005 召喚のルール、そして日本に帰還する手段はあるのか?
袖を肩まで捲った青いTシャツが特徴的な男子生徒、岬羽異が焦ったように叫んだ。
「お、おいっ!俺達、出ちまったぞ!?」
「あっ…」
見渡せば高校生達は全員魔法陣から出てしまっていた、もう魔法陣内に残っているのは俺ひとり。つまり聖テスコボ学園の生徒達の身柄は既に異世界に渡ったという事だ。
「そ、そんなのやっぱり嫌だ!!ブヒィ!!」
小太りの少年が魔法陣内に戻ろうとした、しかし透明なガラスにぶつかったかのように何も無い場所で鼻を打ち地面に崩れ落ちた。
「た、多部田氏、大丈夫ナリか?」
「み、見えない壁があるゥ!!」
「ヒイイアァァッ!!戻れないィィィィッ!!」
陰キャの四人組が必死に戻ろうとするが魔法陣の外周部分が冷たくそれを阻んだ。ガラス戸を叩くように彼らは見えない結界を叩くがどうにもならない。
「既に君達は異世界の住人になってしまった…、世界を越えてしまったんだ…。戻るにはなんらかの手段を見つけるか…、あるいは魔王とやらに聞き出すか…。もっともその魔王ってのが知っているのって事だけどさ」
「ど、どういう事だよッ!?」
「だからさ、その魔王ってヤツか?その魔王がホントに日本に戻す魔法ってのを知ってるのかって事。魔王サン、魔王サン、あなたは日本に帰る方法を知ってますよね?…ってインタビューしたのかって話だよ」
「し、し、知っているッ!!知っているハズじゃ!なんせ魔王は強大じゃ、魔術にも当然秀でておる!なんたって魔術を生み出した魔族の頂点に立つ者なんじゃぞ!神の次に力を持つと言われる存在なんじゃからな!知らぬ魔術などないわッ!!」
国王が叫ぶ、あまりに必死に…。それを見ていたらなんだかこちらは冷静になってくる。
「ふーん?じゃあ…えーと、岬君…だっけ?そんなに帰る方法を知りたいならいっその事さ、魔王に教えてもらえば良いんじゃないの?訪ねていって頼み込むとかさ、何か手土産持って交換条件出すとかさ」
「ああ?手土産だぁ?プレゼントでも持ってけってのかよ?」
「何も物を持ってくばかりが手土産じゃないだろ?人間に攻められて困ってる場所があるならそれを止めてやるとかさ。魔王だって自分を殺しに来るヤツに教えてやりたいって思うか?それこそ自分の役に立ったヤツの方に教えたくなるだろうし。あと、もさ帰還する方法を聞き出そうとしていたのに間違って殺してしまったら?死人に口無し、聞き出そうにも聞き出せないぞ。」
「そ、そういう可能性もあるのか…」
「なッ、無い無い無い無いッ!!ヤツは知らん!帰還の魔法なぞ知るはずがない!交渉など無駄じゃあッ!!」
国王が慌てて話に割り込んでくる、そんな国王に俺は短い質問をぶつけた。
「なぁ…、どっちなんだよ?魔王は帰還方法を知ってるのか、知らないのか。アンタ、両方言ってたぞ」
「ぬ、ぬぐぐぐぐ…!!」
国王は答えない、知っているとも知らぬとも…。その時、魔法陣の前で途方に暮れていた陰キャの男子生徒が口を開いた。
「な、なんでおじさんはそんなに召喚魔法に詳しいナリか?ま、まさか魔法使い…?」
「違うわッ!!」
なんか不名誉な響きを含んでいそうだったので俺はすぐさま否定する。
「俺も中学や高校の時にゃその手の小説を読んだもんだ。ある作品で有名な悪魔を呼び出した召喚士が出てきた、そして呼び出した後に交渉を始めた。召喚士は絶対的な安全の保証を皮切りに力を行使する対象の指定…、代わりに悪魔は生贄の数や条件…その他に引き渡す品物…その交渉の末に限定的だが悪魔を支配下に置いた…。まあ、契約の抜け穴をつかれて東京は大破壊に見舞われてしまうけどな」
「ま、まさか、今もシリーズが続いているあの…、そのプロトタイプに当たる作品ナリか!?」
「ああ、多分それで合ってる。最初期の三部作、初版で持ってるよ」
「す、すごいナリ…」
よく分からないが珍妙な語尾が特徴的な男子生徒が憧れの目でこちらを見ている。
「お、おい…!?」
青Tシャツの岬羽異が話しかけてきた、その顔に余裕は無い。
「俺達、どーなるんだよ?なあ!?」
「知らねえよ、俺が決めるんじゃないんだから」
「そ、そんな!大人だろ、助けろよ!?」
「はあ?なんで?」
「な、なんでって…」
「お前、言ったじゃないか。ハズレのおっさんなんて無視だって。放っといて行こうぜと…」
「あ…」
「あんだけ人の事を馬鹿にしといて今さらソレか?それに俺は止めたぞ、行くなってな」
「ぐ、ぐぐぐ…。な、なあ…俺どうなるんだ?どうなっちまうんだ…?」
少しは現実を痛感してきたのか、口調が不安なものへと変わっていく。自分の事しか考えてなさそうだが…、仕方ない…少しは安心させてやるか。
「気休めかも知れないがそこの国王はお前達を国の正式な勇者として認めると言っていた。あと食い物をはじめとして最低限は用意されるだろ」
まあ他に酒だとか美男美女とかも言っていたけどな、それは言わないでおくか…。もっとも問題はここから…、向こうには俺との交渉が残っている。
俺は異世界に残るつもりはない、これは大前提だ。同時に譲れないところでもある。さっきの鑑定…、あれで言っていた俺の商人という職業…今の自分の職業だ。なんらかの勇者である高校生達と違って戦う力はないだろう。
だからこの異世界に出てしまったら死にに行くようなものだ。だから何がなんでもこの魔法陣からは出ない、そしてもうひとつ…手に入れなければいけないものを痛感するのだった。




