音も、ビルの狂ったような高さも、切り取られた空の狭さも。すずだけが、静留まった奈良の盆地からうっかり時空を超えて運ばれてきてしまった、場違いな小鹿の置物みたいだった。
神戸国際会館を過ぎ、花時計のあった交差点のあたりで、佐伯が唐突に鋭いブレーキをかけた。
「はい、到着。ここが戦場や」
佐伯がアイスコーヒーの容器で示した先には、どう見てもオフィスビルにしか見えない、総ガラス張りの巨大な高層建造物がそびえ立っていた。
看板には、控えめな明朝体で、<私立 黎明高等学園 神戸校>とある。
「え……ここが、高校、ですか?」
すずの口から、情けないほど間の抜けた声が漏れた。元々舌ったらず気味な喋り方に、緊張も加わって、まるで子どもが喋っているようだ。
高校というより、外資系のIT企業か、あるいは最先端の総合病院に見える。自動ドアの付近には、これから商談に向かいそうなビシッとしたスーツ姿の大人もいれば、コーヒーのプラスチックカップを武器のように握りしめた若い女の子たちもいた。首にタオルを巻いた作業着の男の子が、慣れた手つきでスマホの画面をフリックしている。見るからに日本人ではない子たちがトイレの前で固まって座っている。全員の背景がバラバラすぎて、脳の処理が追いつかない。
「思いっきり『騙された!』って顔しとるがな」
佐伯がようやく振り返った。その目は眠そうだが、妙に光っている。
「お、思いました。校庭とか、そういうのは……」
「ない! グラウンドなんかあるわけないやん、一等地やぞ! 地価なめんな!」
佐伯は吐き捨てるように言うと、そのまま迷いなく自動ドアの奥へと吸い込まれていった。
すずも慌ててその後に続く。
中は、おそろしくピカピカだった。
大理石のように磨き上げられた床には、すずの履いている安物のスニーカーの底が反射している。受付には本物の警備員が立っており、奥には映画館のような静けさをたたえたエレベーターホールがあった。鏡ばりのエレベーターの扉に、すずが映る。
ベージュのダッフルコート、中には白いシャツに、薄いピンクの大きめのカーディガン、ベージュのキュロット、それに黒いタイツに黒いスニーカーを履いていた。胸の辺りまで伸びている髪は色素が薄く、染めてはいないが陽が当たると茶色く見えた。前髪は眉毛の上で切られていて、セットも何もしておらず、ただサラサラと揺れている。佐伯は、16歳らしい化粧っけのない素朴さを感じ取って、心配そうに眺めた。
すずはキョロキョロとあたりを見渡した。
どこを見ても、すずの知っている「学校」の記号が足りない。
木造の渋い校門がない。
放課後に泥だらけになるグラウンドがない。
朝、みんなで「おはよー」と言い合う昇降口がない。
湿った砂の匂いがする下駄箱がない。
そして、何より――指定の上履きに履き替えるという、あの神聖な儀式を行う場所がない。
学校とは、外の世界の汚れを一度落とし、内側の空気をまとい直すための結界のような場所だと思っていた。けれどここは、俗世のど真ん中からそのままエレベーターで直通するシステムらしい。
佐伯が、上向きの三角ボタンを親指で小気味よく叩いた。
「君のクラスは二十五階やで!」
に、にににに、25階!?…とは言えないので…
すずは、黙ってエレベーターの上部に表示されたデジタル数字を見上げた。
高校の教室が、二十五階。もはや鳥の生息域ではないか。
「鈴木すずさん」
佐伯が急に、低いトーンで名前を呼んだ。
「はいっ」
「緊張しすぎて、さっきから呼吸が浅いぞ。過呼吸で倒れられたら俺の始末書が増えるからやめろ」
「……き、緊張、してます。すごく」
「せやろな。顔がもう、奈良の山奥から密猟されてきた震える小鹿そのものや。今にも檻の隙間から逃げ出しそうな目をしてる」
すずは、真面目すぎるがゆえに、脳内で必死に正確な情報を検索した。
「ああああの……わ、私の住んでいた地域には、野生の小鹿は、そんなにいないんですけど」
「知らんがなそんなピンポイントな生態系! 奈良言うたら一律で鹿まみれやと思うのが兵庫県民の総意や!」
