15.visitor
午前十時、店が開く。
ジョーはテーブル席で本を読んでいた。平常心を取り戻そうと文字を読み漁ったが、全く頭に入らなかった。
やがて客が一人、入ってきた。
異様な雰囲気のその男は疲れた顔で気怠く店内を見回した。小柄で、髪を撫でつけているが薄汚い。
得体の知れない臭気を漂わせながらビフの顔を見て高慢な目を向けた。
「マスター、何かこう、美味いもん食わせてくれ」
ビフは無愛想に応えた。
「ウチのはどれも美味い」
チッ、こんなもんかと男は頭を掻きながらメニュー表を掴み取った。
「肉、肉! 子牛のヒレステーキ、レアでいい。頼むぜ」
そしてジョーの向かいの席に座った。
ふらついていてもまるで猫科のような敏捷性――この類いの男、ざらにはいない……ジョーは見て取った。
男は煙草の煙を燻らせながら、シラけた目でジョーを見る。一瞬目が合い、男はご挨拶に手を挙げたがジョーは応えず、次のページをめくった。
ステーキが運ばれ、男はなりふり構わず食らいつく。
「うめぇー!」と万歳したかと思うと急に立ち上がり、カウンターのビフの所へ。
「マスター、訊くが……この二人を見なかったかい?」
差し出された写真。そこには先程までここにいたリリィとボビィの顔が。ビフは表情一つ変えずに答えた。
「いや。見ないね」
「そうか」
次にジョーの前に。くちゃくちゃと肉を頬張りながら充血した目をギラつかせる。
「あんた。この二人、見た覚えは?」
ジョーも表情を変えない。
「ない」
男、レパード・スキンはジョーの目つきが気に食わなかった。ジョーの読むその本の表紙に目をやる。
「ん? 『詩ノ心ヲ読ム』? ハッ! ゴツい体でセンチだなぁ〜じゃああんた、俺の心も読んでくれ。俺があんたをどう思ったか」
まるで挑発だ。
ビフがフロアに出て来た。レパードはバッジを抜き出した。
「俺はネヴァレンド州警察の者だ」
と、レパードは勝ち誇るように言ったが、ビフとジョーはまるで動じなかった。
平然とそれを眺め続ける二人を尻目に、レパードは席に戻った。
ふん! と鼻で笑い飛ばし、また食べ始める。
そして――いるんだ。こういう非協力的な人種が……と舌打ちしながらも
「この街で見かけたら教えてくれ」と言うだけ言っておいた。
ジョーは立ち、勘定を済ませ、店を出た。
レパードは食べるだけでは物足りず、やっぱりビールを注文した。
悟られないようにジョーは道を急いだ。リリィが追われる理由を考えながら。




