ヤツらがきた!
そして今、俺のマイホームは占領されようとしていた。
マミさんが訪れ、礼儀正しくあいさつする。荷の運び入れを手伝う兄弟の不遜さは前とおなじ、兄弟は同室の予定だったけど弟が拒んだため、マミさんが1階の父と同室になり2階へ俺とユウマとソウマが住む。
「よろしくね。ま、みじかい付き合いになるかもだけど」
兄のユウマが手を差しだす。ユウマはひとつ上、ぐうぜんにも俺が通う高校の2年生だ。牽制のつもりなのか握手に力が入り、俺も負けじと握りかえす。笑顔で非友好的な戦いが交わされ、手を放したあと鈍い痛みがのこった。
舐められないよう最初が肝心、弟にも挨拶しようとふり返れば消えていた。俺はこんなことで目くじらを立てない、相手は年下の中学3年生、彼の部屋をノックした。返事はなく、こっそりドアをあけてのぞくと畳へ寝そべりスマートフォンを見ていた。
中学生なのに俺より大きいソウマは、すでに我が部屋のようにふるまってる。俺が呆然と立っていたら、なにか用があるのかと言いたげな視線をよこした。
そのくらいで俺は怯まない。
「俺はカエデだ。よろしくな」
「……」
ヤツは無言でこっちを見ていたが、ふたたびスマートフォンへ目を向けた。俺の胃はストレスマックスでねじれそうだ。こんなことでめげない、1カ月後にはマイホームからヤツらを追い出してみせる。俺の方針は早々に決まった。
大きかったマイホームは坂木兄弟に占拠されている。
とくに洗面所と風呂、トイレは混みあい、どこへ行っても兄弟のどちらかと鉢合わせる。ひとりっ子だった俺は出くわすたび過剰に反応してしまう。
就寝前に歯みがきして顔を洗っていたら、ユウマが風呂から上がった。マミさんでなくて安心したけどユウマは全裸、均整のとれた鍛えられた身体だった。裸を隠すわけでもなく、俺のほうが恥ずかしくなり顔をそむけた。
「男同士なのに恥ずかしがることないんじゃない?」
ユウマは洗面台へ手をつき、覆いかぶさってこちらを覗きこむ。整った顔立ち、長いまつげから水がしたたってその気もないのにドキリとした。目のやり場に困り、視線がさまよう。
「顔まっ赤にして、いちいち反応が可愛いよね」
「……っ」
皮肉を言われてるのか俺は華奢な女子ではない、同学年の平均身長より高めで見た目はれっきとした男だ。ついと指があごを持ち上げた。笑うユウマの顔が見えて、あきらかに揶揄われている。言い返したいけど言葉がうまく出てこない、とりあえず服を着て欲しい。
洗面台へ追いつめられていると脱衣所のドアがあいた。
「パンツくらい穿けよ」
絶体絶命の場面であらわれたのは弟のソウマだった。俺とユウマを見くらべ、彼は不機嫌そうにため息をつく。
「俺も歯みがくから、邪魔」
「あぁ~なんだよソウマ、邪魔なのはおまえだろ。カギ閉めとけばよかった」
弟へ悪態をついたユウマはパンツを穿いた。ソウマはマイペースに歯みがきして、俺はでかい2人がひしめく洗面所から脱出した。
休日があけて授業がはじまる。昼休み、俺は気が抜けたように教室の外をながめていた。
「タマシイ抜けてんなぁ。あれ? カエデの昼めしいつもと違くね?」
弁当を広げたら同クラスのトモヤが話しかけ、前の席のミズキもふり返った。中学もおなじだった彼らは家庭事情のことも知っている。
「お父さんの再婚相手が家に来てるんでしょ? どうなったの?」
「えっ!? カエデの家、そんなことになってんの? ははーん、その弁当作ってもらったんだな。どんな人だ? 美人な母ちゃん?」
ミズキへ『再婚相手が家へくる』と送ったのが最後、通信は途絶えていた。ドタバタして返信するヒマもなかった。なるべく思いださないようにしていたのに、俺のあたまに意地悪なユウマと仏頂面のソウマの顔がうかぶ。
「ハァァァ」
「カエデ、大丈夫?」
「これはかなりの重傷だな。なにがあったか聞かせてもらおうか?」
焼きそばパンの袋をあけたトモヤが目を輝かせる。俺は年の近い2人の兄弟ができたことを話した。
マッシュポテトにミートボール、色とりどりの野菜が詰められた弁当はとても美味しかった。彼女の弁当をみると俺のバリエーションなんてたかが知れてる。




