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終わりから描く。〜JR甲子園口駅前のコンビニにて、小鹿は男子高校生に捕まった〜

 その日の夜。

 紗英は、一度帰ってきたが、職場のお別れ会があると言ってすぐに出ていった。


「今日はちょっと遅なるかも。ご飯、冷蔵庫にあるもん食べてもええし、足りひんかったらコンビニ行き。戸締まりだけはちゃんとしてな」

 そう言って、紗英は少しだけ綺麗な服を着て出かけていった。

 


 母は病院。 伯母は職場の人たちとお別れ会。 家には、すずひとり。


 リビングは、やけに静かだった。


 冷蔵庫を開けると、作り置きのおかずが少し残っていた。けれど、今日はどうしてもそれを食べる気になれなかった。


 父からのLINE。 土曜日に会わなければいけないこと。 天馬に映画を断ってしまったこと。 眼鏡橋の上で、天馬の顔からほんの少しだけ何かが消えたこと。

 全部が胸の奥で絡まって、うまくほどけない。


「……コンビニ行こ」


 すずは財布とスマホを鞄に入れ、家を出た。

 夜の駅前は、昼間とは少し違う顔をしていた。

 街灯の光。 

 コンビニの白い明かり。 

 自転車のライト。 

 帰宅途中の会社員。 

 部活帰りらしい学生たち。

 

 マンションから甲子園口駅前のコンビニまでは、すずらん通りと言う道を真っ直ぐ行けばつく。

 5分もかからない距離なのに、それでも、夜にひとりで歩くと、いつもより道が少し長く感じた。

 昼間と違って、焼き鳥の香りや、香ばしい魚、お酒やタバコの匂いが漂ってきた。 

 

 コンビニの前には、半袖の青いポロシャツに灰色のズボンの制服を着た体つきの大きな男の子たちが数人、座り込んでアイスを食べていた。

 

 みんな大きい。 声も大きい。 笑い声も、夜の空気に妙に響く。


(なんか、ちょっと怖いな……)


