第十七話「一発勝負、か……」
今回は短めです
~魔王Side~
「クソ!!」
苛立ちを隠せず、魔王は座っている椅子の肘掛けを殴りつける。
岩石で出来ているにも関わらず椅子はまるで砂糖の塊の様にボロボロと崩れ、肘掛けと諸共に椅子が半分も砕ける。
先ほどまで魔物の軍勢に襲われる王都の様子を鮮明に映していた映像魔法は、月の無い夜空の如き暗黒を映している。
「……王都を餌に使うとはな」
配下の魔物達が王都内に侵入したのは良かった。だが、王都ごと魔物を爆破するとは夢にも思わなんだ。
爆破の威力は魔王をしても舌を巻く程のものであった。規格外の魔素容量を持つ魔王でもあれ程の爆発は2、3回放てるかどうか。いかに魔王軍の魔物達が優れた個体達であってもあれ程の威力の爆発をくらって立っていられるモノは少ないだろう。
爆破の後は王城からの遠距離魔法攻撃で飛行魔物が軒並み撃ち落とされた。
戦場の様子を俯瞰で見るために飛行魔物の視界を映像として映すことが出来るようにしていた。その為今現在王都での状況を把握することが出来なかった。
映像外途切れるまでに生き残っていた配下は、炎に耐性のあったことで爆破箇所に集まらなかった魔物と、辛うじて爆破に耐えた魔物でありその数は総じて数十とごく少数。
生き残った魔物達は燃え盛る王都で人間の戦士達に追い回され、囲まれながらその数を更に減しているだろう。
「あの異世界人の仕業か……!」
怒りで声が震える。
『王都』という場所は人間の国の中枢。決して落とされていはけない場所
のはず。
現にその王都を守ろうと人間の戦士達はこれまで戦ってきていた。奴らがその王都を囮に使うような真似をするとは思えない。
十中八九、あの異世界人の仕業だろう。
「いや、まだバルバドルがいる」
魔王は一呼吸置き、気持ちを落ち着ける。 バルバドルは魔王軍双頭の一角。双頭のもう一角であるローガドルが倒されてからは全体の総指揮を任せている魔王軍の大戦力にして最後の砦。
王都で何が起こっているか把握することは出来ないが人間や異世界人がどんな策を張り巡らそうとヤツの巨体が全て踏みつぶすだろう。
その時、こちらに向かってくる一体の魔物の気配を感じとる。やってきたのは灰色の毛皮を纏った四足歩行の狼に似た姿の魔物だった。しかし、魔物である為その大きさは一般的な馬より一回り大きい。
「やっときたか!」
この魔物は、万が一魔王が戦場の様子を伝える飛行魔物が全て倒された際、戦場の状況を自分の下まで伝える役割を与えられていた魔物だ。
狼のような姿をしていることから、足の速さは魔王軍で最も速い。その速度は人間達が乗る馬の倍以上。
もし、人間達の誰かが気づいたとしても追跡は不可能だった。
狼魔物は魔王の拠点に近づくと途端にその姿が見えなくなる。
拠点周辺には王都に進軍してきた時に使用したのと同様の迷彩魔法をかけ周囲の景色と同化し見えないようになっている。
それと併用して魔王は拠点の周りに攻勢防壁の魔法を張っていた。
防壁は魔王とその配下以外の動物が近づくと火炎、雷撃、氷槍、毒霧等の迎撃魔法がランダムで侵入者を襲う仕組みになっており、防壁周辺には不用意に近づいた動物の死骸が防壁周辺に幾つも転がっている。
『魔王様……報告を……報告をします……!』
魔王の頭に魔物のうなり声が言葉となって響く。
魔王の下に到着した伝令は息も絶え絶えだった。
映像が切れた後一体何が起こったのだろう。
『魔王軍9割以上損壊。そしてバルバドル様が異世界人に倒されました!!』
「何ぃ!?」
最後の頼みの綱が切れたことに思わず声を荒げる魔王。
突然の怒声に狼魔物は驚き反射的に首を引っ込めてしまう。
『……わ、我々だけでの王都攻略は不可能かと思われます。どうかご指示をください魔王さーー』
ドドオン!!!
悲鳴にも似た狼魔物の懇願は突如頭上から降った来た爆音に掻き消された。
その爆音から威力は大きく防壁に阻まれているにも関わらず拠点を揺さぶる。
「今度は何だ!?」
ドドドオォン!!
