エピローグ1
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「母さん遅くなるってさ」
ひみつのデートを終え、電車を降りた俺たちは顔を見合わせた。スマートフォンを確認したユウマはマミさんの帰りが遅くなることを伝えた。帰宅する予定だったが残業で遅くなり、夕食を作れなくなったようだ。冷蔵庫にお惣菜があるものの、こういう日は弁当や外食もめずらしくない。
「ざる蕎麦か鍋焼きうどんでよかったら作るけど? 玉子あったっけ?」
「久しぶりにうどんもいいね。材料買いにスーパーへ寄ろうか」
「ソウマにも連絡しとく」
連絡して店のまえでソウマを待った。ソウマが率先してカゴをもち、餅アイスやサラダチキンも追加される。お菓子を多めに買って帰り、俺が鍋焼きうどんを煮込むあいだ、ユウマとソウマは掃除と洗濯を終わらせる。ソウマは半熟玉子と野菜をたっぷり入れて煮込んだうどんが気に入り、カレーのレパートリーに代わって時々出てくるようになった。
「ソウマ、勝手にチャンネル変えるなって」
「……」
リビングでは俺とソウマのリモコン争奪戦が発生していた。スポーツチャンネルへ切りかえたヤツは腕の長さにまかせてリモコンを上へをあげる。俺がソウマの腕へよじ登っていたら、真剣にスマートフォンを向けるユウマが視界へ入った。
「ユウマ、さっきから何してんの?」
「これ? 可愛いカエデのすがたを撮ってる」
「人を猫みたいに! そんな動画どうするつもりだ!? スマホよこせ、消してやる!!」
ユウマへ跳びかかると、ヤツも俺の届かない位置へ腕を持ちあげる。ユウマへよじ登りやっとのことでスマホを奪った。終始ニコニコしているヤツを後目に画像を確認すると俺の部屋のログまであった。
「いつ部屋へ!? あっ、こんなものまで!?」
ミズキから借りた本が写っていた。ドアが開けっぱなしだったから俺がいると思って覗いたらしい、枕元へ置いた本がスナップ写真みたいに撮影されていた。表紙はポップなイラストでユウマが興味を示しそうにないライトノベル、なぜ写真へ撮ったのだろうかと俺はゴクリとノドを鳴らした。
「まさか……読んだ?」
「さあ、読んだら不味いことでもあるの? なんの本?」
「べ、べつにフツーの本だよ」
「カエデ、またエロ本か?」
「ちがう!!」
ソウマにまで冷やかされる。ユウマは意地悪な笑みをうかべるだけで真相はわからない、ぜったいに俺を弄んでいる。翻弄されてるうちにリモコンをせしめたソウマが寄りかかってくる。圧しつぶされてくやしい俺は明日から腕立てすると心に誓った。
ふと大事なことを思いだした。
「そういえば苗字って変わるのかな? どっちの姓になるんだろう、ユウマ聞いてる?」
「俺たちが鷹野に変わる。色々なところへ届け出しないといけないからややこしいけどね。いまは変更の手つづき中さ」
「坂木って苗字、好きだったのに……」
「俺も養子縁組せずに坂木のままでいいと思ってた。でもカエデといっしょになった時におなじ姓を名乗れるから変える」
「カエデ、俺も同じだぞ。鷹野ソウマだ」
ユウマが法律について教えてくれたけど難しすぎ、説明の半分は耳をすり抜けてしまった。ユウマとソウマは坂木兄弟ではなくなり、これからは俺が加わって鷹野3兄弟。学校でも呼び方が変わるから大変だろうけれど彼らは嬉しそうだった。
買ってきたお菓子をひろげ、3人でくつろいでいたらマミさんが帰宅した。もちろんマミさんと父のぶんも夕食を用意していた。1人用土鍋へ材料をいれて煮込むだけ、お手軽に作れる。
「カエデくん、当番でもないのに夕食作ってもらって――――」
「ユウマとソウマも手伝ったから手間はかかってないよ。それよりもおかえり母さん、仕事おつかれさま」
マミさんの動きが止まりこちらを見た。彼女の顔はみるみるうちに赤くなった。
「おかえり母さん、せっかく出迎えたのにただいまって言わないの? あとカエデは俺のだから」
「マミ、鍋を温めていいか?」
「たっ、ただいま、ありがと……ソウマはちゃんと母さんって呼びなさい!!」
俺に『母さん』と呼ばれ、不意をつかれたマミさんに兄弟が追い打ちをかける。ユウマは俺が恥ずかしくなるような主張を付けくわえ、ソウマは覚えたての煮込みうどんを作るため台所へいく。マミさんはうろたえていたが、しばらくして嬉しそうにはにかんだ。
「はぁ~やっぱりマミさんに追いつけなかった。ただいま、いい匂いがするね」
「おかえり父さん。今日は鍋焼きうどんだよ。父さんもすぐ食べる?」
「匂いでお腹が減ったから、食べようかな」
タイミングよく父も帰宅した。鍋焼きうどん追加で俺もソウマのいる台所へ走った。台所は湯気がたち、美味しい匂いが充満する。家族がそろったダイニングは今日もにぎやかだ。




