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第十六話「閃いた!」

更新遅くなってすいません。

 エイスと私を乗せたバイクが炎上する東通りを駆け抜ける。

 燃え盛る城下街では私達より先に出陣していた騎士達と魔物が戦闘を繰り広げていた。

 しかし、魔物は地上にいるものが全てではない。

 見上げれば上空でコウモリや鳥、更にはトカゲや蛇に翼が生えただけの飛行能力を持つ大小様々な魔物が何匹も飛び回っている。

 地雷で魔物の数を減らことは出来たがそれはあくまで地上にいた魔物に限る為、上空を飛ぶ魔物は爆発の影響を受けていなかった。

 今も騎士達の戦闘を邪魔するように滑空しては離れていく。

 戦闘は困難を極める炎の中。ただでさえ消耗を強いられる上、手負いとはいえ強力な魔物の相手をしながら、襲いかかってくる飛行魔物に騎士達は思うように動けなかった。

 飛行する魔物達は苦戦する騎士達を嘲笑うかのような鳴き声を撒き散らす。

 そして、そんな飛行魔物の一匹が自らの翼を通りを疾駆する私達にも襲いかかる。

 今、バイク共々私達のかなりの速度で走っている。

 このまま衝突すれば向こうも私達もただでは済まないことは明白だ。

 魔物が狙いを定め、その翼をはためかせた瞬間、


 見えない刃にその翼を切り落とされていた。


 翼を失った魔物は何が起こったのか分からず、困惑するような鳴き声を投げながらそのまま城下の炎で炭に変わる。

 突然の出来事に一瞬動きを止める飛行魔物達。

 その隙を待っていたとでも言うかのように王都中央ーー王城の城壁から火球、雷弾、風刃、氷槍等様々な遠距離魔法攻撃が雨のように押し寄せ、空中の魔物達を洗い流した。


「こっちも上手くいったみたいね」

「ああ」


 肩越しに小さくなりつつある城壁を見つめる。

 これも、策戦の一つだった。


 二度目の召喚を終え、策戦について再度騎士団と話し合った際エイスは『地雷で倒せない上空の魔物』を早急に倒すべきだと言った。

 先の戦闘から魔物軍には地上以外にも飛行能力を持った魔物がいることがは分かっていた。

 それらは空中という自分達が行けない領域から攻撃を仕掛けてくる為、地上の魔物より厄介だった。

 だが、エイスは飛行魔物にはそれ以上の問題があると語る。

 それは戦場の俯瞰。

 多対多の戦(たたか)いにおいて戦場の変化を知ることは何よりも大切であり、飛行能力のある魔物にはそれが出来る。


『隊を組織して攻め込んで来るようなヤツがその事を知らないはずがない。ならば間違いなく飛行能力のある魔物の中に戦場の様子を魔王に伝える魔物がいるはずだ。それを放置したままではようやく見えだした勝ちの目を失ってしまう事になる』


 エイスは遠距離の攻撃が出来る城の魔導師に異世界召喚で余った魔力石を持たせ飛行魔物の狙撃を命じたのだ。


 飛行する魔物がいなくなり私達を乗せたバイクが更に速度を増す

 立っているだけで倒れてしまうそうな程の熱気をはらんだ空気を切り裂き疾走する中、私は振り落とされないようしっかりエイスの背中に掴まっていた。

 しかし、その背中に背負っている物ーー地雷と共に召喚されたエイスの新たな武器ーーの為かゴツゴツとした固い鉄の塊の様な感触を感じる。

 異世界召喚で地雷を大量召喚した際、彼がこれまで使ってきた武器を含め多数の武装が召喚されていた。今彼が背負っているのはその一つ。

 今回の戦いにエイスはそれらの武器を持ち込んでいた。

 次第に正面から感じる地響きが大きくなり、それに合わせてバイクは急停止する。

 前方に目をやる。そこには、灰色の壁があった。

 視線を上方に上げれば先ほど城壁の上で見えた鋼鉄の巨人、鋼鉄巨人(アイアンジャイアント)がいた。


(デカッ!)


 間近で見るとその大きさがよく分かる。周りの建物はヤツの腰ほどしか届いていない。

 魔王はドラゴンといいどうやってこんなヤツを従えたのだろう?

