エピローグ2
今年の夏は暑かった。夏休みも終盤、トモヤたちとプールへ出かけた。波しぶきの立つプールへ大きな浮き輪をもって駆ける。オープンしたばかりのプールランド、高校生3人組、青春を謳歌する。
「うひょお、いるいるビキニのお姉さん! これぞ、ザ、青春! もっと水着ギャルの近くへいこうぜ!!」
よこしまな発言をしたトモヤは水着ギャルのもとへ一直線に泳いでいった。グルグルと周回できる巨大なプール、浮き輪へ腕をかけて漂っていたら突然波しぶきに襲われた。
波にさらわれたミズキも浮き輪ごと流されていく。追いつこうと足を掻いたら大波に押されてぐるぐる周回した。やっとのことでトモヤを見つけ、浅瀬へいくと向こうのプールを見ていた。
「見ろよ逆ナンだ! 水着ギャルに声かけられて、うらやましいぜ~」
格好よさそうな2人組が3人の女の子に声をかけられていた。ナンパには興味がないので遠目にながめ、流されたミズキを探しにもどった。波間のミズキを発見して浅瀬まで浮き輪を引っぱる。
「助かったぁ~、ありがとう」
もともとアクティブな性分ではないミズキは流れるプールに流されつづけて力尽きていた。
「あっ、逆ナン断った!? あの2人こっちへ来るぜ」
2人組を見ていたトモヤが声をあげる。近づいてきたのはよく知る顔だった。見栄えのいいヤツら、坂木兄弟もとい俺の兄弟だった。ソウマに至っては中学生とは思えないほどの体つき、こっちの3人組が貧相に思えトモヤと俺はミズキのうしろへ身をひそめた。
「ちょっとカエデ!? なんでいちばん弱そうな僕が先頭なの!? ええっと坂木……鷹野先輩に変わったんですよね、そちらは弟のソウマさん? カエデから話は聞いています!」
「そっちの人、弟!? じゃあ中学生……」
トモヤはノドを鳴らしソウマを恐々と見上げた。
「2人ともどうしてここに?」
昨夜プールの準備をしているとき、ユウマが行き先を根ほり葉ほり聞いてきたのを思いだした。懐疑にみちたまなざしをおくるとヤツは悪びれない笑顔をうかべる。
「ソウマがプールへ行きたいっていうから来てみたら、偶然ってすごいねぇ」
「俺はカエデがいるって聞いて――――」
「ソウマ、ちょっとこっちへ来い」
ソウマの言葉をさえぎり、兄弟は肩を組んでひそひそと話し合っている。偶然をよそおい付いて来たにちがいない、白々しい顔つきで誤魔化す兄弟を睨みつける。いぶかしむ俺を横目に人たらしのユウマはトモヤを落としにかかった。
「一緒に遊ばない? 俺達といたら、さっきみたいに声かけられるかも」
「ぜひ、ご一緒します!!」
トモヤの篭絡は早かった。せっかく友達と遊びにきたのに兄弟同伴は気にくわない、俺は一縷の望みをかけミズキをふり返った。しかしユウマは浅瀬で漂っていたミズキへやさしく声をかける。
「君、四ノ宮くんだっけ? 水に浸かりっ放しは冷えるよ。あっちで休憩してからお兄さんたちと遊ぼうか?」
「ひゃい、お兄さま!」
俺に容赦がないのか俺以外に容赦がないのかよく分からないが、抱っこされて運ばれるミズキも戦線を離脱した。友人はまんまと手籠めにされ、兄弟と合流することになった。
憎たらしい笑みをうかべたユウマがうながし、しぶしぶ後を追う。うしろをソウマも付いてくる。兄弟と歩いていたら本当に水着女子がよってきたけど、弟が中学生だとわかると撤収した。ソウマは興味なさそうに一瞥してトモヤは悲しげに見送る。天の配剤はどうなっているのかと小一時間問いたい。
「カエデ、女の子に鼻のした伸ばすなよ」
「伸ばしてないし、声かけられたのユウマじゃん」
「女子はパンツ1枚のカエデに魅力を感じないのか?」
「パンツって強調するなソウマ! 犯罪っぽく聞こえるからやめろ!」
頭上でヤツらがつぶやき、そくざに否定した。気づけば遠方のプール施設でも兄弟に挟まれている。
空が橙色に染まるころ俺たちは帰宅の電車にゆられた。たくさん遊んで体はだるく口数はすくない。改札をでてトモヤとミズキと別れ、俺たちも家路へつく。日焼けしたくて日焼け止めを塗ってなかったから肌がヒリヒリする。ユウマにはちょっと怒られ、薬局でやけどに効く軟膏を購入した。ユウマが塗ってくれるらしいが、手つきはいかがわしく俺は不審な目をむける。
夕飯を食べてのんびりしてると、ミズキから着信が届いた。
『お兄さんに本貸してって言われたんだけど、いいよね?』
ユウマもミズキも読書家だからプールのときに話が合ったのだろうか、俺はなにげなく本の内容をたずねた。画面に表示されたのは間違いなく俺が借りた本の題名、スマートフォンが手からすべり落ちる。最近は味わっていなかった胃のキリキリがよみがえる。
「おわった」
燃えつきてぼんやりしてたら、ミズキから困った顔のスタンプが山ほど届いた。




