嫉妬?
◆◆◆
「カエデ! カエデったら!!」
「ついに召されたか、いったいなにが起こっているんだ!?」
トモヤに肩をつかまれ揺すられる。授業も終始うわの空、気がつけば口をあけて放心していた。おかげで小テストの結果もさんざんだった。
どうしてあんなことをしてしまったのか、彼はどうしてあんなことをしたのか、たずねることもできず答えはわからない。自己嫌悪、後悔、羞恥、このうずまく感情はいったいなんだ。
「あ~~~~」
ヤツの顔ではなく唇の感触を思い出してしまい、顔から火がでる。
「たいへんだ、カエデが奇声を発したぞ!」
「カエデ、大丈夫!?」
頭を抱えてうめいたら、ふたたびトモヤに肩を揺すられた。彼女いたことない歴16年、男と男が唇を合わせる経験が先行する。
「カエデがもとに戻ってよかった」
とんだ醜態をさらしたが平常心をとり戻した。ミズキの部活が休みだったので久しぶりにならんで下校する。玄関から校庭を確認する。異常なし、ヤツのすがたは見あたらない。挙動不審だったようでミズキに心配された。
ミズキの家は近所のマンション、小学生からの付きあいだ。スーパーへ寄ろうとしたら、彼も買い物があって一緒に入店した。
「男子学生が2人で買いものって、ぽいよね~」
ミズキは腐男子というやつらしい。俺がその手の会話を気にしないからトモヤがいない時は地がでる。俺がニンジンを選んでいると嬉しそうに寄ってきた。
「今夜、カレー?」
「買い置き、ソウマは材料ないと具のないカレー作るから」
「ソウマって弟くんのほうだよね、上手くやってるの?」
「まあ、そこそこね」
ソウマの材料も買うとジャガイモや玉ねぎでけっこうな重量になった。つぎに来るときはアイスで釣ってソウマに荷物もちをさせよう。満杯の買いもの袋をさげてスーパーを出た。
「ミズキ、放送中の深夜ドラマの原作持ってるって言ってたよな?」
「ひとつ屋根の下のふたり? 貸すよ? そう言えば、カエデも坂木兄弟とひとつ屋根の下だよね!」
「ドラマのつづきが気になっただけだ! ……人数も違うし」
「ふふ~ん。僕の家すぐそこだから、ついでに持ってく?」
マンションのエントランスで待ってるとミズキが本を持って下りてきた。口を猫みたいにしてニマニマ笑う彼から本を受けとった。
まだ誰も帰宅していない、玄関のカギを開けた。
「おかえり」
真後ろでユウマの声がして買い物袋を落としそうになった。にんまりと唇があがり悪いことを考えてる顔、ヤツは台所へむかう俺の背後へはりついた。
「なんだよ!?」
「おかえりって言わないから、代わりにキスしてくれるのかと思った」
「キッ、キス!? だれがするか! それより外から帰ったら手洗いうがいしろよ!」
「しかたないなぁ」
顔を寄せてくるので洗面所へ追いはらった。
「ああいう可愛い子、好み?」
「は?」
着がえて夕食の下ごしらえをしていると彼がふと聞いた。ミズキのことだと気づき、目が丸くなった。俺が買いものして帰る日、ユウマは先に家事をすませ出迎えもしない、彼の帰りがおそかった理由を勘ぐった。
「後つけてたのか? まさか学校から!?」
ユウマは悪びれもせず頷く。寄り道して非行へはしる俺を止めるためだとか、彼の場合どこまでが本気で冗談なのか測りかねる。
ユウマが俺に触れようとする。だが俺は無意識にさがり距離をとった。ここ数日、生活も心も乱され自分で思う以上に彼のことを警戒している。
ユウマは空を切った指をしばらく眺めたが、足を踏みだし俺を冷蔵庫へ追いつめた。なにを言うでもなく苛立ちをふくんだ険のあるまなざし、顔がくっつきそうな位置から俺を見つめる。相手にしてみれば受け入れたり拒んだり、振りまわされて苛立つ気持ちにもなるのだろう。
正直、俺も混乱している。心が整理できてなくて接し方がわからないのだ。
「――カエデ」
「ユウマ、なにしてる!?」
帰ってきたソウマがカバンを投げ捨て、ユウマの肩をつかんだ。