 すると、頭上から声が降ってきた。


「オ前ダナ?ローガドルヲ倒シタノハ」

「やっぱりしゃべった……」


 やや辿々しいが人の言葉をしゃべることが出来るあたりドラゴン同様知能が高い個体と見られる。

 この巨人については事前に騎士達から聞いている。

 先の戦闘でドラゴンーーこの巨人の言う事からローガドルというのだろうーーと王都を挟んだ反対側で魔物達を指揮していたらしい。


「我ガ名ハ、バルバドル。魔王軍双頭ノ一角。魔王様ノ敵、小サキ者ニシテドラゴンヲ屠リシ者。我ハオ前ヲ評価スル。オ前トノ戦イ楽シミニシテイタ。サア、存分ニーー」


 ババババババ


 言葉を遮るように高速の破裂音が声の主である巨人ーーバルバドルーーの顔面に向かって放たれる。

 今まで聞いたことのない早さで音をはき出すその源はエイスの右手に掲げられていた。

 鉄覆われた無骨なフォルム。一見すると彼がこれまで使ってきた拳銃と似通ったところが多く見受けられるが、武器全体が前後に長く、持ち手の前方に突き出た長方形型の鉄の箱が外見上の大きな違いだ。

 名は自動小銃。

 拳銃とは違い、一度に何発もの弾を高速で発射できる、異世界から召喚されたエイスの武器。


「ちょっと、何で話し終わるまで聞いてあげないのよ。何だかアンタのこと評価してたっぽいじゃない」

「聞くだけ時間の無駄だ」


 巨人がワナワナと肩を振るわせる。

 そして、


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 火山の噴火のごとく叫びと共に怒気を撒き散らす。

 それと同時にバイクを反転させ急発進する。


「ほら!もう、ちゃんと聞いてあげなかったから怒っちゃったじゃない!!」

「……次があればちゃんと聞こう」


 果たして次の機会なんてなんてあるんだろうかと場違いなことを思いながら再び彼の背中にしがみつく。

 肩越しに後ろを振り返ればバルバドルの馬車ほどもある巨大な足が周りの建物や街道を踏みつぶしながら、手に持った金棒を振り回して追いかけて来る。

 顔に発射された弾は全て鋼鉄のごとき堅さの皮膚に弾かれ傷一つ付いていなかった。

 エイスはバイクの操縦をしたまま後ろを振り返り、再度自動小銃を放つが結果は同じ。


「ソノ程度、攻撃ニモナランワアアアアアアアアアアア!!」


 バルバドルが咆哮を上げ、手に持った金棒を振り上げる。

 同時にバイクが更に速度を上げ通りを駆けると一瞬後に背後に金棒が振り下ろされ巨大な爆発が起こった。

 爆圧により、嵐がきてもびくともしなかった王都の街は泥で出来た建物のように呆気なく吹き飛ばされ瓦礫に変わる。

 爆風にバイクが浮きかけたがエイスの操縦のおかげで何とか転倒せずに着地する。

 後方では瓦礫の山と化した街を押しのけてバルバドルは尚も進む。

 エイスは右手の武器三度かき鳴らす。


 バババババババ


 撃ち出された弾の殻が小銃から道に散らばり、連射された弾は弾かれる。

 拳銃と言い、自動小銃と言い、エイスの持つ『銃』と名の付く武器はどうやら魔物相手には威力不足のようだ。

 だが、自動小銃が効果が無い事はエイスも私も想定の範囲内。これは相手の注意を私達に向けるための挑発だ。

 挑発は成功し、今巨人の目には『足下の』私達以外映っていない。


「エイス、そろそろよ」

「わかった」


 合図と共にエイスは自動小銃を背負い直すと国境越えの時に使用した煙玉ーー小銃と同様に召喚されたーーを数個放つ。

 瞬く間に大量の白煙が放出され通りごと私達を包みこむ。


「フン、今更目クラマシナド無意味!マトメテ踏ミツブスノミ!!」


 バルバドルが大きく飛び上がり、大きな一歩を踏み出す。

 東通りを、煙で白一色に塗りつぶされてどこにいるか分からない私達事その重量に任せて踏みつぶすつもりなのだろう。

 煙の切れ目からその姿が見えるとバイクは反転すると、巨人の背後に向けて急速発進する。

 だが、私達が背後に出るよりその足が振り下ろされる方が圧倒的に早い。


 しかし、バルバドルの足は何も捉えなかった。

 本来そこあるべき地面も。


「ヌオ!?」


 突然消失した地面に驚愕の声を上げながら巨人は反対側の足を即座に振り下ろし、上体を反らして倒れるのを防ごうとする。

 その隙に私達は背後に出るとエイスは右腕に装備されたワイヤーショットを巨人の首に発射し巻き付けた。


「何!?」


 エイスはそのままバイクを急発進させる。

 右腕のワイヤーショットからは「ミシミシ」と軋むような音を立てていた。

 その力は通常の体勢であれば、バルバドルの歩みを一瞬も止めることのない程小さいものだった。

 しかし、体勢を立て直そうと上体を反らしていたバルバドルはそれにあらがうことが出来ず背中から倒れ込む。先ほどの金棒以上の衝撃と爆風が街全体を覆う。

 バルバドルは起き上がろうと手をつく。

 エイスはそれを見るとバイクの側面に装備された武器ーーグランドスコーピオンを一撃で肉塊に変えた円筒形の武装ーーを右肩に担ぎ、構えるとバルバドルが起き上がろうとついた手に照準を合わせる。

