学校の評判?
「ただいま、おや3人でなに食べてるんだい?」
アイスを食べ終えるころ父とマミさんが帰宅した。
「おかえり、父さんとマミさんのぶんもあるよ」
「嬉しいありがとう、昼に買おうか迷った季節限定のアイス! 柊也さんもこっちがいい?」
「味見したいな、じゃあ夕食のあとで半分ずつ頂こう」
「ふふ、そうね」
父とマミさんはとても仲が良さそうに夕食のつくり置きをテーブルへ並べている。ぼんやり眺めていたら両側の兄弟がもたれかかってきた。体が大きくて重たい、チャンネルを勝手にスポーツ番組へかえたソウマが寝ころび圧しつぶされた。
「ソウマ、寝ころぶならラグの上にしろよ! ユウマ重い、はなれろ!!」
まくらにされた俺が叫べば、兄のユウマも容赦なく体重をかけてくる。こういうところは兄弟間の対抗意識があって、俺は兄弟にプレスされて細くなった。
「あらあら、3人がけのソファーじゃ窮屈ね。家のも持ってきた方がよかったかしら?」
「父さんの時代から使ってる古いソファーだから、手すりが硬くて座りにくいだろ? そうだマミさん、今度の休みに新しいのを見にいこう」
ヤツらの重みで変形する俺の苦労をよそに、親たちは食卓でなごやかに会話していた。
◆◆◆
「おーい楓、カエデってば!」
トモヤが目のまえで手をふっていた。ぼんやりしていた焦点が合うと、ミズキがこちらを覗きこんでる。
「トモヤのいうとおり重症だね。カエデ、眠れてる?」
「眠れてるけど、毎日が嵐みたいで……」
おだやかな内海しか知らなかった小魚が外海を泳ぐようだ。ユウマ、ソウマという荒波に揉まれ振りまわされている。父やマミさんより兄弟の顔ばかり浮かび、頭をかかえて邪念をふり払った。
「そうそう、坂木兄弟のアニキの方はここの2年生だろう? 評判を調べてきたぜ、興味ある?」
自称、情報通のトモヤがメモ帳をかざしながらニヤリと笑った。俺が抱えていた頭を上げるとメモ帳の内容を読みはじめる。
「成績優秀でクラスの委員長、部活には所属してないがスポーツ万能、生徒会に推薦されたけど断った。部活と生徒会にかんしては家庭の事情ってやつだな。人あたりがよく紳士で甘いマスク、女子には激モテ。きのうも校舎ウラで告白されたらしいぞ……くっうらやましい」
目頭をおさえたトモヤがなげく。
2年の教室へ行ったことはないけど、女子に囲まれるユウマは想像がつく。しかし女子たちもべったり背中へ張りつかれ、小言を聞かされても平気だろうか。
「人あたりがいい? 紳士……?」
「男子にも聞いたがすこぶる評判は良かった。男として完敗だな、まあ気を落とすな」
完敗なのは家事当番の初日でイヤというくらい思い知った。だけどトモヤの情報を聞くほど俺の知ってるヤツとはかけ離れている。高校にいるときのユウマに興味をもった俺は席を立った。
「まだクラスに残ってるかな、何組?」
「2-Aだ。まてまてカエデ、俺も連れてけっ」
「2人とも待って、ぼくも行く!」
調査のため2年のクラスへむかう。上級生の教室は1年の俺たちにとって近寄りがたい場所、3人でかたまりになって廊下をすすむ。ホームルームがおわり後ろの扉から生徒がでてきた。
ちょうどいい柱をみつけ、身を隠して彼の姿をさがす。
「カエデ、ぜんぜん隠れてないぞ! あ、いた」
「うわっすごイケメン、あんなのが家にいるの!? 僕だったらストレスで失神しそう」
トモヤとミズキの声が背中からきこえる。1年生が3人重なり柱へ張りついているものだから、通りすぎる生徒は怪訝な視線をむけた。
ヤツはクラスメイトと会話している。兄弟間の剣呑さやイジワルな態度はいっさいなく、にこやかに笑う彼がそこにいた。あまりの灰汁のなさに別人に思え、ここで見た人物は忘れることにして踵をかえした。
トモヤとミズキが口を開けたままこちらを見ている。正確には俺のうしろ、寒けを感じた瞬間、肩をつかまれた。
「カエデじゃないか、こんなところで何してるんだい?」
まぶしい優等生の笑顔、けれど目の奥は笑っていない。肩へおかれた手が重く俺は確信した。背後にいるのはネコをかぶった猛獣、まぎれもなく家のユウマだった。




