紳士?と消えたサンドイッチ
トモヤとミズキは義理の弟と仲を深めたいというヤツの嘘にだまされて行ってしまった。人けのない校舎の端へ来たユウマは、にこやかな顔のまま俺を壁へ押しつける。
「何であんなとこにいたのかな?」
「たまたまだ。なんだっていいだろ!」
アイスの件で和んだとしても、意地悪なユウマに対して俺のスタンスは変わらない。いまだって壁ぎわへ追いつめられてる。逃げ道をふさがれて睨みつけたら、彼の指先は輪郭をたどって俺のアゴを持ちあげた。目と鼻のさきにある捕食者の瞳、気をぬけばガブリと噛みつかれるにちがいない。
「たまたま? それで?」
「……高校ではどんな感じなのか気になって」
「俺が気になったの?」
「……うん」
背筋が冷たくなり、つい本音をこぼした。本当に食べられないか心配で心臓は波打っている。ユウマは覆いかぶさった体勢でこちらを見ている。
至近距離で見つめ合っていたが、むこうが離れた。
「帰ろうか?」
ユウマが2、3回咳ばらいをする。方向は同じ、よくわからない雰囲気でとくに会話もなく帰宅した。
「おかえり、遅かったな」
スーパーで買い物して帰ったら、ソウマが掃除機をかけていた。掃除機は床の靴下を吸いこみ異音を発した。
◆◆◆
カーテンを開け、朝日のまぶしさに目をほそめる。連休の初日、心地いい気温に布団をかぶって2度寝する。騒々しい足音が部屋のまえで止まった。
ガチャ。
ドアノブが下がって開いた。数秒して俺にむかって重いものがダイブしてきた。つぶれたカエルみたいに呻くと布団のうえから声がきこえた。
「朝めし」
ユウマと朝食当番をかわったのをすっかり忘れていた。重さと眠さで俺は沈黙しかけたが、それを許すソウマではなかった。布団ごとプレスされ、丸めて転がされる。
「おきろ、腹へった」
「わかった、わかったよ、起きる」
もみくちゃにされて布団から出たら、俺よりでかい生意気な中学生がいた。腹がへった食欲魔神は俺を抱えて1階へおりる。俺は顔だけ洗って寝巻のまま台所へ立った。米を炊く準備はしてないので薄切りのパンを取りだす。
たっぷりバターとマヨネーズ、ついでにマスタードも塗り、茹でた玉子をつぶしてタマゴサンドを作った。冷蔵庫にあった焼き豚とちぎったレタスでポークサンドも、多めにつくったのにソウマはあっという間に平らげた。
朝ごはんを食べたソウマはジャージへ着がえ、スポーツバッグを持ってきた。
「ソウマ、今日もクラブ?」
「練習試合」
「お昼は?」
「弁当でる」
休日の運動部はなかなかいそがしい。家事は適当なソウマだが、部活の用意は忘れない。
「いってらっしゃい!」
「……いってきます」
玄関で運動靴をはくソウマを見送ったら、やや照れた返事がかえってきた。
リビングへもどると、幽霊のごとくユウマが立っていてビックリした。Tシャツに寝間着ズボン、光を反射しない鉛色の瞳にぴくりとも笑わない唇、起きたばかりの顔だ。
ユウマは朝が苦手、平日も最後に起きてくる。髪はボサボサで目つきも悪く、ソウマ以上にふてぶてしい態度。こんな状態のときは部屋から出てこないけど、今日はどうして居るのだろう。
顔も洗ってないユウマがソファへ腰をおろす。
「お、おはよう」
「……」
「サンドイッチあるよ、食べる?」
不機嫌きわまった顔で彼はうなずく。猫をかぶった笑顔のほうがマシ、告白した女子たちも真っ青で逃げだしそうな凶悪さ。
「あっ、サンドイッチがなくなってる!?」
ラップへ包み冷蔵庫へ寝かせたサンドイッチが消えていた。思い当たるのはさっき出かけたソウマ、食べざかりの食欲魔人は弁当1つでは足りないようだ。
「あいつ、冷蔵庫の持っていったな。いまから作る、待ってて」
「ないならいい」
リビングのテーブルへコーヒーを持っていくと腕を引っぱられた。ソファへ倒れた俺をユウマが引きよせる。
「うわ!? ユウマ、はなせっ」
「朝っぱらからソウマといちゃついてんじゃねえよ」
ぼそりと呟かれた。声が低すぎてよく聞き取れない。
「え? なんて? 」
「XXXX……」
聞き取れない重低音が耳たぶを撫で、俺はぶるりと身をふるわせた。ソウマと騒いでたのがうるさくて起きたのかもしれない。悪態らしき言葉を吐いたユウマは俺を抱き枕にして寝息を立てはじめた。




