弟とコンビニ
父もマミさんも帰りがおそく夕食は息子たちだけ。兄弟のにぎやかな食卓というより微妙な緊張感がただよい、もくもくと箸と口を動かしている。
育ちざかり3人だから唐あげとか出てきそうだけど、ユウマの料理は古風な和食だった。根菜の煮物に焼き魚の大根おろしぞえ、おみそ汁に青菜の和えものがならぶ。肉が好きそうなソウマがなにも言わず、白飯を大盛りにして食べてる。
俺はいままで自分が食べたいものを作っていた。
食事はなにを出されても文句を言わない。それがソウマの水っぽいカレーや気分の乗らない食事でも、この家で仲良く暮らすルールのひとつ。
爺ちゃんが生きてた頃、母はこんな料理を作っていた。俺の料理を美味しいと言ってくれる父も、バランスが取れてるこっちのほうが好きかもしれない。ユウマの料理をほめていた父を思い出し打ちのめされる。
最初はマイホームから追い出してやろうと思っていた。だけど俺より家事もできるし父も楽しそうだ。父にとって必要なのは俺ではなく、彼らなのではないだろうかとちょっと落ちこむ。
気落ちした俺がリビングで洗濯ものをたたんでいたら、食器を洗ったソウマがソファへ寝ころがる。ヤツが寝ころぶと座面が占拠される。そしてソファには俺という先客がいる。
「ソーマ! むりやり座んな!」
ぎゅうぎゅうと押し合いへし合い、バスケ部のソウマは多少触れようがぶつかろうがお構いなし、めずらしくスマートフォンも持たず俺が洗濯物をたたむところを見てる。見てるだけ、坂木兄弟は当番以外の家事はしない。
以前は俺と父の分だけだったけど、家族がふえれば服も山盛り。
「見てるなら手伝えよ」
「アイス」
「?」
「アイス買いに行きたい、コンビニ」
さっき食べたばかりなのにお腹が減ったようだ。中学生のソウマは夜間1人での外出は禁止されていて同伴者が必要だ。
「これ手伝ったら一緒にいってやる」
「……」
取引をもちかけた。しばらく見ていたソウマは側にあった靴下をたたむ。手元にあるものしか畳まないのでソウマの方へ寄せると手伝いはじめた。2人で黙々とたたみ各部屋へもっていく。
ユウマは風呂へ入り不在だった。片づけ終えた俺たちは外出の準備をする。パーカーをはおったソウマと夜道を歩く、涼しい風が頬をなでた。家でひとり家事をしていたときは夜間に外出したこともなかった。外灯が行く道を照らし、ときおり帰宅する車が通りすぎる。新鮮に感じて夜の空気をいっぱいに吸いこむ。
ふり返ればソウマはぴったりついて来てる。健気についてくるカルガモのヒナ、ではなく大きな番犬。
5分ほど歩いたらコンビニの灯りが見えた。
入店するとソウマは一直線にアイスのもとへ、俺はブラブラ店内を見まわる。買う気はなかったけど見ているうち商品を手にとった。アイスコーナーへ行くとソウマはカゴにたくさんのアイスを入れていた。
「そんなに冷凍庫へ入らないって、また来るから減らせよ!」
ヤツは憮然とした表情だったが、『また来る』という言葉が効いたようすでアイスをもどした。
「ユウマもアイス食べるかな? なにが好きなんだろ、ソウマ知ってる?」
「知らね」
「お~ま~え~は~」
買って帰ってもユウマが喜ぶとは思えない、けど自分たちの分だけというのも気が引ける。いちおう連絡を送ったものの風呂へ入っていて返信はなかった。どうせなら父とマミさんのぶんも、アイスをいくつか手に取りレジへならんだ。ソウマはちゃんと自分の小遣いでアイスを買った。




