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JOKERMAN  作者: ホーリン・ホーク
12/33

12.silence

 早朝。目を覚ましたボビィは、傍らで眠るリリィをしばらく見つめた。やがて立ち上がり、窓越しにジョーの姿を見た。食事の支度をしている大きな背中。気づいたジョーは振り向き、手招きした。


 食事を終えた三人は動かなくなった車を見に行った。ジョーは手を尽くしたが、レッカー移動しかなかった。

「友人のビフが面倒を見てくれる。遠慮しないでいい」

 ボビィはリリィの袖を引き、リリィはそれに同意した。



 湖畔から街へ下るキャンピングカー。

 ジョーの運転は二人を気遣って丁寧だった。

 陽が燦々と射し込み、ジョーは胸ポケットを探ったが、サングラスがない。

 ――どこへやったのか……いつもとは違う、平静でいられない自分がいる。

 仕方なく予備の一つを使うことにした。

 

 運転も、木目調の整理された室内も穏やかだった。

 リリィはボビィの肩を抱き寄せ微笑んだ。彼女はジョーに訊く。

「……あの、お仕事は何を? 今日は、お時間の方」

 午前八時の渋滞が気になるリリィ。

「俺は旅をしている。仕事はビフの手伝いをすることもあるが、今は暇を持て余してる」

 ボビィはいろいろ想像していた。

「おじさん、プロレスラーじゃないの?」

「ハハハ……違うよ。そんなんじゃない」

「だってさ、すっごい体デッカいし」

「んん……昔、軍隊で鍛えられたからな」

「へぇ……じゃ、パパと一緒だ。ねぇママ」

「……ええ」


 リリィの表情が曇った。いたわるようにジョーが声をかけた。

「……あんたたち、何処へ行こうとしてるんだ? もしよかったら、そこまで送るが。車のことも、ビフが何とかしてくれる」


 沈黙。それが答えだとジョーは察した。

 リリィは深く息を吐いた。ボビィはジョーの大きな背中を見つめている。

「ジョーおじさんも……戦争、行ったの?」

「ああ。行ったさ……」


 ジョーはそれ以上、話せなかった。

 体中の傷が疼き、顔を砕かれる悪夢がよぎった。だがもう叫び狂う事などない。自制の術は得ている。

 ジョーは窓を開け、風を入れた。

 気づくと外は流れゆく街路樹。交差点の信号待ちでジョーはルームミラーを傾け、優しく頷いた。

「もうすぐ着くぞ」



 緑が茂るスパニッシュ・ハーレム異人館の裏に車を停め、ジョーは降りる。後部ハッチを開け、バイクを路上に出した。


「少し歩く。ビフの店は繁華街にある。このデカい車はこの辺りに置くしかないんだ」

 ジョーの手招きで二人も降りた。

「これはビフに借りたものだから、いずれまたここへ来るつもりだった」

 バイクを押して歩くジョー。ボビィもはしゃいでその後ろを押す。リリィは後をついて行く。


 彼女はボビィの喜ぶ姿が何より嬉しかった。

 それにジョーの親切を疑う気にはなれなかった。


挿絵(By みてみん)

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