 彼の背にいた私も担いだ円筒の線上に入らないように身を離す。

 円筒の前方からは半楕円型の弾が発射され、後方からは弾のが発射される衝撃を相殺する爆発が起こる。 

 RPG弾は巨人の手ごと地面を爆破し、その手に全体重を乗せていたバルバドルは今度は横向きに倒れた。

 鋼の巨人は加熱された鉄のように顔を真っ赤に染める。


「ゴオオオオオオオ!!」


 もはや言葉にならない叫びに思わず耳を塞ぐ。絶叫は瓦礫の山と化した城下街を震わせ、その衝撃波によって燃え広がっていた炎もかき消える。


「RPGも効かないとはな」


 叫びに紛れてエイスが呟く。

 視線の先には先ほど爆破したバルバドルの腕がある。爆破によって地面には大きな窪みが出来たにも関わらず巨人の腕には僅かに焦げ目があるくらいでダメージらしいダメージは見当たらなかった。

 RPGはーー設置に時間のかかる地雷を除いたーーエイスが持ちうる武装の中で最強の威力を誇る武器だ。

 それが効かないとなるとーー


「行くぞ」

「ええ!!」


 エイスが再びバルバドルに向かってバイクを走らせる。

 横倒しになった巨人の眼前を横切る寸前、大きく開けられた口に三個の手榴弾を放り込む。


「オゴア!?」


 バイクが通り過ぎた後、ドラゴンのように巨人の口が火を噴いてまた仰向けに倒れた。


「やはり、体内(そこ)は効くんだな」


 エイスはバイクを急停止させると、座席の下からパイルバンカーを取り出し装着し、倒れたままのバルバドルの身体を駆け上がる。

 バルバドルは口内の爆発で昏倒しかけていたが自身の身体を駆け上がる者の存在に気づくと、それを叩き落とそうと左腕を振り上げる。

 それを見たエイスは再びワイヤーショットを放つ。

 巨人の眼球に向けて。


「グギョアアアアアアアア!?」


 ワイヤーショットの鋭い先端がバルバドルの左の眼球に突き刺さり悲鳴を上げた。全身が鋼鉄のように硬いと言われている鋼鉄巨人だが、眼球はその限りでは無いようだ。

 それにより振り下ろそうとしていた左腕が一瞬遅れる。

 その隙にワイヤーを急速に巻き上げると振り下ろされる左腕を躱し、顔面に蜘蛛のように張り付く。


「!?」


 眼前のエイスに巨人は人間の頭ほどある目を大きく見開く。今し方受けた傷の痛みなど無かったかのように。

 エイスは右腕の武装(パイルバンカー)を振り上げ、バルバドルの眉間に押しつける。


「ナ!?マ、マテ!?」


 直後、巨人の言葉は炸裂音に飲み込まれ、眉間の魔力石は砕かれた。



「エイス!」


 杭を引き抜き巨人の顔から降りたエイスに駆け寄る。

 キョロキョロと周辺を見渡しているところを見るにまたアレーー無理な肩入れーーをやろうとしているのだろう。

 右腕は力なく垂れ下がり、パイルバンカーからは炸薬を放ち空になった金属管が放出される。

 策戦前にエイスから聞いた事によると、パイルバンカーは杭を射出する際『火薬』と言う粉を使用しているらしい。火薬は熱や衝撃を加えると爆発する作用があり、それを詰めた金属管をパイルバンカー後方で爆発させることによって杭を高速で発射させることが出来るのだという。

