サンドされています
おまけ話2/2。鷹野3兄弟になった直後のドタバタ。
休日の朝7時、いつもは部屋から出てこないのにユウマが幽霊のごとくたたずんでいた。ベッドから這いでたばかりの顔は凶悪きわまりない。ふらつきながら歩いたユウマは、ソウマにしがみ付く俺を引きはがし不機嫌に言い放つ。
「朝から2人でイチャイチャすんな」
「朝は俺とカエデの時間だ。ユウマは寝てろ」
「カエデは朝も俺のだ。あと朝ごはんの野菜が圧倒的にたりない」
たわむれの朝の陽気をはねのけたダークユウマは弟からトマトを奪いとる。そのまま鍋で湯を沸かし、ブロッコリーと人参を茹ではじめた。俺とソウマの作ったサンドイッチとユウマのサラダが出来あがる。3人で食卓をかこみ、ソウマは玉ねぎの入っていないツナサンドを頬ばった。
「めずらしく少食だな、ソウマ?」
たくさん食べるソウマの皿には普通サイズ、俺とユウマの皿には分厚いタマゴサンドが置かれていた。当然疑問に思ったユウマが質問する。しばらくして気づいたユウマは眉間にしわをよせて弟の皿へ手をのばした。
「それ、カエデがつくったサンドイッチだな? 食べる権利は俺にある。よこせソウマ」
「ユウマのは俺が作った。遠慮せず食べろ。カエデのは俺が食べる」
よくわからない兄弟ゲンカが勃発した。兄の魔手を避けたソウマは皿のサンドイッチをすべて口へ放りこんだ。寝起きの悪さも相まって歯ぎしりしたユウマはサンドイッチを頬張る弟へつかみかかる。
「朝からやめろって、中身おなじだし! ほらユウマ、ソウマが作ったのもボリュームがあって美味しいよ。あー美味しい、美味しいなぁ」
材料がいっしょだから味も同じ、ユウマの機嫌をなおそうと笑顔で分厚いタマゴサンドを食べる。ところがユウマの目つきは悪化した。なにがダメだったのだろう、ピンチにおちいった俺は食べていたサンドイッチをユウマの口へ押しこんだ。
「ほら、美味しいだろ?」
ヤツは凶悪な顔でサンドイッチを咀嚼する。口元へついたタマゴをかいがいしく拭くと、まんざらでもない表情になった。例えるなら牙をむいた猛獣の口へ肉が放りこまれた感じ。
ホッとしたのも束の間、こんどは食べさせろと言わんばかりに口をあけた。俺の目は泳いだが、ユウマは俺のサンドイッチを見つめた。
これも穏便に食事をするため。持っていたサンドイッチを差しだせば、彼は俺の手から食べた。これはいわゆる恋人たちの「はい、あーんして」というものではないだろうか、ソウマの視線が痛い。
「ユウマは自分で食べろ」
見かねたソウマが俺の言いたいことを言った。しかし勝ち誇ったユウマは弟を見おろす。
「1つのサンドイッチを2人で食べる。これは仲のいい遊びだ。おっと間接キッスなんて、まだお子さまのソウマには早かったかな?」
「間接キッスだと!?」
間接キスに反応するところがお子さまだと思う。とはいえ、サンドイッチを食べていた俺も意識してしまい顔が赤くなった。平らげた皿を悔しそうにながめるソウマの視線がさらに痛い。
食後、くつろいでるとパジャマのユウマが抱きしめてきた。そのまま2人でソファーへ寝ころがる。両親がいない休日はこんな感じ、やわらかくていい匂いがする。あの部屋での行為を思いだし俺の鼓動は速くなった。
あんなことがあって意識しないわけがない、あたらしい生活では彼の部屋へ行くのを避けていた。いまは勉強を教えてもらうときはリビングだ。
「カエデ、心臓ドキドキしてる。大丈夫、家ではなにもしないよ……ほんとはキスしたいけどね」
心臓がはち切れそうに波打つ。手のひらが重ねられ、指があいだへ入りこみしっかりと握られた。ユウマは俺を抱きまくらにして放さない。兄弟というには親密で恋人未満な関係、経験ずみだから恋人なのだろうかなどと、考えがあたまの中をぐるんぐるんまわる。
ガン、ガンッ。
とつぜんの振動に俺の心臓は内臓ごと口からはみ出そうになった。掃除機のヘッドがぶつかる音だった。リビングへもどってきたソウマは寝ころがる俺たちを見つけ、これみよがしに周囲で掃除機をかける。
「ユウマ、家でイチャイチャすんな」
「うるせーよ、ソウマ。何もしてないだろうが」
兄弟にはさまれるストレスが解消される日はくるのだろうか。
◆◆◆
「カエデ、お兄さんに本渡してくれた?」
「え? あぁーえっと、まだだったかな」
「メールで聞かれたんだよね」
「なかなか渡す機会が、あはは……って言うか、そんな頻繁に連絡を!?」
ミズキはユウマを『お兄さん』と呼ぶようになった。以前、深夜ドラマ原作のBL本を借りて見つかってしまった。隠したことが仇となり、ヤツは直接ミズキと交渉したようだ。後日ミズキからユウマへ渡してほしいと本を渡されたけど、俺はうやむやにして返すつもりだった。
普段ライトノベルなんて読まないくせに、俺への嫌がらせのため読むとはさすがユウマ。本の内容を知ったヤツがどんな計画を練るのだろうかと、唸ればミズキが心配したようすでうかがう。
「心配しないで、お兄さんとは本の連絡だけだよ! カエデに渡したことも伝えたし!」
「俺に渡したことも教えたのか、ハァァ」
「唸ってたのはヤキモチじゃないの?」
「ヤキモチって俺がユウマに? そんなわけないだろ? だいたい性格悪いし、あの本読んだら、ぜったいからかってくる」
ユウマが笑顔で待ちかまえてる姿を想像して愚痴ると、目を輝かせたミズキが食いついた。ミズキの瞳孔がひらいて怖い、われにかえった俺は口を閉じた。
「それで、それで? お兄さんに裏の顔があるの?」
「べっ、べつにふつうだよ!」
「え~、ほんとう? 僕の本借りてるし~」
「なにもないって!」
「あやしい!」
最近のミズキは水を得た魚みたいに生き生きしてる。ユウマとの関係も暴かれそうで焦燥にかられる日々、冷や汗をかいていたらトモヤが来て助けられた。
来年ユウマは3年生、ソウマも高校へ進学する。卒業するのはだいぶ先の話、その時どうなっているのだろうかと思いを馳せ俺は日常へもどった。




