クッキーの行く末。
階段では玲花と天馬がまだしゃべっていたが、本鈴が鳴り、二人は慌てて教室に戻ってきた。
「あれ! すず、いつの間に終わってたん!?」
「あ、エレベーターの方から帰ってきちゃってた。ご、ごめんね」
「すれ違いかー。まあいいや、単位大丈夫やった?」
「う、うん」
すずはまともに玲花の顔を見れなかった。
あれ、なんだ、この気持ち。
二人がお付き合いしてることだって、普通にありえるでしょ……?
まだ、ちくちくする胸を、すずはコントロールできなかった。
放課後、すずは帰る準備を始めた。
玲花は天馬を少し見て、ウィンクを送る。
天馬が頷く。
(二人だけの、何かの合図なのかな……)
そう思うと、すずは胸が痛んだ。
(仲良くなったつもりでいたのに、私には、内緒なんやね。二人が……)
鞄の中で、こつりと爪が当たる。
クッキーの瓶だ。
玲花と、陸の分。
(あ、忘れてたこれ……でも、私今日は玲花ちゃんの顔が見れないよ)
すずは、しばらく鞄を見つめて、そして考えた。
(天馬くんは誰にでも優しいから。だから玲花ちゃんとの時間を削ってまで、一緒にいてくれるのかもしれない。私、何か勘違いしてた……かも)
「バンビ、どした? さっきから固まって」
机に突っ伏していた陸があくびをしながら起き上がった。
すずは思い切りびくりと体を震わせた。
そして俯いた。
「え? なになに? どないしたん?」
陸がゆっくりと近づく。
天馬はその時になってようやく、すずの様子がおかしいことに気づいた。
陸は、なんだ? という顔をして、立っている。
陸の席はすずの斜め前。
そして玲花は、すずの真前だ。
「あ、ああああの、今日は、あの、私、少し残って、あの、先に、帰っててくだ、さい」
最後の方は声が出なかった。
「は? なに急に。昨日は一緒に帰ろうって約束したやん」
天馬の声が低くなる。
すずは鞄の中で、クッキーの瓶を握りしめた。
(なんでクッキーあげるだけやのに、こんなに緊張するんやろう! さらっと渡すはずやったのに! 私、三人の友達になれたつもりでおったから、だから……)
その時だった。
「おー、お前ら何してんねん。もう部屋閉めるど〜」
佐伯が入ってきた。
気づけば教室には、四人しか残っていなかった。
「鈴木?」
佐伯が様子がおかしいことに気づいて、訝しげに三人を見つめると、陸は両手を上げて、わかりません、と合図した。
佐伯はすずの前に立ち、膝に両手をついてかがんだ。
「どないしたぁ? しんどいんか? あれ、それなんや、その瓶は。握りしめて」
その瞬間だった。
すずはバッと佐伯の胸にクッキーの瓶を押しつけた。
「お?」
「こ! これはいつもの御礼の品物でございますので、よかったら食べてくださいー!! 帰ります!!!」
すずの顔は耳から首まで真っ赤に染まった。
「ええええっ! なんや! え!? クッキー!?」
「か、かかか、帰ります!!!」
すずは、鞄を胸に抱いて、走り出した。
教室を飛び出ると、エレベーターまで猛ダッシュし、閉じかけたエレベーターにシュッと入り込んだ。
天馬は呆然として、佐伯の手に握られているクッキーの瓶を見た。
陸と玲花は、天馬と佐伯を交互に見て、そして、あちゃーと顔を顰めた。
「うわ。うまそうやな。そうか、あいつパン屋でバイトしてるから、こんなんもお手のものやな。お前らも貰ったか?」
陸と玲花は、ふりふりと顔を振った。
「えー! 俺だけ!? だから緊張してたんかいや。ま、これは恩師の特権やな! ありがたく頂くわ! お前らはよ帰れよ!」
「先生、さすがバツイチなだけあるっすわー」
「あーね」
陸と玲花が空気の読めない男に向かって、引いた目で佐伯を見たが佐伯はそれに気づかず、瓶を眺めて嬉しそうにしていた。
佐伯は三人を教室から出すと、鍵を閉め、意気揚々と消えていった。
天馬は、廊下の大きな窓から見える瀬戸内海を見つめた。
エレベーターは、一階に向かってどんどん降りていっている。
「俺だけにくれたんやと思ってた」
ぽつりと呟く。
「ドンマイ」
陸が肩を叩いた。
玲花が感心したように言った。
「わー、すず。真っ赤やったなぁ。わざわざ残って先生に渡すとか、まるで告h……むぐっ!?」
陸が慌てて玲花の口を塞いだが、遅かった。
天馬は口に手を当てて、固まっている。
「……先生か。完全に、対象外か思ってたわ」
ちーん。
一階に到着したすずは、走り出した。
(あーもう意味わからん私! 教室飛び出しちゃった! 気まずいよー!!!)
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