俺はお兄ちゃんです
おまけ話1/2。鷹野3兄弟になった直後のドタバタ。
父が再婚し、マミさんと坂木兄弟が家にやってきた。仮の同棲期間をすごし、俺たちはめでたく兄弟になった。父たちは結婚式をあげ中学3年生のソウマが卒業してから入籍する予定だったけど、苗字に慣れるため早い方がいいとソウマが言い、在学中に鷹野3兄弟になった。
朝晩の冷えこみに布団へ丸まっていると、部屋のドアがひらいた。かまえる間もなく重いものが上へとび乗ってくる。俺は布団のすきまから腕を出して応戦するが、大きさの破壊力に敵うはずもなく空を切るだけだった。
やっとのことでベッドを抜けだし、むくれた顔で睨みつける。朝食当番の日だったらよくある光景だけど今日の当番はソウマ、今まさに俺を圧しつぶそうとしているヤツだ。
「なんだよソウマ? 朝から重いだろ!」
ぬくぬく寝ていたら体のでかい弟に起こされる休日の朝、丸めた布団から顔をのぞかせるとヤツは無言でこっちを見る。バスケのコートではボールを追う鋭い目つきだが中学生に俺が怯むはずもない、眠いまぶたを見ひらきヤツの眼光に対抗する。間をおきソウマは目をそらした。ちょっと拗ねたような表情が可愛くて、睨みあいに勝ったのを素直によろこべない。
目の前にいるのは俺を圧しつぶすほどデカい弟、可愛くみえるのは目の錯覚だ。
「えっと、なにか用だったの?」
「……タマゴサンド」
「?」
「カエデのタマゴサンド、作りかた教えろ」
ヤツは不遜にタマゴサンドの作り方をたずねてきた。たのみ方ってものがあるだろうが、俺はこんなことで咎めない。
彼らと俺の家のタマゴサンドはちがう。坂木家はふわふわに焼いたオムレツをはさみ、鷹野家はゆで卵をカットしてマヨネーズなどで和える。
ユウマのほうが料理は上手い、けれどもソウマにとって兄の料理は少々むずかしいのかもしれない。俺の料理のほうが簡単だからこうして聞いてくる。しぶしぶ着がえて1階へおりた。けっして俺のタマゴサンドが好きと言われて気分がよくなったわけではない、俺はお兄ちゃんなのだ。
顔を洗いに洗面所へいくと、すでに洗濯機はまわっている。部活をしていたころは朝練が多く、ソウマの起床時間は早い。引退して家事へ目をむける余裕ができたようだ。
玉子を1パックまるまる出したソウマがキッチンで待っていた。
「ソウマ、1パックは多すぎ」
父もマミさんも仕事へ出かけ家には俺と兄弟の3人だけ、玉子をいくつか取ってパックを冷蔵庫へ仕舞った。ソウマは1パック食べる気だったみたいで不服そうだ。かわりにハムやレタスを用意し、作り方を教えながら料理する。
「玉ねぎ入れんな」
「それはツナサンド用の玉ねぎだ、かえせ!」
酢づけの玉ねぎを冷蔵庫から出せばソウマが奪いとり、俺の届かない位置へ腕をのばした。ヤツの腕へしがみ付き、どうにか奪い返してみじん切りにする。
俺に跳びかかられたくらいでダメージもないソウマは作業へもどった。ゆでたまごの殻を剥きおわったところで声をかける。
「エッグスライサーで切って塩コショウ……ソウマ、最初は大さじで量れ、マヨネーズでヒタヒタになるだろ」
「これでいいか?」
「うん、混ぜてみて少ないなら足して」
握力にまかせマヨネーズを容器から押しだすのであわてて止めた。ソウマがスプーンで盛るタマゴの量は俺の2倍ある。厚みのあるタマゴサンドが完成した。
ラップで包んで寝かせるあいだ別のサンドイッチをつくる。野菜室からトマトを取りだすとソウマが取り上げた。
「トマト入れんな」
「栄養満点だし、すききらいせず食べろよ」
ソウマは玉ねぎ、ピーマン、トマトが苦手だ。苦手といっても好き嫌いの範疇で調理して出せばきっちり食べる。ソウマはトマトを上へかざし高い壁になった。ユウマも前に言っていたが不器用な弟なりのコミュニケーションなのかもしれない、俺はふたたび腕へよじ登る。
ふいにソウマが静止した。俺も視線を追ってふり向き、悲鳴を上げそうになった。




