003 召喚された高校生達を鑑定
「なあなあなあ、コレどういう事だよ!」
一人の男子生徒が食ってかかるようにして声を上げていた。ブレザーを着ている生徒も少なくない中でブレザーもワイシャツも着ずに袖を肩まで捲り上げた青色のTシャツ姿である。
何かスポーツでもやっているのか背も高くしっかりした体格だ、屋外競技なのか肌がよく日焼けしている。髪は茶色でおまけに長く伸ばしている、少なくともTシャツの襟に届くくらいには。背も高く立ち振る舞いからここにいる生徒達の中での発言権が大きそうに思える、いわゆるスクールカーストの上位に位置するタイプに思えた。
「ワッケ分かんねえトコにいきなり拉致られてよォ!山ン中で三日過ごせとかクッソくだらねえ…、まあ梨子がいるから来たっつうのによォ」
いかにも不機嫌という様子でTシャツ姿の少年が声高に叫ぶ。その横には梨子と呼ばれた子だろうか、こちらはTシャツの男子生徒よりさらに明るく派手な髪色をしている。ブレザーは着ていないが半袖のブラウスを着ており肌はしっかり小麦色、いわゆるギャルというやつだろう。
「貴様、陛下の御前でなんと無礼な…!」
衛兵達が色めき立つ。
「よい」
国王が片手を上げてそれを制した。
「いきなりであったからの、…リブリス」
「はっ」
王の横に侍るキツネ目の男が応じて話し始める。
「我らが声に応じようこそおいで下された、異界の若者達よ。我が名はリブリス、リブリス・ナレッジフォックス。伯爵位を預かり陛下に近侍する任に就いております」
近侍…?俺は心の中で呟いた。近侍って事は常に王のそばにいるって事か、軍師とか相談役みたいなポジションで…。伯爵とも言ってたな、伯爵は日本でいえば一国一城を持つ大名と同じくらいだと聞いた事がある。俺は頭の中で知ってる事を引っ張り出す、今いる場所が同じシステムとは限らないがそれでも自分の持っている知識と擦り合わせるは出来る。何にも分からない状態でいるよりは少しでも自分なりに理解しておく事は大切だ。特にこんな封建制の真っ最中みたいな国王だ、伯爵だなんて言っているような国の中では…。
「下手すりゃ首が飛ぶかも知れないんだからな…」
誰にも聞かれないように俺は小さく呟いた、異常なこの場に引きずり込まれた自分を戒める為にも…。そして簡単な自己紹介を終えたリブリスと名乗る男は再び口を開く。
「手短に話しましょう。今、我が国は魔王による侵略の危機にありそれを迎え討たねばなりません。しかし魔王は強大、また配下の魔物も侮れません。そこで我々は昔、世界の危機を救いし遥か彼方の地より現れた勇者が現れる事を願いました。それがあなた達なのです」
リブリスは静かに…、だが聞こえやすく印象に残る声で言った。
「ウッソ!!マジで?コレ、異世界召喚?」
半袖白ワイシャツを着ているがボタンを三つ程外して胸元から赤色のTシャツが見えている男子生徒が飛び上がるようにして叫んだ。ひとつひとつのアクションが大きい、クラスにひとりやふたりこういうお調子者っていたよなと俺は昔を思い出した。
「マジすげーじゃん、コレってアレだろ?デケェ魔法がぶっ放せるとか、山ひとつ叩っ切るようなパワーが身につくとかそういうヤツだろ?俺にもそういうのになれるって事じゃん!うわ、マジ最高じゃん!俺なら勇者ヤマモト…、いやなんかダセェな。じゃあ勇者シゲル…うわ、どっちもなんかダメじゃん」
このお調子者クンはヤマモトシゲルというらしい、その自分でオチをつけていくスタイルに生徒達から小さくハハハと笑い声が上がる。それに乗るようにしてひとつふたつ声が上がり始める。