 火薬を使用した後は金属管は自動的にパイルバンカーから放出される。そして、新しい管を装填することによって再び使用可能になるという仕組みになっている。

 この機能はエイスが使っていた『銃』と名のつく武器にも使われているとか。先端に鉛弾を付けた金属管に火薬を詰め、管の底を叩く事で火薬が爆発し鉛弾が飛んでいくという。

 この管のことを『薬莢(やっきょう)』とエイス言っていた。

 しかし、片腕で何発も放つことが出来る銃とは違い、パイルバンカーは一回でも使用すれば装備した腕が使い物にならなくなるので連続で使うことは不可能だが。

 私は彼の腕から武装(パイルバンカー)を外すと、大きく深呼吸し、空気と共に周囲の魔素を取り込むと、彼の手を取り詠唱をはじめる。


「ーー光よ、その力で彼の者の傷、癒やし給えーー」


 私の詠唱と共に白い光が彼の右腕を包む。

 光が止むと右腕は何事も無かったかのように動くようになっていた。


「……すまない」

「いいのよこれくらい」


 宮廷魔術師達から治療を受けた際、彼が抱えていた多くの怪我や薬物毒状態は直りはしたがそれは応急処置のような物。本当ならまだ大事を取って安静にしていなければいけない。

 だが、この策戦には異世界の武器を扱える彼の存在が不可欠な為、止む終えず宮廷魔導師にエイスが一時的にでも戦えるよう、身体の不調を消す魔法をかけてもらい参戦している。戦いが終わった後の事を考えれば彼はこれ以上負傷してはいけないし、私自身して欲しくなかった。

 それに……


(『あの音』はもう聞きたくないし)


 先ほど聞いた肩入れの音は今まで聞いたことが無いほど鈍く、下手をすればずっと耳に残りそうで正直もう聞きたくなかった。


「それ、壊れちゃったね……」

「そうだな」


 右腕に装着されたワイヤーショットに目をやる。

 異世界で作られた物であるため原理はよく分からないが、ワイヤーショットには射出されたワイヤーが巻き取るための糸車のような部位がある。

 しかし、今はそこからワイヤーが垂れ下がっている。


「あの巨体を引っ張ったせいでワイヤーの回収部位やその他(た)諸々の内部機構が破損したみたいだな」

「治りそう?」

「いや、無理だな。俺も修理の心得は多少はあるが、それはあくまで戦地破損した際の応急処置のような物だ。これは、俺の修復できる範囲を逸脱している」

「ごめん……」

「何故謝る」

「だって、それ、こっちに来る前からずっと使ってきたんでしょ。それなのに……」


 ワイヤーショットの表面は傷だらけだった。これだけの傷がつきながらも今日まで稼働していたことから、念入りに手入れをして使ってきたことがわかる。


「気にするな」

「でも……」

「確かに、消耗品である他の武装に比べてワイヤーショットには使用回数制限は無い。そのためそれなりに重宝はしていた。だが、どんな物でも使っていれば限界が来て壊れる。今回がその時だったというだけの事だ。それに……」

「それに?」


 エイスは暫し間を置いてから再び口を開く。


「俺は、お前の笑顔が見たい」

「にゃ!!?」

「今回の敵には出し惜しみは出来ない。お前が守りたいこの王都を守り、お前の笑顔を再び見るために、俺は自分に出来る事をしている。ただそれだけだ。

 だから、身体や武装の心配はありがたいが、そこまで気にしなくても良い」


 エイスの直球過ぎる言葉に思わず変な声を上げてしまう。

 赤くなる顔を逸らそうとしようとしたその時、


 バキン!!


 硬質な物体が割れる鋭利な音がした。

 音がした方に目をやる。

 そこには、真っ二つに割れたパイルバンカーの杭があった。


「ええええええ!?」


 割れた杭がコロンと武装から転がり落ちる。

 エイスは相変わらず無表情だが、何も言わずに棒立ちなところを見るにきっと言葉を失っているのだろう。


「な、何で!?」

「……恐らくだが、ドラゴンやあの鋼鉄の巨人の外皮が固すぎて杭が耐えられなかったのだろう」

「ちょ、これ大丈夫なの!?」

「……ダメかもしれん。パイルバンカーはこれまであまり使ってこなかった。それ故杭を破損した際の換えは……無い」

「うぇえええ!?」


 パイルバンカーは杭を相手に打ち込む武器。その杭が破損し、換えが無いとなればもうただの爆発する箱だ。


「そんな……、それじゃ他に杭の代わりになりそうな物は無いの?」

「無い……それにだが、実を言うと……パイルバンカー用の薬莢……炸薬が……もう無い」

「はあ!?」

「……先ほども言ったがパイルバンカーは元々あまり使っていなかったせいで、換えの備品をあまり用意していなかった」


 なんてことだ、これじゃ爆発する箱どころかただの箱ではないか。

 使い手に大きな負担を強いるこの武装はあまり好きでは無い。だが、持ちうる全ての力を出さねば勝てないこの戦いにおいて、強敵への決定打になり得るパイルバンカーが使用不可能になったのは私達にとって大きな痛手だ。

