再婚!?
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冷蔵庫で寝かせたサンドイッチをカットして弁当箱へつめる。やわらかい黄身の色が食欲をそそり今すぐ食べたいくらい、レタスハムサンドやミニトマトも入れて弁当が完成した。
「カエデ、今日は父さんの当番なのにスマン」
父がネクタイを締めながらキッチンへ来る。
「いいって昨日も遅かっただろ? はい、今日はサンドイッチ弁当!」
「ありがとう。カエデのタマゴサンド、好物なんだ」
「父さん、寝ぐせついてるよ!」
寝坊して慌てたようすの父は洗面所で寝ぐせをなおした。保冷剤入りのランチバッグを受けとり、上着をはおって会社へ出かけた。
好物と言われてちょっと嬉しくなった俺は、鼻歌まじりで自分のぶんも弁当箱につめる。
ちいさい頃に母が亡くなりはや8年、父と2人3脚でやってきた。同級生には自慢できるくらい家事は上達した。そんな父と俺の生活は劇的に変化することになる。
母の8回忌の墓参り、墓石をきれいに洗って花と線香を供えたあと、父が意を決したように伝えてきた。
「父さん再婚しようと思っているんだ」
父はこれまで浮かれた男女関係の話をしなかったから寝耳に水だった。即答できなくて黙っていると父は困ったような笑顔をうかべる。
「なかなか言いだせなくて、すまないな。こんどの日曜日、相手の人に会うだけ会ってみないか?」
父は勤勉で堅実、俺も今年から高校生でもう大人だ。幸せをつかもうとする父を止める権利はない。おおらかで家事も子育てもこなし、息子から見てもいい父だと思う。男としては地味だけど、相手も見る目があるのだろう。
だがしかし、メガネをおいた場所を忘れて尻でつぶすうっかり屋の父がたぶらかされているとも言い切れない。それに平穏な暮らしを乱されるのは勘弁、相手を見極めることが必要だ。
ひと晩じっくり考えた俺は父の再婚相手に会うと返事した。
決戦は次の日曜日。
1週間なんてあっという間、俺は緊張しながらカフェのドアを開けた。ファミレスでも良かったけど、おちついて話のできる場所だと相手が指定してきた。
あいさつを交わし、ぎこちなく席へ着く。相手はおっとりさを漂わせる『お嬢さん』という感じの人だった。父とおなじ部署ではたらき付き合いは長いそうだ。財産目当てではないとわかり安心したのも束の間、彼女――坂木マミはとんでもない息子たちを連れてきた。
俺も連れ子だから何とも言いようがないのだけど年の近い2人の兄弟、ヤツらは10分ほど遅れてきて尊大に腰かけた。座ってもでかい、物理的に見おろされる。
「ユウマ、ソウマ! 挨拶しなさい!」
「どうも坂木佑真です。よろしく」
「……どうも」
ただ座ってるだけなのに目立つ兄弟だ。兄はにこやかに挨拶したけど弟は名前すら名乗らない、自己紹介した父と俺をチラリと見て、あとは興味なさそうに話を聞いていた。
反抗期なのか不躾な態度は気に入らないが、彼らのなかに自分とおなじ思惑を感じた。彼らも今の生活を乱されるのは歓迎すべきことではないのだ。
「柊也さん、カエデくん、家の息子たちがごめんなさい。柊也さん、またあとで連絡します」
帰り際にマミさんが謝ってきた。あの兄弟を育てるのはさぞ大変だっただろうと思いつつ、3人のせなかを見送る。うっかり者の父が兄弟の存在を伝え忘れていてビックリしたが、彼らの態度から今回の再婚はうやむやになる予感がした。
ところが再婚話はトントン拍子にすすみ、マミさんと2人の兄弟は家へ来ることになった。
「しばらく皆で暮らしてみようと思うんだ」
「え?」
父は張り切っていた。
生返事したあと我にかえって聞きなおせば、おたがい年頃の息子がいるので1カ月ほど同居して様子をみるようだ。いがいに行動的な父の一面を見た気がする。父は仕事で俺をずっと1人にしていたことを気にかけていた。たしかに帰りが遅く夕食は1人だったけど気にした事もない。
とりあえずやってみようという鷹野家の家訓、父に説得されてしぶしぶ了承した。




