12.silence
早朝。目を覚ましたボビィは、傍らで眠るリリィをしばらく見つめた。やがて立ち上がり、窓越しにジョーの姿を見た。食事の支度をしている大きな背中。気づいたジョーは振り向き、手招きした。
食事を終えた三人は動かなくなった車を見に行った。ジョーは手を尽くしたが、レッカー移動しかなかった。
「友人のビフが面倒を見てくれる。遠慮しないでいい」
ボビィはリリィの袖を引き、リリィはそれに同意した。
湖畔から街へ下るキャンピングカー。
ジョーの運転は二人を気遣って丁寧だった。
陽が燦々と射し込み、ジョーは胸ポケットを探ったが、サングラスがない。
――どこへやったのか……いつもとは違う、平静でいられない自分がいる。
仕方なく予備の一つを使うことにした。
運転も、木目調の整理された室内も穏やかだった。
リリィはボビィの肩を抱き寄せ微笑んだ。彼女はジョーに訊く。
「……あの、お仕事は何を? 今日は、お時間の方」
午前八時の渋滞が気になるリリィ。
「俺は旅をしている。仕事はビフの手伝いをすることもあるが、今は暇を持て余してる」
ボビィはいろいろ想像していた。
「おじさん、プロレスラーじゃないの?」
「ハハハ……違うよ。そんなんじゃない」
「だってさ、すっごい体デッカいし」
「んん……昔、軍隊で鍛えられたからな」
「へぇ……じゃ、パパと一緒だ。ねぇママ」
「……ええ」
リリィの表情が曇った。いたわるようにジョーが声をかけた。
「……あんたたち、何処へ行こうとしてるんだ? もしよかったら、そこまで送るが。車のことも、ビフが何とかしてくれる」
沈黙。それが答えだとジョーは察した。
リリィは深く息を吐いた。ボビィはジョーの大きな背中を見つめている。
「ジョーおじさんも……戦争、行ったの?」
「ああ。行ったさ……」
ジョーはそれ以上、話せなかった。
体中の傷が疼き、顔を砕かれる悪夢がよぎった。だがもう叫び狂う事などない。自制の術は得ている。
ジョーは窓を開け、風を入れた。
気づくと外は流れゆく街路樹。交差点の信号待ちでジョーはルームミラーを傾け、優しく頷いた。
「もうすぐ着くぞ」
緑が茂るスパニッシュ・ハーレム異人館の裏に車を停め、ジョーは降りる。後部ハッチを開け、バイクを路上に出した。
「少し歩く。ビフの店は繁華街にある。このデカい車はこの辺りに置くしかないんだ」
ジョーの手招きで二人も降りた。
「これはビフに借りたものだから、いずれまたここへ来るつもりだった」
バイクを押して歩くジョー。ボビィもはしゃいでその後ろを押す。リリィは後をついて行く。
彼女はボビィの喜ぶ姿が何より嬉しかった。
それにジョーの親切を疑う気にはなれなかった。