 途方に暮れていると王城の方から二人の騎士が私達の下へやってきた。

 一人は一般の騎士より軽装の鎧を纏い、移動の早さを重視した伝令役の騎士。もう一人は他の騎士達よりも豪奢な装飾を施した鎧を纏う大柄な騎士ーー騎士団長だ。

 そして、彼が私達の元に来たと言うことはーー


「出たのか」

「はっ!エイス殿の言うとおり上空の魔物を倒した後、巨人が壊した市壁の箇所から足の速い魔物数体が王都から出ていくのが確認されました!」


 エイスの問いに伝令騎士答える。

 ーーもし、魔王が空中の魔物を伝令用としていたならば、『そいつ』が倒された後は現場の状況を知るために足の速い物を代わりに伝令に向かわせるはずーーエイスはそう読んでいた。

 そして、その読みは当たったのだ。


 私達は未だに魔王の居場所が分からない。

 多くの魔物をこの王都まで率いて来たことから王国内、王都付近にいることは間違いない。

 だが、先の戦闘に出ていた騎士達が言うには攻め込んできた魔物達は何も無い空間から突然王都を囲むように現れたそうだ。

 強力な迷彩魔法をかけられていたのだろう。その為、奴らが東西南北どの方向からやって来たかのかすら検討もついていなかった。

 故に、魔王の下まで伝令に行く魔物だ現れたならば、その魔物を敢えて泳がせ、魔王のいる場所まで案内させる事になっている。


「姫様、本当に行かれるのですか?」

「そうね……そういう契約しちゃったから」


 団長の問いかけに私は答える。

 エイスの戦いを見届ける。それが彼が実利のある報酬を手放してまで私に提示したこの戦いの報酬。

 だが、彼の戦いについていくのはそれだけが理由では無い。

 彼の戦いを見届ける事以外にも、私にはこの戦いで彼のサポート等幾つかやるべき事がある。

 その為、彼と共に行かなくてはならない。

 団長の目を真っ直ぐ見返す。


「……王は貴女が戦場に出ることに大変反対しておりました。それは私も……いや、城で働く全てのものが同じです。恐縮ですが我々は貴女を実の娘や妹同様に思っています。それでも貴女は戦いの場に赴くと言うのですね?」

「ええ……ごめんね」


 団長は目を瞑り、大きく息を吐き出した。


「わかりました。ならばもう何も言いません。エイス殿、姫様をお願いします!もし姫様に何かあれば王や我々が貴方を……」

「任せろ。傷一つたりともつかせはせん」


 団長の言葉を遮るようにエイスが言う。

 団長は少し苦笑すると自分の腰に差していた長剣をエイスに差し出す。


「エイス殿、これを持って行ってください」

「なんだ」

「これは、特殊な素材と製法で造られた『魔封じの剣』です。文字通り魔法を無効化できる剣です。

 魔王はかつて強固な王城の結界を突破し姫様を攫ったことから我々の想像以上に魔法の扱いに秀でていることが分かっています。きっと我々の知らないような魔法を使ってくるでしょうから、お役に立つはずです」

「なるほど……」


 エイス長剣から視線を外す。その先には杭の折れたパイルバンカーがあった。

 そんな時、私の脳裏に一つの閃光が走った。


「……!ねえ、これって!?」

「ああ、使えそうだ」


 どうやらエイスも同じ考えに辿り着いたようだ。


「だが、炸薬が……」

「大丈夫よ、私に任せて!」


 エイスを屈めて耳手を当てると、考えを伝える。少し考えるように目を閉じ、無言で頷いた。

 エイスは剣を背負うと取り外されたパイルバンカーを収納し、バイクに跨がり、私はその後ろで彼の身体に手を回す。


「いくぞ」

「ええ!」


 ギュイイイイイン

 バイクの駆動音と共にバルバドルによって破壊された東の市壁から飛び出る。

 これから始まるのは王国の――いや、この世界の行く末を決める最後の戦いになるだろう。

 二度目の召喚を終えた直後、エイスが語った予測。

 何故、魔王はこの王国を狙ったのか。

 何故、南の国でも北の国でもなく、わざわざ険しい山脈を越えてまでこの王国を狙ったのか。

 もし、エイスの懸念通りならば全てに辻褄が合う。

 私はエイスの胴に回した腕に力を込めると、戦いへの覚悟を決めた。

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