佐伯のツッコミの音量が大きくて、すずは思わず首をすくめた。当の本人はまったく気にした様子もなく、空になったアイスコーヒーの氷をカラカラと鳴らしている。
チーン、と電子音が鳴り、重厚なエレベーターの扉が開いた。
すずは小さく息を吸い込み、佐伯の大きな背中に隠れるようにして乗り込んだ。
扉が静かに閉まる。
恐ろしいスピードで数字が上がっていく。
五、八、十一、十四……。
気圧の変化のせいで、耳の奥がツンと詰まった。
ガラス張りの壁の向こうに、神戸の街が急激に広がり始める。ビルの屋上に設置された給水タンク、高架道路をミニカーのように走るトラック、白い雲の切れ間。眺めているうちに、すずの意識は少し引き戻された。
(うぅ!思ってたんと違いすぎるっ…)
奈良にいた頃、すずの世界はいつも「山」に囲まれていた。
山は動かず、いつでもそこにいた。
父がまだ優しい声で笑っていて、母がまだ夜中にキッチンで泣いていなくて、すずがまだ、自分の家族という「帰る場所」が永遠に続くものだと信じ込んでいた頃。学校へ行く通学路の向こうには、いつも同じ山並みが見えていた。
父は奈良に残った。
すずと母ではない、別の誰かを選んで。
考えないようにしていたのに、エレベーターの上昇スピードが速すぎて、心の底に沈殿していた重いものが、慣性の法則で一気にせり上がってくる。数字が上がるたびに、自分という存在の根っこが引きちぎられ、見たこともない場所へ宇宙飛行士のように放り出されていくような恐怖があった。
二十五階。
かすかな振動とともに、エレベーターが止まった。
扉が開く。
その瞬間、すずは完全に言葉を失った。
廊下の先にある、天井から床まで続く巨大な一枚ガラスの向こうに、圧倒的な質量を持った「海」が広がっていた。
きらきらと容赦なく輝く青い水面。その向こうには、人工の島らしき巨大な影が浮かんでいる。さらに遠く、空と水の境界線を引きちぎるように、白い巨大な橋が一本、どこまでも伸びていた。
海だ。
本物の、海だ。
奈良県民にとって、海とはスマホの向こう側にあるものか、あるいは夏休みに一大決心をして高速に乗っていくところ。もしくは特急に乗り、何時間もかけて行く「イベント」の場所だった。地図の端っこに追いやられているはずの青いインクが、今、学校の廊下から当たり前のように見えている。
「……わぁ、すごい。海や」
語彙力を完全に失った呟きが、ぽろりと溢れた。
佐伯がそれを見逃さず、にやっと意地の悪い笑みを浮かべる。
「瀬戸内海で、ございまぁす!!」
佐伯はまるで自分の庭を自慢するかのごとく、大声で言い放った。
「さすが純度百パーセントの奈良県民。海へのリアクションが期待通りで素晴らしいわ。お前、合格や」
「ば、馬鹿にしてますか」
「褒めとんねん。海見てちゃんと感動できるのはな、この学校では一種の才能やねんぞ。初日にこの景色を見せといたら、だいたいの転校生は『あ、海綺麗やからもう一回来よかな』って、最初の三日は律儀に来る」
「そんな単純な理由でですか?」
「理由なんか何でもええがな。三日来たら四日目も来る。四日来たら一週間続く。学校へ来る足がつく。教育っちゅうのはな、そういうしょうもない地味なハメ技の積み重ねなんですよ」
佐伯は、まるで自慢のレシピを明かすシェフのような顔で言った。
すずは、もう一度だけ窓の外の海を見た。
海は、思っていたよりもずっと明るくて、広かった。あの白い橋の向こうには、すずのまったく知らない世界が果てしなく続いているのだろう。
ここは、奈良ではない。
父のいる場所でもない。母が毎晩のように溜め息を吐いていた、あの息苦しいリビングでもない。すずが知っていた、窮屈で、お互いの家庭環境を採点し合うような全日制の学校でもない。
定時制高校。
すずにとって、ここは完全に未知の場所だった。
それなのに、不思議と胸のつかえが少しだけ軽くなり、酸素が肺の奥まで届くような気がした。
「よっしゃぁ、行くぞ!小鹿ァ!!」
(こ、こじか!?)
