14.setting off
「お前さんは何飲む?」
開店前のカフェレストRamona。
ビフ・キューズはカウンター越しに顔を突き出した。
椅子に座るボビィは上目遣いで「う〜ん……トマト、ジュース!」
それは隣りのジョーの真似だ。
「おや、お前さんも無塩が好きかい?」
「? ……むえん?」
「ふふふ。待ってな」
ビフはニッコリ笑ってボビィにキャンディをあげた。そしてすかさず特製トマトジュース。得意げにズズンとジョッキ一杯、ボビィの前に。
「うわ!」
「さあ召し上がれ〜!」
恐ろしく濃厚な赤にシブい顔のボビィ。
「搾りたての旬の健康ジュースだ! こいつを飲めばジョーのようにデッカくなれるぞ! さあ頑張れ! ハッハッハ」
「それ言うなら牛乳」とジョーは吹き出し、並んで座るリリィもクスッと笑った。
ビフはリリィの車を修理工場へ運ぶ手配を済ませた。
「工場長は、今日返事はできないと。だが明日には直させる。宿をとってあげよう。ジョーの知り合いは特別だ」
ボビィはジョーと店の奥でダーツを楽しんでいる。
リリィは考えていた。
――あの車を修理して、待ってる時間なんてない。こうしている間もフットプライドがいつ現れるかわからない……。
「……ビフさん。ご面倒おかけして申し訳ありません。本当にありがとうございます。実は私たち急いでいて、待っているわけには。車はまた落ち着いてから取りに来ます。それができない時は処分する形で……」
リリィはハンドバッグから財布を出した。
「本当にごめんなさい。とても親切にしていただいて、感謝します」
ビフは痛々しげにリリィを見つめた。
「……そうか」
「駅の場所、教えていただけませんか?」
「ああ。地図を書こう。なぁに近いから直ぐにわかるさ」
リリィは立ち、ボビィを呼んだ。ボビィは俯いたが、しっかりとジョーに別れを告げた。
「ジョーおじさん、楽しかった。ありがとう」
「俺もだ」
目尻に皺を寄せ、ジョーは応えた。ボビィは右手を差し出した。
「助けてくれてありがとう。……また会える?」
「ああ。会えるさ」
その小さな手を、ジョーはしっかり握りしめた。
ささやかな友情。「会えるさ」というその言葉を信じて、ボビィは満面の笑みを浮かべた。
リリィは何度も頭を下げ、ボビィの手を引き、去って行った。
ジョーは静かに店を出る。遠ざかってゆく二人。
人混みに紛れ見えなくなるまで、ジョーは二人を見送った。見えなくなってからも、彼はしばらくそこに立っていた。
そして静まり返った店内。カウンターの椅子に腰を下ろすジョー。コップを磨きながら、ビフは彼の表情を窺う。
「ジョー。本当にただの知り合いか?」
「……ああ。道でバッタリの、ただの知り合いさ」
「惚れたのか?」
「いや……そんなんじゃないさ……」




