002 目を開くとそこは召喚現場
不自然に思われるかも知れませんが今話において国王の名はあえて出さないようにしています。
国王が自分の名を名乗るのは必要がある時のみ。また、国王に接する場合ですが接する側がその名を知っていなければならないというのが常識であるからです。また、下の立場の者も気安く呼んで良いものではないため誰も口にしていません。せいぜい国王の子供を○○王子殿下とか△△姫殿下などと呼ぶような感じです。
例えばアメリカなら…目の前に大統領がいる、名前は当然知っている…みたいな感じでしょうか。
強い力によって体ごと吸い込まれるような感覚、だが何かにぶつかったような感触はない。どうやら目の前を走り抜けていく観光バスとぶつかるような事はなかったようだ。同時に頬にひんやりとした空気を感じた、少し暑く感じるくらいだった日差しの気配もない。俺は眩んでいた目を恐る恐る開けた。
目の前にはたくさんの人、全員同じようなブレザーの制服を着た十代半ばくらいの男女がたくさんいた。…いや、中にはブレザーどころかワイシャツすら着ておらずTシャツ姿の者もいる。彼らを見ていて先程見たバスが通り過ぎていく光景が頭に浮かんだ。隣県の名門校…聖テスコボ学園、そのバスに乗っていた生徒達の制服だとすぐに気づいた。彼らもまた突然の事に俺同様に戸惑っている。
そして同時に聞こえてきた周囲からの興奮気味の声、俺のでも高校生達のものでもない。このあたりでは見た事もないような珍妙な格好をした者達だった。
「おおっ!召喚に成功しましたぞ!!」
「やりましたな、陛下!!」
「まことにめでたいッ!!」
「陛下、万歳!!アクイアーリ、万歳!!」
口々に何やら言っている複数の連中、少なくともウチのご近所さんではない。なんとも見慣れない顔…どれもこれも日本人らしくない、いわゆる西洋人的な顔だ。俺達が普段着とは明らかに違う着るのに手間がかかりそうな衣服を身につけている、高級そうではあるけれど…。他にも服装はよく分からないが動く度にガチャガチャと金属音を立てる鎧を身につけている者達もいる。
こいつは…コスプレなんかじゃないな…。
周囲にいる興奮している連中を見て俺は間違いないと確信した。鎧を身につけている奴はいわゆる衛兵ってところだろう。手にしている槍の穂先は間違いなく本物の鈍い輝きをしている、同時に鎧が立てる物々しく重い金属音…。武装していない連中にしてもそうだ、厚めの布地を使った見方によっては古臭い服装…。世界史の教科書挿絵があるような中世の王侯貴族…、あるいは音楽室の壁に肖像画が貼られている作曲家…、誰もがそんな格好をしている。
モノホンの貴族ってヤツか…。
奴らが口にする言葉こそ理解できるが間違いなくここは日本じゃない。それどころか地球の中でもなさそうだ。着てる物が明らかに高級だ、布地は厚めだし色合いは派手さはないが重厚感がある、俺は持ってないけど一着数十万円はするオーダースーツの布地のような印象…。その連中の中で似たような格好をしているが一人だけ異なる印象を持つ男が一人いた。
まだ若い銀髪の男だった、漫画に出てくるスネ○か花○君かというような前髪を横に流して尖らせたような髪型をしている。細身で自分の肩くらいまでの高さがある杖を持っている。いわゆる美男と言われるような顔立ち、だがその顔には疲労感があり額には汗を浮かべている。呼吸もやや荒い、その若い男が斜め後方を向いて口を開いた。
「はぁ…はぁ…。偉大なる国王陛下に…魔法士ラウルスク・ミレイエフが申し上げます」
若い男はラウルスク・ミレイエフというらしい。息が上がっていたがひとつ大きく息を吸って胸の中を満たして荒れ気味の呼吸を整える、と同時に声を張り上げた。その目線の先に陛下と呼んだ小太りの中年男がいた。一際豪華な衣服を着ており金や宝石を使った冠と杖…王笏というやつを手にしている。