心の中で思うだけで、何も言えずにいると佐伯が歩き出す。
廊下を進むと、そこは学校というよりは、大人の予備校と、ベンチャー企業と、小さな区役所の出張所をミキサーにかけて混ぜ合わせたような空間だった。
整然とした白い壁。
進路実績ではなく「給付金手続き」の書類が貼られた掲示板。
すりガラスの面談室。
窓際の自習スペースでは、ヘッドホンを首にかけた男子生徒が、海を見つめながら信じられないスピードでスマホの画面をタップしている。
やがて、中から蜂の巣を突いたような騒がしい声が漏れてくる教室の前で、佐伯が足を止めた。
すずの手のひらに、じっとりと冷たい汗がにじむ。
「最後にもう一個だけ、重要な警告や」
佐伯は引き戸の取っ手に手をかけ、今度はまっすぐにすずの目を見た。
「このクラスの連中を、お前の貧困な第一印象で判断するなよ。だいたい裏切られるからな」
「……第一印象、ですか」
「そうや。さっき言ったみたいに、土方の格好して寝不足で死にかけてるやつが、実は誰よりも真面目に自分の未来の設計図描いてたりする。メイクばっちりのギャルが、夜は家で離乳食作って弟の面倒見てたりする。ピアスだらけでモデルみたいな美形が、なぜか社会の歴史と制度の話だけ狂ったように点数高かったりする」
(ちょ、ちょっと意味がわかんない、情報量多すぎない!?)
佐伯はそこで言葉を切り、ふっと微かに声を落とした。
「ほんでな。一番おとなしそうで素朴に見える転校生が、ヘビーでややこしい事情を背負ってたりもする」
すずの心臓が、どくんと大きく跳ねた。
自分のことだ、と直感した。
両親の離婚、父の裏切り。母親の不安定な精神状態。
何も言っていない。まだ書類を出しただけなのに、このボサボサ頭の先生は、すずの心の奥にある「傷」をすべて見透かしているのではないか。
けれど、佐伯はそれ以上すずを追いつめるようなことはせず、ただにっと口角を上げた。
「まあ、気楽に行けや。水曜と木曜の午後だけ、お前らが『高校生』の記号を身にまとうための場所やからな。……よし」
(そんな前置きされて気楽にいけるわけないやんってちょっと待ってもう!?)
佐伯はそんなすぐの心の声など知る由もなく、ガラガラ!と勢いよく扉を開け放った。
「はいこんにちはぁーー!!」
地鳴りのような声が教室に突っ込んでいく。その圧倒的な声量に、すずは思わず一歩後ろに下がった。
教室内の一瞬の静寂ののち、すずの目に飛び込んできたのは、机の上に並ぶ無数の「カップ」だった。
アイスコーヒー、カフェラテ、氷の溶けかけた抹茶ラテ。それらが各机の上に要塞のように配置されている。高校の教室というよりは、テスト期間中の大学のフードコートか、あるいは深夜のファミレスのようだ。
そして、後の方の席。
午前中の現場仕事で完全に燃え尽きたのだろうか、作業員姿のまま机に突っ伏している男の子がいた。帽子を目深にかぶり、腕は教科書の上で力なく伸びきっている。
そしてその後ろの最後尾、窓からの強い光を浴びて、耳に丸いピアスをいくつもジャラジャラとつけた少年が座っていた。
小さな顔に、広い肩幅。
浅黒い肌に、涼しげで大きな、色素の薄い瞳。
サラサラの黒い前髪を真ん中で分けて、後に流し、綺麗な額を出している。冬だと言うのに白い半袖Tシャツにストレートのジーンズというシンプルな格好なのに、黙っていればどこか異国の映画に出てくる若い俳優のような、圧倒的な美貌があった。
作業着姿の男の子の横には、腰まで届く見事なロングヘアを揺らした女の子が、足を組んで笑っていた。韓国のアイドルのような華やかなメイク、洗練された私服。すずがこれまで同じ年齢のコミュニティでは見たこともないような、強いオーラを放つ美少女だった。
作業着。ギャル。ハーフのような美形。コーヒーのカップ。
その異様な空間に放り込まれたすずは、自分の地味な黒髪、アイロンの甘い白いブラウス、そして何も飾っていない爪を急激に意識し、恥ずかしさで指先が縮こまるのを感じた。
佐伯が出席簿を教卓にバシンと叩きつける。
「おい、新入りやぞォ! 注目!」
クラスの視線が一斉にすずに集まる。すずは緊張のあまり、右手と右足が同時に前に出そうになるのを必死でこらえた。
「鈴木すずさん。奈良の山奥から来ました。好きな食べ物は鹿せんべいではありません。以上、仲良くせえよ!」
(みじか!)