続く3発の爆音と共に拠点が揺れる。
魔王の疑問に答えられる者は誰もいない。飛行魔物は全滅し、代わりの伝令役も目の前にいる。
だが、幾らかは想像できる。
攻勢防壁は防壁内に入った『生物』を自動で迎撃する仕組みになっている。
これほどの爆発を引き起こせるのは間違いなく魔法の類いだろう。
しかし、拠点に魔法を当てるならばある程度の距離まで拠点に近づかなくてはいけない。そうなれば間違いなく防壁の餌食だ。
しかし、それが発動していないと言うことはこの攻撃は生物によるものでは無いか、あるいは防壁の範囲外から攻撃をしているか。
(ということは……)
こんなこと思考するまでも無かったと思い僅かに笑みを浮かべる。
防壁はミシミシと軋む音をあげていた。
~エイス・ソニアSide~
「当たったわ。全部命中」
「わかった」
そう言って私は双眼鏡を下ろす。少し離れたところではエイスが作業をしている。
エイスの目の前には金属製の筒が三つ設置されている。
大きさはそれほど大きくなく私でも抱えられそうな程の大きさだ。
筒は両脇を鉄製の棒と台座に固定され、棒と筒についた調節具を弄ることで筒の角度を変えることが出来る。
そして、斜め上を向くその筒の口はある方向に向けられていた。
エイスは私の言葉を受け地面に斜めに設置した三つの金属製の筒の口にRPGから発射された弾頭によく似た弾を込める。
重力に逆らわず弾は筒の中を滑り落ち底にたどり着く。
その瞬間、私達は耳を塞ぎ、地に伏した。
ドドドン!!
耳を塞がなければ鼓膜が破れる程の轟音が響く。
その音と共に筒の口からはエイスが込めた弾が発射され、放物線を描きながら飛ぶ。
そして、眼前に広がる森林ーー王都の東に広がっている森林地帯ーーの木々の上空で爆発する。目を凝らすと爆発の煙の動きから、砲撃を阻んだのは透明な円形の結界のようなものだと言うことが分かる。
王都から脱した狼魔物を追ってきた私達は王都から東に広がっている森林地帯にたどり着いた。森林の大きさは北の大森林程では無いがそれでも王都で消費される材木を生み出している場所だけあって面積はかなり大きい。
西の荒野に魔王城があったことから、魔物達は西からやってきたことは間違いない。その為、拠点を構えるとしたら西方だと考えていた私はこの事実に驚いた。
私達は森林には入らず、少し離れた場所でその様子を見ている。
結界の内外には変わらず森林が広がっているように見えるが、先ほどまで追っていた狼魔物がその結界の境に飛び込むとその姿が掻き消えた。あの結界には防壁としての役割以外に周囲の風景に同化し内部の様子を隠蔽する役割もあるのだろう。
それを見て魔物軍が何も無いところから現れたと言う騎士達の言を思い出す。恐らくだがあの結界にはそれと同種の魔法がかけられているのだろう。
私が少し思考に耽っている間にもエイスは次の弾を筒に入れる。慌てて耳を塞ぐと三つの砲声が再び響き発射された弾が不可視の壁を叩く。その音はこちらにまで大気を震わせ距離の開いている私達のところまで届く。
爆音からその威力はRPGに勝るとも劣らないだろう。
射程距離もRPGより圧倒的に広い。
難点は設置や相手に照準を合わせる事に時間がかかりすぎること。
しかし、それを考えたとしてもお釣りが来るほどにこの武器は強力だった。
「すごい威力ね。その……それ、なんだっけ?」
「迫撃砲だ」
迫撃砲。それがこの武器の名前。
この武器の特徴はRPGに勝る威力や
射程距離ではなく、その弾道にある。
金属の筒から発射された弾頭は放物線を描くように飛ぶ。その為自分と標的までの間に存在する障害物を飛び越えて攻撃出来る。
エイスが今まで使ってきた遠距離攻撃毛の武装はでは弾が直進して進むため標的との間に障害物があると阻まれてしまうと言う欠点があるが、迫撃砲はその特性故森林の中の魔王の拠点にも接近せず攻撃することができる。
ちなみにエイス曰く「これは持ち運び易いように改良された物」らしい。異世界にはこれ以外にも多様な大きさの迫撃砲があるそうだ。
双眼鏡を覗くと透明な結界に白い筋のようなものが入っているのが見えた。
ヒビが入ったのだろう。
「ヒビが入ったみたい。そろそろよ!」
「わかった」
言葉短めに答えるエイスは一気に砲門に一気に弾頭を込める。
ドドドン!!ドドドン!!
