イヤミにモノグサ
親子がきた日の夜、リビングで家族会議がひらかれた。俺と父、マミさんと兄弟が一堂に会す。
あらかじめ父とマミさんで話し合ったのだろう。快適に過ごすための決まりや家事当番の割りふりがおこなわれた。マミさんは普段おっとりしているが、仕事から帰るとてきぱきと働く。言うことを聞かないソウマに向かう姿は母さんというより母ちゃん、再婚相手がうっかりうかうかの父で逆に大丈夫なのかと思ったくらいだ。
よく気が利き、俺と父が気づかなかったこともカバーしてくれる。俺は自分なりに家事を頑張ってきたけど、マミさんには到底かなわない。父の生き生きとした表情、仲睦まじい2人の輪へ入れなくてそっとその場を去った。
兄のユウマが家事を完ぺきにこなすことにも驚いた。第一印象が悪かったせいで手伝いをするようなヤツには見えなかった。ユウマが当番の日は冷蔵庫もきれいに整頓されリビングもピカピカ、俺が帰ると夕食の下ごしらえまで済んでいる。しかし親たちの前ではにこやかな表情なのに性格は最悪、嫁をいびる姑のごとく俺には容赦がない。粗をさがそうにも相手は家事の達人、なにも言えなかった。
「はらへった」
掃除の行き届いたリビングで立ち尽くしていると真うしろで声がした。いまや俺と対等に位置する味噌っかすが腹を鳴らしていた。
ソウマは部活で最後に帰ってくる。カバンを台所へおろし、ペットボトル飲料を飲みほしてから冷蔵庫を物色する。間食するものがないとわかると諦めて2階へ上がった。階段には脱いだ靴下の置きみやげが残される。
「ソウマ!」
今日の洗濯当番は俺、靴下の端をつまみソウマを追いかける。部屋へいくと案の定、脱いだシャツが床へ散乱していた。
「脱いだのはちゃんと洗濯機へ入れろって!」
「あとでまとめて持ってく」
「そんなこと言って、前はずっと放置してたろ!? 部活のユニフォームだして風呂入れ!」
「……」
ユウマと対照的にソウマはものぐさな性格だ。反抗期なのかこちらの言うことも聞かない。初日からこんな感じだから俺も自然と母ちゃんのようになってしまう。
ソウマにも家事当番の日はあって、やらないとマミさんとユウマが厳しくペナルティを課すため渋々やっている。彼が夕食当番の日はてきとうに作られた一皿料理が出てくる。だいたい瑞々しいカレーだ。
説教しながらヤツの服を集めてると、半裸のソウマは無言で俺を部屋から押しだす。体の大きさではソウマに敵わない。
「ちょっ押すなって! そこにも洗濯もの落ちてる!」
落ちたタオルを拾い、ソウマの筋肉に押されて階段をおりる。脱衣所まできたヤツは下着を洗濯機へ放りこみ風呂へ入った。いっしょに脱衣所へ押しこまれた俺は洗濯機へ洗剤をそそぐ。
風呂場のドアがひらき、ソウマが顔をだす。
「着がえ」
おもわず手に力が入り洗剤が多めになってしまった。べつに持ってこなくてもいいけど全裸で歩きまわられても困る。ソウマの部屋へ行き、上着をハンガーへかけた。網にはいったバスケットボールがタンス横でゆれている。
仮同居の期間で運びこんだ荷物はすくなかったはずだが、引き出しいっぱいに衣服が詰まっていた。マミさんのマンションは電車で数駅の距離、近いから取りに帰ったのだろう。服を全部持ってきたのではないかというくらい詰め込まれてる。
整頓しつつ着がえを取りだしたらユウマが腕組みして立っていた。ソウマと俺のドタバタを聞きつけ部屋から出てきたようだ。
「なんだよ?」
「甘やかすとやらなくなるから気をつけろ。あと干した洗濯物、はやく取りこめば?」
嫁の家事を見張る悪の姑のようなセリフ、ドラマで見たことがある。
「言われなくても今からする!」
「ソウマには聞くクセに、俺には洗濯物のこと聞かないんだ?」
「聞くもなにも出してるだろ?」
「そうだが」
「じゃあ何で聞かないといけないんだよ!?」
ユウマはひとつ違いなのになんでも出来る。いままで家事は自分のやり方だったから、いろんな場面で指導がはいる。優等生の彼のせいで『家事ができる息子』というプライドは粉々に打ち砕かれた。
上から目線なところや風呂場のできごともあり反発してしまう。入り口にいたユウマを押しのけ階段をおりると後ろへついてきた。着がえを棚へ置き、洗濯機のスイッチを入れる。俺が失敗するところを探しているのか、ヤツは背中へ張りつき姑みたいに見てる。
朝干した洗濯物を取りこむため、リビングへ足を向けるとヤツもついてくる。イラついた俺は足を止めた。
「なんで付いてくるんだよ!?」
「べつにぃ方向いっしょなだけ」
反応を楽しんでる様子でほんとうに性格が悪い、リビングの窓を開け庭へでるとユウマは台所へ向かった。
ホッとして取りこんでいると夕食のいい匂いがしてきた。