 すずは視線を落とし、少しだけ避けるようにして自動ドアへ向かった。

 その時だった。


「え? すーちゃん?」

「えっ」

 聞き覚えのある明るい声に呼び止められた。

 振り返ると、制服の男の子たちの中から、眼鏡をかけた少年がこちらを見ている。


「あ、圭太くん」

「あー…久しぶりです」


 葉鳥圭太だった。

 ベーカリーツバメの店長と真帆さんの息子。

 最近は朝練や塾の都合で、すずが出勤するよりも早く家を出てしまうらしく、しばらく顔を合わせていなかった。


「えー、誰々この子。圭太の友達?」

「俺んちのバイトのお姉さん。」


「え、めっちゃ小さい」

「白い」

「かわいい」

「僕ら圭太の友達!」

「こんばんはー!」

「こんばんはー!」


「あ、う、うん。こ、こんばんは……」


圭太は、しばらくすずを見ると、スッと立ち上がって、学校の前のみんなに立ちはだかった。


 次々に声をかけられ、すずは完全に圧倒されていた。

 さっきまで怖いと思っていた制服の男の子たちは、近くで見ると、ただ元気な高校生だった。

 でも、元気すぎて、やっぱり少し圧が強い。


「すーちゃん、どないしたんですか? こんな夜に。…一人?」

「あ、えっと……今日、伯母さんが遅くて。晩ご飯、買い、にきました……」

「そんな格好で?」


圭太が怪訝な顔をする。

すずは、え?という表情になった。


すずは、帰ってから一度着替えた。

大きめのTシャツに、短パンを履いていた。

Tシャツの裾から、短パンの裾が見え隠れして、そこから白い足が無防備に伸びている。


すずからしたら、普通の格好だったが、圭太から見ると露出が多かった。


「あー、僕、家まで送ります。」

「ええっ。だ、だめです、今お友達と一緒なんでしょ……?」


 すずは慌てて首を振った。


「女の子がこんな夜に一人でうろうろしたら危ないと思います」

「いや、でも……ち、近いし」

「ここ、飲み屋も多いです。だから、僕、家まで送ります」


 圭太は少しだけ首を傾げ、まっすぐすずを見た。

 その目に悪気はない。

 むしろ、ただ心配しているだけなのだとわかる。

 けれど距離の詰め方がまっすぐすぎて、すずはどう返せばいいのかわからなくなった。

 すると、圭太の友達たちが一斉に立ち上がった。


「あ、俺ら帰るわ」

「勉強せな」

「疲れたし」

「じゃあな圭太」


「えっ、ええ!?」

「おう、バイバイ。ありがとな」


 圭太が元気よく手を振る。

 友達たちは圭太にウィンクしながら、自転車にまたがって帰っていった。


(え、帰っちゃった……!?)


 圭太は当然のように、すずの横にぴったりと立つ。


「じゃ入りましょー」

「あ、はい……」


 二人でコンビニに入る。

 すずはおにぎりとサラダと小さなヨーグルトを選んだ。


「今日、晩飯一人ですか?」

「は、はい」


 圭太は、同じものを手に取った。


「一緒に食べましょ?」

「え、ええ?!」


「一人なんでしょ?」

「あ、あのそうだけど…ていうか圭太くん、それで足りる?」

「あと唐揚げ棒買います」

「やっぱり」


 すずが少し笑うと、圭太も笑った。

 レジを済ませて外に出ると、圭太が弾むような声で言った。


「僕の家で食べますか? すーちゃんの家で食べますか?」

「ええっ」


(葉鳥さんち、いきなり行ったら申し訳ないよ……。でも、私の家も……いや、伯母さんに聞かなあかんよね)


「あ、あの、伯母さんに聞くから、ちょっとだけ待って?」

「はい」


 すずはスマホを取り出し、紗英にLINEを打った。


 suzu:お友達が一緒に食べよって言ってくれてるの汗 suzu:おうちで一緒に食べてもいいかな?


 返事はすぐに来た。


 sae:もちろんいいよ! sae:リビングで食べや。私ももう少しで帰るからね。 sae:戸締まりだけ気をつけて。


「伯母さん、いいって」

「わぁ、やった〜 行きましょ! 家どこですか?」

「こ、こっち……」


 すずは、押し切られるような形で、圭太を家に案内した。

 圭太は自転車を押してついてきた。


(うう、なんか押し切られちゃった。家でゆっくりテレビでも見ようって思ってたのにな)


