家族になりました
家へ到着した俺は、玄関先にいた人影におどろいた。
「遅かったな」
自転車をとめたソウマが待っていた。テスト日で部活は休み、学校帰りに訪れたようだ。ソウマは手をつないだ俺たちを見くらべ、兄と交差した視線が火花を散らす。カギを開けると兄弟は家へ上がった。
「カエデの顔見たなら帰れよ、ソウマ」
「俺は個人的にあそびにきた。ユウマこそ、カエデ1人の時にあやしい」
我がもの顔でリビングのソファーへ寝そべる弟をユウマが足蹴にする。しかたなくとっておきの手作りプリンを出せば兄弟は仲良く食べはじめた。兄弟のすきまへ腰をおろすと、ヤツらはスペースがあるにもかかわらず俺へもたれてくる。
いちばんに食べおわったソウマが器を置き、何か言いたそうにこちらを見つめる。プリン1つでは足りないのだと思い、立ちあがろうとしたら引き留められた。
「ソウマ?」
「こんど引退試合がある。カエデはヒマか?」
3年生のソウマは全国大会を最後に部活を引退する。試合があるのは夏休み真っただ中、俺はもちろん見にいくと笑顔で約束した。ソウマはすこし目をそらし、嬉しそうにうなずいた。これは照れているしぐさ、表情はおおっぴらに変化しないけど雰囲気でわかる。
「相手がカエデだとかわいい反応だな。お兄さまには来てって言ってくれないの?」
「ユウマは来なくていい」
「ホント可愛げがないな。ピンクにデコレーションした名前入り横断幕、会場でかかげるぞ」
「ぜったい持ってくるな。徹底的に抗戦する」
愛情をこめた嫌がらせ、ユウマだったら本当に作ってしまいそうで怖い。兄弟の争いが勃発し、両側からぎゅうぎゅうと板ばさみにされる。
夕刻になって2人が帰り、家はふたたび寂しくなった。孤独にクッションを抱いているとユウマから連絡が入る。
『あさっての日曜、夕食いっしょに食べない? 家のマミさん連れて行っていい?』
浮きたった俺はそくざに返信して父に報告した。
母であるマミさんもひとりの人間、いろいろな事があって悩み葛藤していた。同棲がおわり、しばらくのあいだ父との連絡も控えていたようだ。日曜に訪れたときは父や俺に遠慮してたけど、息子たちは積極的だった。今日の計画もユウマが立案したものだ。
夕食は屋内バーベキュー、大人数でも楽しめる献立。ユウマの作成した坂木家直伝のタレにつけた肉をソウマが焼き、ソウマが喰らう。
「ソウマ! 肉こっちへまわせ!!」
「ソウマ、野菜も食べなさい!」
食卓はにぎやか、マミさんはソウマの皿へせっせと野菜を盛る。肉をもとめて俺がさけぶとソウマはしぶしぶ肉のカケラをこちらの皿へのせた。怒った俺はヤツの皿から大きな肉を奪い確保した。その様子を見ていた父は楽しそうに笑った。
デザートを食べてくつろぎ、坂木家を車で送った父にリビングへ呼びだされた。
夕食時の父の表情から呼びだされた理由は分かっていた。
「マミさんへプロポーズしようと思う。カエデはどう思う?」
「いいんじゃない? どこでするの?」
「みんなの前じゃ恥ずかしいから、彼女を食事へさそった帰りにしようかな」
父が小さな箱を開けると2つの指輪が入っていた。ソファを買いかえた日、2人で見た指輪を後日入手したらしい。俺は再婚をふたつ返事で許諾する。もはや迷いやわだかまりはなかった。
3年生のソウマの引退試合を応援しにいき、身内だけで挙げるささやかな真夏の結婚式。俺の祖父母は亡くなってるから、来場者はマミさんの両親と俺たち息子だけ、車で1時間ほどの小高い山のチャペルは晴れた青空で景色がきれいだ。
派手な飾りもないスマートな花嫁衣装のマミさんとタキシードの父、花びらで2人を祝福する。ブーケトスはしない予定だったけど急遽はじまった。兄弟のあいだへ立たされ、マミさんが花束を投げるのを待った。兄弟に押されて降下地点へみちびかれ、花束は俺の手におさまった。
「つぎはカエデか?」
あいかわらず意地悪な顔で笑うユウマが手元をのぞきこんだ。
「ブーケトスはプロテインや高級和牛だと聞いたが花束なのか?」
「ソウマ、それどこ情報なの!?」
あやしい情報を伝えたのは半裸アピールを進言した部活の仲間だろうか、バスケ部のソウマが本気を出せばブーケは彼のものだったが花束には興味ないようだ。マミさんの両親――ユウマとソウマの祖父母にも話しかけられた。なにもかも俺には初めてで驚くことばかりだった。
ブーケが飾られた玄関へあたらしい風が吹く、俺はもう変化をおそれない。




