1-8. 進級、おめでとう
「オリ、明日は休みだったな」
この世界に合わせ5日ぶりの休み。
「狩りに行く、付き合え」
前日に上司からの休日出勤命令。ここはブラックだったんだ。
まあ大学で起業した俺は部下だった経験がなく、そもそも会社が落ち着くまで休みなんか無かった。
「街の外に行く」
10級冒険者は街の中でしか仕事ができない。
「昇級試験ですか」
「そうだ」
翌朝冒険者ギルドに集まり街の外へとはならず、装備の確認をされた。
「水と野営装備、日帰りのつもりでも最低1日分の食料は持って行く」
だそうで水筒以外持って来なかった俺は不合格。
水筒はだいたいの冒険者がぶらさげているので真似ただけだが。
「その水筒は酒を入れるもんだ、小さすぎる」0点だった。
ヒューダマインが一式見繕っていた。
また借金を作ってしまった。
「まあこれだな」と依頼書を剥がし俺に渡す。
「受注してこい」
カウンターへ
「初狩りね。蝶にならないイモムシか丁度いいじゃない。説明いる?」
「お願いします」
「え、お願いしますって言った?」
うなずく。
「声は出るようになったとは聞いたけど、本当なんだ」
「蝶にならないイモムシはその名前の通り蝶にならずそのまま大きくなるイモムシ。何でも食べる。木さえね。大きさは1テール以上」
1テールは人の身長、かなりざっくりだが1.8mほど。こっちの人は背が高い。
「街の東ゲプロの森に生息、たまに森からでて畑を荒らすんで間引きと食料として常設依頼になってる」
「イモムシを食べるの?」
「何言ってんのオリだって食べるじゃない。この街で食べられている最も安い肉だもの」
スープにたまに入る肉はそいつだったか。
「攻撃はお尻から粘着性のある糸を吐いて動きを止め、丸まっての突進。弱点は頭だけど丸まると内側になって直接狙えない。こんなとこかな」
丁寧な説明を受ける。
「情報が更新されてるかもしれないから毎回確実に確認しろよ。ここで見栄張っても意味がない」とヒューダマイン。
「それと荷台を借りろ肉を持ち帰る。討伐報酬は安いが肉込みならいい仕事になる」
時代劇で見るような人が引く荷台。無論俺が引く。
道は整備されているはずもなく、傾斜も多い。身体強化ができなきゃ無理だ。
日の出すぐに街を出て4時間ほどでゲプロの森に着いた。
「蝶にならないイモムシを見つけるのは簡単だ。アイツら咀嚼音がでかい。今日は森に入らない、お前はまだ危ないからな」
静かに森のへりを進む。
しばらく進むとバリバリと音がする。
「この音がそうだ」
慎重に音がする方へ。
いた。大きな音の正体はでっかいイモムシが木を貪っている音。
「手本だ、見てろ」
そう言ってヒューダマインが怒鳴りながら走り出す。
イモムシはヒューダマインが近づく前に丸まって転がり距離を取る。
離れると形状を元に戻しお尻から糸を吐いた。かなり飛ぶ、ヒューダマイン近くまで飛んでいるじゃないか。
ヒューダマインは余裕でかわし、また距離を詰める。
ヒューダマインが距離を詰め、イモムシが離れてからの糸攻撃が何回か繰り返された。
そのたびにイモムシの止まる位置がヒューダマインに近づく。糸を当てるためかな?