 けれど、圭太は玄関に入ると、きちんと靴を揃えた。


「お邪魔します!」


 声は大きいけれど、礼儀は正しい。

 リビングに通すと、圭太は鞄を端に置き、買ってきた袋をテーブルに並べた。


「いただきます!」

「い、いただきます」


 思っていたより、夕ご飯は楽しかった。

 圭太はよく喋る。

 学校のこと。 部活のこと。 塾のこと。 今朝、妹が牛乳をこぼして大惨事になったこと。

 真帆さんが双子のお腹を抱えて、最近ますます動きがゆっくりになってきたこと。

 話がぽんぽん飛ぶのに、聞いていて疲れない。

 すずは少しずつ、胸の奥に溜まっていた重たいものが薄まっていくのを感じた。

 食べ終わったあと、圭太が唐揚げ棒の串を袋に入れながら聞いた。


「すーちゃん、なんか元気なかったですよね」

「えっ」

「コンビニ前で見た時。なんか、しょんぼりしてました」

「そ、そうかな」

「そうです」


 圭太はあっさり言った。


「なんかありました?」


 すずは少し迷った。

 父のことは、まだうまく話せない。

 天馬のことも、話せない。

 でも、進路のことなら言える気がした。


「あのね。最近、大学とか、進学とか、仕事とか……そういうのを考えてて」

「はい」

「でも、どう考えたらいいのか、よくわからなくて」

「進路ですか?」

「うん。大学ってお金かかるし。ママも入院してるし。私、何になりたいのかも、まだちゃんとわからなくて」


 圭太は、口を挟まなかった。

 すずが言葉に詰まっても、急かさず、最後まで聞いてくれた。

 それが少し意外だった。

 圭太は明るくて、勢いがあって、距離が近い。

 でも、人が真面目に話している時は、ちゃんと聞く子なのだ。


「うーん」


 圭太は腕を組んだ。


「僕らの学校、一応進学校なんで、そういう話はクラスの先生がよくします」

「そうなんだ」

「はい。今日聞いたのは、終わりから描いたらいいって」

「……終わり?」

「はい。自分がどんな人生を送りたいか、考えるんですよ」

「どんな人生……」

「そうです。例えば僕やったら」


 圭太は指を折りながら言った。


「絶対に土日祝休みの仕事がいいです。家族で過ごしたいから」

「家族で」

「はい。あと、年金とか退職金はしっかりもらいたいです。福利厚生もしっかりしてて。それでいて、やりがいのある仕事がしたいです」


 すずは、うんうんと頷きながら聞き入った。


「で、大事なのは、自分ができることと、やりたいことが何かも考えることやって、担任が言うてました」

「自分ができることと、やりたいこと」

「はい。憧れだけで決めずに、自分が得意なことで、能力を活かせる仕事が何か」


 すずは少し考えた。


「でも、やりたいのが、そうでないことやったら、どうするん?」

「想像するんですよ」

「想像?」

「例えば、僕はピアノができないです」

「うん」

「でも、ピアニストはかっこいいなって思う。だからってピアニストを目指したら、舞台に上がっても、何も弾けずに終わるか、観客に聞かすのも申し訳ない曲を披露して終わりです」


 すずは思わず笑ってしまった。


「た、たしかに」

「もちろん、そこから死ぬほど練習するなら別です。でも、それには時間もお金も才能もいる。だったら、かっこいいなって思う気持ちと、自分ができることは、ちょっと分けて考えた方がいいって」

「すごい……」


 すずは、心から感心した。


「圭太くんって、すごいんだね。私より年下なのに、えらいなぁ。すごい」


 頬杖をついて、圭太を眺めながら言う。

 圭太は一瞬だけ黙った。

 それから、ふっと笑って、同じように頬杖をついた。


「偉いのは、すーちゃんです」

「え?」

「一生懸命考えてる」


 すずは目をぱちぱちさせた。

 圭太も、なぜか同じようにぱちぱちさせた。


 そして二人で、少し笑った。


「えへへ」

「ふふふ」


 すずは、落ち込んでいた気持ちが、少しだけ元気になっていることに気づいた。


「あ! あのね、クッキー焼いたのがあるの! 今日のお礼に、あげるね」

「ええっ、嬉しいなぁ」


 すずは冷蔵庫の方へ行き、瓶に入れていたクッキーを持ってきた。

 天馬に渡したものと同じアイスボックスクッキー。

 市松模様と、ハートの形。


「これ、よかったら」

「うわ、すご。めっちゃ可愛い」


 圭太は嬉しそうに、はにかんだ。


 