内臓まで震えるような轟音が6回。着弾した弾頭は結界を粉々に砕き、その中から現れた洞窟を含む小高い丘ごと吹き飛ばした。
周囲の木々を覆い隠すように舞い上がる土埃と煙。
それを確認するとエイスは自分の後ろに置いておいた黒い箱ーーパイルバンカーに手を伸ばす。
この場所に到着した直後、私達はただの箱と化したパイルバンカーの改良を行った。
見た目は変わらないが巨人との戦いで割れてしまった杭の代わりに騎士団長からもらった魔封じの剣の刃部分が組み込んである。
魔法の扱いに長けた魔王ならばパイルバンカーの攻撃に耐える障壁を生み出すことだって出来るだろう。それを顧慮しての改良だった。
後はどうやってコレを魔王に当てるかだが、その方法も実はもう出来ている。
「本当に一発勝負よね……」
「……そうだな」
改良されたパイルバンカーに視線を落とし、そう呟く。
エイスと私で考えたその方法は、二人が息を合わせなければ成功しない。外せば間違いなくこちらの敗亡が決定してしまう。そんな策戦だった。
でも、やるしか無い。やらなければ王国が、私の生まれ育った故郷が滅びてしまう。もしかすればそれだけでは済まないのかもしれない。
両頬を叩き気合いを込める。
「行くぞ」
エイスと共にバイクに乗ると最大速度で森林の中へ突っ込むのだった。
~魔王Side~
エイスの迫撃砲による攻撃で周囲の森や丘ごと更地となっていた。瓦礫の山と化した拠点から這い出る者が一人。
魔王だった。
その右手には伝令役の狼魔物『だった』者が肉塊となって握られている。拠点崩壊の瞬間瓦礫から身を守るため咄嗟に盾にしたのだ。
王都陥落の為に選ばれただけあってその身体は強靱であり、砂埃を被った事を除けば傷一つ負うことはなかったーー盾にされた本人を除けば。
魔王ほどの魔法の使い手であればこの程度の瓦礫は自分でどうにでもなったが、その後の事を考えれば少しでも魔素を温存しておきたかった。
「く、くくくく……」
魔王はその口角を上げる。
遂行間近に迫っていた計画をひっくり返された挙げ句、自身の軍団や拠点を諸共破壊されたのだ。傍から見れば気が狂ったかのように見える。
そしてそれは強ち間違ってはいない。
全てを壊された魔王は今、正に
怒り『狂って』いるのだから。
「……クソガアアアアアアアアアアア!!」
激憤の咆哮と共に無意識に発動した魔法により周りに残った木々や岩石は吹き飛ばされ地平線の彼方に消える。
周囲には魔王を中心とした巨大な円形の更地が出来ていた。
「おのれぇ……異世界人めぇ……!!」
ぐしゅ、と右手に握られた肉塊から潰れる音がする。
魔王の頭の殆どが異世界人に対する憎悪で満たされていた。
だが、僅かに残った理性が高速で接近する者の存在を告げる。
周囲の木々を縫うように避けながら、しかして速度を落とさないその動きは既に伝令から送られてきた映像で見ていた。
「そこかああああ!!」
右手に握っていた肉塊を左方へ投げる。
空気中には魔素が含まれており、物体が動けばそれに合わせて魔素も流動する。魔王の頭頂にある角には大気中の魔素の流れを読み取る力があり、それを応用すればある程度の距離にいる敵の動きを察知することも出来るのだ。
そして、魔王の左側面の木々の間から新月の夜を塊にしたようなものがーーバイクに乗ったエイス達が飛び出してきた。
バイクは急停止すると投げつけられた肉塊を前輪を持ち上げ、踏みつぶす様に叩きつけ潰す。
しかし、その動作のせいでバイクの勢いは完全に止まってしまった。それを見ると魔王は思わず邪悪な微笑みを浮かべる。
(鉄の馬でそのまま我を轢こうとしたのだろうが、甘かったな!)
戦い主導権を握るには如何にして相手より先に初撃を与えるかが重要。
その点において拠点が破壊され、こちらが混乱しているであろうタイミングで奇襲を仕掛けてきたのは悪い判断では無い。
だが、そのタイミングはこうして崩れ去った。
魔王は魔法を放とうとバイクに向かい肉塊を投げた右腕をかざす。
だが、
「なにぃ!?」
バイクは肉塊を潰した動作のまま、前輪を軸に、叩きつけた反動で後輪を浮かしていた。
そして、半回転し、
「ぐおあ!?」
そのまま魔王の顔面に高速回転する後輪を叩きつけた。
「くたばれ、このクソ魔王!!」
次回決着!(予定)