「いや、勇者なら名前的に俺だろ。俺はイチノセだし」
「ワカミヤの俺を忘れるなよ」
なぜだか分からないが急に名字マウントを取り始める者が現れた、一方で…。
「分かってないですねェ…、こういうのは鑑定士による成り上がりに決まってるじゃないですかァ」
「いや、こういうのはポーション作る薬師だろ」
「鍛治師一択でしょ」
「ブヒッ!飯テロでケモ耳娘を手懐けてそれからデュフフ…」
休み時間に教室の端っこでコソコソ何かをやってそうな男子四人組が何やら静かに盛り上がっている。リブリスは元々細い目をしているキツネ目をさらに細めて生徒達の様子を確認すると再び話し始めた。
「話が分かってもらえているようで助かります、ですが勇者召喚の儀は過去に何度かありました。その誰もが強大な力を保持しておりましたが様々な特徴を持っていたと伝わっています。ただひとりで魔王を討ち果たし偉業を成した者、鋼鉄製のゴーレムを素手で貫く程に武勇に長けし者、逆に大司教すら叶わぬ程の回復や大魔導士にも習得出来なかった攻撃の魔法を同時に操ったという勇者もいたと伝わります。皆さんも様々な特徴をお持ちのご様子…、是非その力を紹介させて頂きたく人物鑑定官を呼んでおります。では…そちらの青い服を着た方…」
「ん、俺か?」
青いTシャツの男子生徒が応じると居並ぶ王侯貴族や衛兵達の横から二人の男が進み出てきた、二人とも同じ格好をしているが色もデザインもシンプルなものだ。いわゆる文官なんだろう。一人は衣服の襟に二本の線が、もう一人には一本線が引かれている。その二本線の入った服を着ている文官が青いTシャツの生徒に向けて呪文を唱えて手をかざす、すると男子生徒の体が淡く光る。
「な、なんだこりゃ…?」
男子生徒は淡く光り出した自らの体を見て戸惑っている、一方で襟に一本線の入った服の文官は羽ペンで何かをサラサラと書き込みそれを恭しくリブリスに手渡した。受け取ったリブリスはそれを読み上げる。
「ウイ・ミサキ…。貴方は蹴撃の勇者…。あらゆる場面に対応出来る蹴り技に長けし者…」
「は?勇者だって?」
ウイ・ミサキと呼ばれた青いTシャツの生徒が口を開く、同時に周囲の生徒がワアアと沸いた。
「スゲー、勇者だってよ!」
「蹴り技か!さすがサッカー部一年生期待のホープ岬羽異!未来のエース候補!」
「お、おう…。まあな…」
さっきまで終始面倒くさそうな顔をしていた青いTシャツの生徒だったが今はまんざらでもない顔をしている。
「なんかスゴそーじゃん!羽異〜!」
横にいたリコと呼ばれていた女子生徒が男子生徒に腕を絡める。
「では次はお美しい貴女」
「へっ?あーし?」
腕を絡めながら女子生徒が振り返る、その時には既に二本線の文官は呪文を唱えていた。淡い光を帯びた彼女を見て一本線の文官が手元の紙に何やらサラサラと書き込んで手早くリブリスに手渡した。
「リコ・アンノウ。歌姫の勇者…、その歌声には奇跡の力が宿り魔法のごとき効果がある」
「うおおおっ!ゆ、勇者が二人も…」
盛り上がる高校生達、そしてその盛り上がりは王侯貴族達にも広がっていた。すぐさま国王が口を開いた。
「こ、これは…!!もしや全員が勇者なのではないか!?そ、そうじゃ、それに違いない!!急ぎこの者達を鑑定するのじゃ!手の空いている鑑定士達をここに寄越すように伝えよ、急げ!」
「ははっ!!」
王の言葉を受け衛兵の一人が駆け出していく、ガァンガァンと踏み出すたびに鳴る鎧の音が石の床や壁に反射してやくにうるさかった。