「短っ!!」
すずの心の声とほぼ同じに、あのロングヘアの美しい女の子が鋭いツッコミを入れた。
「ちょっと先生、紹介雑すぎるやろ! 嫌がらせ?」
「アホ。これ以上長く喋ったら、鈴木が緊張で蒸発する顔しとるから配慮したんや。見ろ、奈良の小鹿が二十五階の気圧に負けて完全にフリーズしとるがな」
教室からどっと笑いが起きた。
「あともう一個だけ言わせてくれぇ、名前の成分は90パーセントが<ス>や!
あ、あともう一個!瀬戸内海に圧倒されて小鹿のように震えておりましたぁ!」
今度はドカンドカンと笑いが起きた。すずは顔が爆発しそうに熱くなるのを感じ、心の中で(鹿せんべいだけは否定しないです……!)と激しく叫んだが、声にはならなかった。
すると、窓際にいたあのピアスだらけの美形が、口元を緩めて、少し低くて心地のいい声で言った。
「陸さん起きて。転校生やって。小鹿が海みて震えてたらしいで?」
「天馬、寝かせろ。今日の俺は電池切れじゃ」
机に突っ伏したままの作業着の少年が、地中から響くような声で答える。
「鹿は海行かんからな。基本、山や」
「奈良の鹿なら、たまに遠征するかもわからんで?」
「行かへんって。あいつら、せいぜい東大寺の前の商店街までや」
「陸さん、詳しいな」
「中学の修学旅行でケツ噛まれたからな。行動範囲は叩き込んである」
「わかった!あんた今日からバンビな!小鹿やから!!!」
最後にあの綺麗なロングヘアの女の子が声高に言って、また、教室が騒がしく笑った。
すずは、いきなり決められたあだ名にどうしていいかわからないまま、胸の前でぎゅっと拳を握りしめ、それから――小さく、本当に小さく笑った。
自分が想像していた場所とは、何もかもが違っていた。
もっと暗くて、もっとギスギスしていて、もっと自分が「普通のルート」から外れてしまった現実を、毎日お葬式のように突きつけられる場所だと思っていたのに。
二十五階の教室の窓には、遮るもののない青い海が見えた。
机の上には、それぞれの生活の匂いを残したドトールのカップや、メイク道具、勉強道具があった。
担任の先生はボサボサ頭のまま、全力の関西弁で生徒にツッコミを入れ、作業着の二十歳は鹿の行動範囲を真面目に語り、ピアスだらけの綺麗な男の子は、すずを見て優しく笑っていた。
ここは、普通の高校ではない。
けれど、すずは思った。
父の浮気。
母の家出。
そんな事情を抱えて出てきた。
元の学校のクラスメイトには、気楽には言えないこと。
多分、みんなも、あれこれ抱えてここにいる。
この水曜と木曜の午後だけ、私たちは
ここなら、誰の目も気にせずに、息ができるかもしれない。
多分……!!
リアクションやブクマなどいただけると嬉しいです。不定期更新です。書き溜めていたので割とサクサク出していこうと思っています。よろしくお願いします。




