兄とケンカ
家へ帰ったら、玄関でユウマが腕組みして待っていた。すこしだけ不機嫌な視線は俺のうしろへ向けられる。
「アイスくらい夕食前に買いに行けただろ?」
ユウマは弟に対して厳しい、兄弟といってもお兄ちゃんが弟を可愛がる仲でもないようだ。ソウマも兄とは最低限のコミュニケーションにとどめている。
「俺がいっしょに出かけたわけだし、そんな厳しく言わなくてもいいだろ?」
「関係ない外野は黙っててくれないか、あとで困るのは俺と母さんだ。ソウマも分かってて声かけたんだよ」
ソウマは体は大きいけど中学生、坂木家のルールがあるのだろうけど厳しい兄じゃ頼みごとも言えないのはあたりまえだ。それ以上に腹が立ったのは『関係ない外野』と言われたこと。俺も多少なりに壁をつくっていたが、ユウマは俺や父のことを疎外している。母のために『ここに居てやってる』という態度が鼻につくのだ。
アイスを買って帰り、ユウマとも仲良くできると期待した俺がバカみたいだ。
「俺だって嫌だったけど努力はしてたんだ! 俺が関係ないってんなら、この家からさっさと出てけよ!!」
とうとう爆発してしまった。持っていた袋を押しつけ、2階へ駆けあがり部屋の扉を閉めた。
父の提案で受けいれた俺が寛容じゃないといけないのに、平穏な暮らしを壊され溜まった苛立ちをぶつけてしまった。
暗い部屋へ縮こまり、ため息を吐く。
飛びだした言葉は返らない。出ていけなんて偉そうに言ったけどここは父の家、俺だって厄介者にはかわりない。こんなことでマミさんとの関係がくずれてしまったら父は悲しむにちがいない。
慣れない生活にムリをしている自覚はあった。ユウマが母のためなら、俺も父のため、彼らへ怒りをぶつける資格はない。俺も受け入れてやったという態度が出ていたのだろうかと、後悔や複雑な思いがめぐる。
「はぁ、どうしよう……」
あんなことを言った手前、兄弟にはあわせる顔もない。しばらく暗い部屋でふさぎ込んでいると小さく争う声がした。音源はドアの外。
「おまえだって最初は嫌がってたろ?」
「俺は家事当番が減るから賛成した。ユウマがチクチクと小言を言うせいだ。だいたい猫かぶっても本性まるだし」
「それはおまえとちがって反応が……ってソウマだってアイス買うために連れ出したろ!?」
ひそひそ争う声はドアのすぐ向こうから聞こえる。聞き耳を立てていた俺はドアを開ける。
「「あ……」」
ユウマとソウマがドアの向こうにいた。2人ともばつが悪そうに目をそらし頭を掻く。俺もなんて言ったらいいか分からなくて沈黙した。
「みんなでアイス、食べない?」
「……うん」
口をひらいたのはユウマだった。ケンカした友だちが謝りにきた気まずさ、うなずいた俺は坂木兄弟といっしょに階段をおりた。2人のうしろ姿を見ていたら階段の天井が低くみえる。
ユウマが冷凍庫を開けた。
「カエデはどれがいい?」
ちいさな子に話しかけるような優しい声だった。本当はユウマに選んでもらいたかったけど、チョコクリームのアイスを手にとる。
ソウマも食べずに待っていた。兄弟は俺をはさんで両脇へ座った。アイスがそれぞれの手に渡り、俺がふたを開けてもそもそと食べはじめたら2人も開封した。ユウマはバニラ、ソウマは板チョコ入りの大きなモナカアイス。
「おいしい?」
俺が買ってきたアイスだけどユウマが聞いてくる。無言でうなずけば、ユウマもバニラアイスをすくって口へいれた。
「あのさ――――」
ユウマがなにか言いかけたとき、反対側から板チョコを噛みつぶす音が盛大に聞こえた。溶ける間もないはやさでソウマがモナカアイスを頬張った。またたく間に食べた彼はこっちのアイスを覗きこむ。
「それ、うまい?」
「え? うん、おいしい。ひとくち食べてみる?」
「食べる」
スプーンですくい差しだせば、大口を開けたソウマがかぶりつく。
「ソ~ウ~マ~」
ユウマがうらめしげに唸った。ソウマはお構いなしにチョコクリームアイスを味わっていた。
俺は本立てにはさまれた本みたいな状態、舌でとける甘いアイスはいつも1人で食べる味とは違う気がした。