 そして、大事そうに鞄にしまう。


「あ、お礼に僕もいいのあげます」

「え?」


 圭太は鞄の中から、無骨なデザインのシャープペンシルを一本取り出した。

 黒くて、少し重そうで、飾り気はない。


「これね。こないだ塾でランキング入りして、もらったんですけど。同じの持ってるんであげます」

「い、いいの? こんな高そうなやつ……」

「高くないですよ。これ、真っ黒やし可愛くはないけど、使いやすいから。どうぞ?」

「あ、ありがとう」


 すずが受け取ろうとした時、圭太は「あ」と手を止めた。


「うわー、思いっきり塾の名前が印字されとる。待って、僕が使ってる方あげますね」

「え、でも」

「こっちの方がいいです」


 そう言って、圭太は筆箱から全く同じ、けれど印字のないシャープペンを取り出した。

 少しだけ使い込まれていて、手になじんでいる感じがした。


「はい、どうぞ」


 すずは、両手でシャープペンを受け取った。


「あ、ありがとう、圭太くん」

「どういたしまして。楽しかったです」


 圭太は立ち上がった。


「もう帰ります。伯母さん帰ってくる前に。男が長居してたらびっくりすると思うんで」

「え?うん。ありがとう」

「また、明日」

「うん! また明日!」


 圭太は玄関で靴を履き、元気よく手を振って帰っていった。

 扉が閉まると、リビングはまた静かになった。

 でも、さっきまでの静けさとは少し違う。

 すずは、手の中の黒いシャープペンを見つめた。

 自分がどう生きたいか。

 それによって、選ぶ職業も変わってくる。

 そんなことは、考えたことがなかった。

 やりたいこと。 できること。 憧れ。 お金。 休み。 家族。 やりがい。


 全部、ばらばらに考えていた。

 でも、本当は繋がっているのかもしれない。

 すずはもう一度ノートを開いた。

 そして、圭太にもらったシャープペンで書き始めた。


 ――――

 楽しくて、やりがいがあること。

 そして、自分のできること、やっていて楽しいことを、仕事にする。

 どんな生活で、 どんな給料で、 どんな休みで、 そういうことも考えて、進学先を決める。

 終わりから描く。

 自分がどんな大人になりたいかを、先に考える。

 ――――


「うん! いい感じ!」


 すずは、少しだけ胸を張った。

 もう一度、圭太にお礼が言いたくなって、ふと気づいた。


「あ、連絡先、知らないんだった」


 少し考えて、すずはインスタグラムを開いた。

 ノートに、ありがとう、と書く。

 その横に、圭太にもらった黒いシャープペンを置く。

 写真を撮った。


 ――――

 使いやすいです!

 ♯ありがとう ♯大事に使います

 ――――


 投稿すると、すぐにいいねがついた。


 keitatubame:僕もありがとうございます! ご飯、楽しかったです!


「あ、やっぱり見てくれてた」


 すずは少し笑った。

 よく見ると、圭太からはすでにフォローされていた。

 気づいていなかっただけだったのだ。

 すずは、すぐにフォローを返した。


 suzu:また、遊びにきてね!

 keitatubame:はい!


 すずは、少し沈んでいた自分が、立ち直っていることに気づいた。


「よし! お風呂入って早く寝よう!」


 すずは立ち上がって、お風呂場へ走っていった。






 そのころ。


 尼崎のマンションの一室で、天馬は一人、カップ麺をすすっていた。

 部屋の中は静かだった。


 テーブルの上には、コンビニで買ったカップ麺と、半分だけ残った水。

 スマホ。 財布。 使い古したイヤホン。


 テレビはついていない。

 エアコンの低い音だけが、部屋の隅で鳴っている。


 晩飯を抜くな、と陸に言われたので、一応食べている。 でも、作る気にはならなかった。

 カップ麺の湯気が、ぼんやりと上がる。


「……だる」


 低く呟いて、麺をすする。


 今日、映画に誘った。 断られた。

 それは仕方ない。 すずの母親は入院している。 父親も来るらしい。 家のことも、バイトも、学校もある。

 そんなこと、わかっている。

 わかっているのに、眼鏡橋の上で、


 ――今、そんなことしてる場合じゃないかも。


 と言われた時、胸の奥が少しだけ冷えた。


 自分が浮かれていたみたいで、馬鹿みたいだった。

 天馬は箸を止め、スマホを手に取った。

 何となく、インスタを開く。


 すずの投稿が上に出ていた。


 ノートの上に、黒いシャープペンシル。 横に、小さく書かれた「ありがとう」の文字。


 ――使いやすいです! ――♯ありがとう ♯大事に使います


 天馬は、その写真をじっと見た。


 黒いシャープペン。 すずの字。 ありがとう。


 知らないものだった。


 コメント欄を開く。


 ーーーーー

 keitatubame:僕もありがとうございます! ご飯、楽しかったです!

 ーーーーー


 天馬の指が止まった。


「……ご飯?」


 低い声が、部屋に落ちた。

 もう一度、コメントを読む。


 僕もありがとうございます。 ご飯、楽しかったです。



 ご飯。

 誰と。 どこで。


 ーーーーー

suzu:また、遊びにきてね!

keitatubame:はい!

 ーーーーー


………遊びに、きてねって。

家に読んだってことか?



