007 交渉の天秤
「ぬぐぐ…」
目の前にいる国王が苦虫を噛み潰したような顔をしている。俺から召喚者を元の世界に戻す送還の術を求められたからだ。
送還の術は召喚した側が手に負えない者を元の世界に戻す為に使う、相手が強大すぎて従える事が出来ない時に使うものだ。しかしその為には召喚した時に要した魔力と素材などを同量用意する必要がある。
「役に立たない俺に魔力や素材をどれだけ浪費するつもりだ…?」
俺は笑みを浮かべながら言ってやった、主導権と余裕があるのはこちらだぞと言わんばかりに…。今の俺はたちの悪い金食い虫みたいなものだろうか、自分で言っていて嫌になるけどさ。だけど存在するだけで損を生むだけの存在なら早く手放したくなるはずだ。だけど安全に元の世界へと確実に送り返すのなら召喚時と同じだけの魔力も素材が必要、だけど双方が納得すればその代償を軽減出来る。そこで俺は話し合いに持ち込もうと考えた。
「そっちも役に立たない俺に浪費はしたくない…、だろう?だから…、交渉といこうじゃないか」
「交渉…、じゃと?」
ピク…、国王の片眉がわずかに動いた。
「ああ、そうさ」
俺はなるべくゆっくりと声に出した。そして勇者召喚された高校生達を見回す。勇者として呼ばれた彼らは帰りたがっている生徒もいる、逆にそうではなく乗り気な生徒も…。俺を日本に戻す際に送還に要する消費を相殺する為に俺は彼らの身柄を一緒に連れ帰る事を求めていく事にした。
「俺を元の世界に送り返す…、だが魔力も素材も使いたくはない」
「当然じゃ!誰が貴様のような役立たずに…!」
「だから俺が求めるのはそこにいる勇者召喚された高校生達…三十人全員も共に送還する事だ」
「な、なんじゃと!?勇者を三十人全員じゃとッ!?」
「そうだ、俺はそれを送還の条件として…、『宣言』する!」
俺がそう言うと召喚士であるラウルスクと俺の間に大きな天秤が浮かび上がった。その天秤は片方にだけ大きく傾いている。
「なんじゃあ、この大きな天秤はァ!?」
国王が大きな声で叫んだ。
「ソ…ソロモンの…大天秤…。こ、この目で見る事になろうとは…」
額に汗を浮かべてラウルスクが呟いた。
「なんじゃそれは!ええいっ、申せ!」
「しょ…、召喚の儀はあくまで対象をこの場に呼び出す儀式にございまする。しかしながら従わせるのは別の話にございまする。完全に支配するのか、あるいは部分的な服従か…。はたまた一時的な協力か…、その力の行使させる範囲は全く変わって参ります」
「じゃ、じゃが…、勇者達はこうして我が国へと入ったではないか!?」
「それは勇者達が無知…いえ、陛下の誘いに応じたからでございます。飲食などを供し我が国の勇者として迎え入れ大々的に喧伝する事…、そのように陛下が口にされました。そして勇者達はそのまま魔法陣の外に出た為、その身は我が国の元にある…そういう事にございまする」
「で、では!この馬鹿でかい天秤はなんなのじゃ?ひとりでに宙に浮いているではないか!?」
「ソロモンの大天秤…、いずこかの異界にいたという魔術に長けしソロモンと名乗る王が悪魔を呼び出した時に使ったと聞き及びまする。互いに条件をぶつけ合う事でこの天秤は左右に傾き、それが釣り合った時に契約は成立すると…」
「あ、悪魔じゃと!?そ、それをなぜこのような下民風情が知っておるのじゃ!?」
俺の方を指差し国王は喚いた。
「ソロモン王か…。俺のいた世界で大昔にあらゆる悪魔を呼び出し使役したと聞いた事があな、そっちが言っているソロモンというヤツと同一かは知らないが…」
「その者の申す事、真実!」
嘘発見器役の文官が声高に王に告げる。って、言うか…ソロモン王、本当に悪魔使いだったのか…。こりゃあ歴史の大発見だ。てっきり呪術とかそういうのを政治利用してるだけかと思ってたよ。
「ぬ、ぬうううっ!!な、なぜじゃ!なぜこのような下民がァ…」
「お、おそらくアーヤ・セイバレーの書物によるもの…。そうでなければ魔導士でもないこの男が召喚の儀の事を知るはずは…」
王と召喚士ラウルスクは戸惑いと悔しさを顔に出している。どうやらこの交渉、こちらに有利な状況のようだ。そこで俺は交渉を進める事にする。
あのソロモンの大天秤…、それが水平になった時に元の世界に戻れる。本当は一人で帰っても良いが拉致同然の召喚でこの世界に引きずり込まれた生徒達を見殺しにしては寝覚めが悪いし…。
「さあ…、交渉を始めようか」
俺はゆっくりとそう言った。
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