「うむ」
トランプのKのカードに描かれているような髭をしたオッサンが口を開く。
「ようやった。その方…、あ〜…」
「ミレイエフ伯が第四子、ラウルスク殿にて…。魔法士を務め、位階は騎士爵にございまする」
何やら言い淀んだ国王と小声で耳打ちするすぐ側にいたキツネ目の中年男…、どうやら国王は若い銀髪の男の名を忘れていたらしい。
「ラウルスク、見事であった。そちの…あ〜、家名に恥じぬ働きじゃ。褒めてつかわす」
「ははっ!身に余る光栄…」
ずっと頭を下げている銀髪の若者、国王はお褒めの言葉もそこそこにこちら…高校生達と俺がいる方を見た。満足そうな笑みを浮かべてフムフムと何やら呟きながら端から端までゆっくりと見回している。その時間はラウルスクとかいう銀髪の男に向けていた時間よりも長い、明らかに興味はこちらに向いているようだ。
「して…、なにゆえこれだけの人数がおるのじゃ?たしか古くに行われた勇者召喚の儀式においてはただの一人であったと聞いておるぞ?」
「返答いたせ、ラウルスク」
国王が疑問を口にするとキツネ目の中年が若者を問い正した。このキツネ目の男はおそらく国王の側近とか腹心の部下なのだろう。
「はっ、返答いたしまする」
若い男はだいぶ呼吸が落ち着いたのかより声を張る。
「今より百年前、暦の上では最も月が大きく見える日に勇者召喚は行われたと記録にございます。その歳、十六を迎えし者…」
十六…?ああ、そうか…俺は小さな納得をした。聖テスコボ学園は進学校だ、三年生は受験に専念する為に大きな行事はやらず修学旅行は二年生に林間学校は一年生で行くのだと聞いた事がある。この高校生達は林間学校に向かうところだ、十六歳を迎える者というならまさしくその通りだ。
「そこでぼ…いえ私は考えたのでございます、かつての魔王の侵略から国を救った立役者…。もし多数呼び寄せたならばどうかと…、必ずやその力は有用であるはず…。魔族に対する意味でも…、そしてその蔓延る地を切り取るにも必ず…」
ラウルスクの声にだんだんと熱が帯びてくる、こいつは自分の言葉に酔ってくるタイプのようだ。
「ゆえに私はその齢十六を迎える者が数多くいる場を探したのでございまする、己が探知魔法で…。大きな労力と素材を要する勇者召喚、ならば一人より二人、二人より三人…より多く集める為に!そしてその場を見つけた私は面積広く発生する召喚魔法陣を展開したのです、あのように!」
そう言ってこちらを指差してみせるラウルスク、その指先は石造りの床に向いている。俺は足元を見た、暗めの色合いの石で作られた床材だった。そこに浮かび上がっているのは白い色で引かれた魔法陣、直径は十メートルくらいでうっすらと天井に向かって淡い光を放っている。
勇者召喚だって…?おいおい、マジかよ…。ずいぶんファンタジーな事してくれるじゃねえかよ…。俺は驚きを通り越して呆れの境地に至る、思わずため息が出た。
今は四十歳の俺だが昔からこの年齢だった訳じゃない。俺にだって中学生や高校生の時はあったんだ。そういう日本で普通の生活をしてた主人公が何かのきっかけで異世界に…なんて小説やら漫画を見た事はある。だが、実際に我が身に起きてしまうと迷惑極まりない。つーか、冗談じゃないぞ。ウチの宿の戸締りは?売店の仕入れは?色んな心配が頭に浮かんでは消えまた他の心配が浮かんでくる…、その時だった。
「なあなあなあ、コレどういう事だよ!」
一人の男子生徒が食ってかかるようにして声を上げていた。
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