天馬は、カップ麺の横に置いたスマホを見下ろした。


keitatubame


やめろ。

心の中でもう一人の自分が言うのに。

天馬はタップしてしまった。


学ラン姿で、両親と入学式の記念撮影をしている投稿。

その学校は、自分でも知ってるほどの偏差値が高くて有名な高校だった。

それだけでもドス黒いものが浮かんでくると言うのに。


パン屋の前で、妹や弟と、パンを頬張っている写真。

塾で、友達とふざけている写真。

学校で、塾で、家で、


これ以上ないほどに幸せで、楽しそうな日々がそこにあった。




そして、最後にクッキーの入った瓶が、投稿されていた。

2枚目に、リビングらしきテーブルの上で、2つ並んだおにぎり。

ヨーグルト。

その向こうに、今日、すずがきていたカーディガン。



天馬は、スマホを伏せた。



 葉鳥圭太。

 パン屋の息子。 火傷の薬を学校まで持ってきた男。 距離感の近い、眼鏡の、爽やかなやつ。

 すずのことを、すーちゃんと呼ぶやつ。


 天馬は、無言でカップ麺をすすった。

 味がしなかった。


 今日、すずは映画に行けないと言った。 そんなことしてる場合じゃない、と言った。

 その夜に、圭太とは飯を食ったのか。

 そう思った瞬間、自分でも嫌になるくらい、胸の奥がざらついた。


「……別に」


 誰に向けたわけでもなく呟く。

 別に、すずが誰と飯を食おうが関係ない。 誰にシャーペンをもらおうが関係ない。 誰にありがとうと言おうが関係ない。

 関係ないはずだった。


 けれど、スマホの画面の中で、すずの「ありがとう」は、まっすぐ圭太に向いているように見えた。


 カップ麺の麺は、少し伸びていた。

 箸で持ち上げると、湯気が白く揺れる。

 部屋の中は、一人分の音しかしない。

 水族館で買ったシャチのキーホルダーが、鞄の横で小さく揺れていた。

 すずにもらったクッキーの空き瓶は、捨てられずに棚の上に置いてある。

 あの時、すずは自分にクッキーをくれた。 大事に食べる、と言った。 嬉しかった。


 でも、今日、先生にも渡していた。

 自分だけじゃなかった。

 それだけのことだ。

 それだけのことなのに、胸の奥が重い。


 天馬は、伏せたスマホをもう一度取った。


 すずの投稿に、いいねを押そうとして、指が止まる。

 押せなかった。

 代わりに、LINEを開く。

 すずとのトーク画面。

 最後のやり取りは、昼間の映画の誘いで止まっている。

 何か送るべきか。 

  土曜、迎え行く。 父親のこと、無理すんな。


 どれも違う気がした。

 今送ったら、たぶん、重い。

 天馬は画面を閉じた。


「……寝よ」


 まだカップ麺は残っていた。

 けれど、もう食べる気がしなかった。

 天馬は立ち上がり、伸びた麺をそのまま流しに捨てた。

 カップを潰してゴミ箱に入れる。


 部屋に戻る途中、棚の上の空き瓶が目に入った。


 白いリボンが、まだ結ばれたままだった。


 天馬はそれを少しだけ見て、目をそらした。


 ベッドに倒れ込む。

 天井を見上げる。

 映画に誘うのは、早かったのかもしれない。

 すずには今、それどころではないことがたくさんある。

 それはわかっている。


 でも。


「……俺やったら、あかんのか」


 声に出してから、自分で少し驚いた。


 あかんとか、あかんくないとか。 そんなところまで、もう考えている自分に。

 天馬は片腕で目を覆った。




 ぐちゃぐちゃの、ドロドロで、ぐちゃぐちゃ。

 言葉にできない、悲しい気持ち。




 エアコンの音だけが、静かな部屋に残った。


リアクションや、☆☆☆☆☆を★★★★★に変えていただけると、執筆の励みになります^^

感想、ご指摘、ブクマも大歓迎です!

毎日更新予定です。完結約束、ハッピーエンドです(^ ^)

よろしくお願いします!

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