何度目かでイモムシが止まった瞬間、ヒューダマインが動いた。
糸を吐いている最中、頭に一撃。
「これがこいつの狩りの基本だ。自分が一気にいける距離まで近づけさせる。糸を出している間は丸まれない」
仕留めたイモムシを荷台に乗せて次の獲物をさがす。
30分ほどでまた見つけた。
「運がいい」とヒューダマインが喜ぶがズルをした。
シュリーゲンに探してもらい、そちらに足を向けたのだから当たり前だが。
今度は俺の番。
真似をしたつもりだったが、3回目で糸を吐いた後俺に向かって転がってきた。
身体強化していたのでかわせたが驚いた。
俺の横を通り過ぎて止まる。そこを槍でついた。
「何が悪かったんでしょう」
「糸ギリギリで避けてたから、アイツお前が糸に絡んだと思ったんじゃないか」
「もっと大きく避けないとダメだったんですね」
「いや、こっちの方が楽だ。下手すりゃ1回で済む。ただ本当に捕まる危険はあるな」
ヒューダマイン悩み込んで「早いが帰るか。この方法は一応ギルドに報告する。アイツらが判断するだろう」
蝶にならないイモムシは大鉄貨6枚になった。
ギルドに戻る早々、ヒューダマインが「新しい狩りのパターンをこいつが見つけた」
「すごいねオリ。話聞くので2階来て」
2階の個室で俺の狩りの方法を説明、途中ヒューダマインが補足。
「なるほどね、ん~これは公開する相手選んだほうがいいかも、オリそれでいい?」
「いいよ」
「お前判ってねえな。秘匿情報にするから誰にも言うなって事だぞ」とヒューダマイン、わかっていなかった。
「9級の魔物だから情報料が大鉄貨1枚、情報秘匿の契約としてもう1枚。これで誰かに話したらペナルティあるから気をつけて」
「ペナルティってなんです」
「オリが言わなきゃ良かったって思うような事」
定量的な罰じゃないのね。
「そうだこいつ9級に進級だ。問題ない」
「そっかオリだものね。冒険者証明貸して処理してくる」と俺のタグを持って出ていった。
「あいつまだ話終わってねえのに」
戻ってきたら人が代わっていた。
「私はプルト。9級以上になると担当が固定化される。まあどちらかが希望すれば変更可能、そうならないよう努力する。よろしくね」と手を出された。
「そいつはいいが、仕事の引き継ぎ終わってねえぞ」
「え、10級の仕事でしょ、普通は引き継ぎってないんじゃ」
「商業ギルドの配達、やり方を変えて効率上げちまってる。元に戻したら文句が出るぞ。オリ、'焼石の酒'の仕事もギルド経由にしろ」
焼石の酒とは冒険者併設の酒場の名前。
「2つもあるの。そもそも10級の引き継ぎならあいつの仕事じゃん」
「前のめりだったお前が悪い」
配達と酒場のやり方を説明し情報料としてそれぞれ大鉄貨1枚を受け取る。
「ガキどもにいい仕事ができた」とヒューダマイン。
本当面倒見がいいな。
「冒険者は登録時8級から10級に割り当てられる。10級って言うのはお前みたいにハンディがあったり幼かったりで一人前に稼げないと思われるやつが入れられる」
話せなかったから仕事ができないと思われてたんだ。
「お前は話せるようになったし、仕事は期待以上にする。1人で稼げるだろう、だから9級なんだよ」
「こんな世界じゃいきなり両親がいなくなり頼れる大人がいなくなるなんざ珍しくもない。赤ん坊は教会へ、自分のことが出来るなら冒険者ギルドで預かる。赤ん坊も大きくなればこっちに回されるがな、あっちに残れるのは才能がある奴だけだ」
「そんなに幼くて戦えるの」
「バカいえ、街で荒事以外の仕事を用意するのも冒険者ギルドの仕事だろう」
勝手に冒険者ギルドって訳していたが、本来は斡旋所だ。求人を待つだけじゃなく仕事を作ってもいた。
「こうでもしないと悪い道に進む奴が多い、そうなると街の治安も悪くなる。だから教会も冒険者ギルドも運営費の一部を領主様からもらってるんだ」
思ったより福祉的な考えがある。
「本当オリってすごいね、10級通んなくても良かったんじゃない」
「無理だ、話せなかっただろう」
「コーリンは話せなくても5級じゃない」そんな人居るんだ。
「あいつが話さなくなったの7級の時だ、一緒にするな」
「まあとにかくオリは優良株よ。私が君の担当になるの大変だったんだから。これからよろしく」
プルトさん満面の笑み。
「食われるなよ」とヒューダマイン。
これ日本と同じ意味なのかな。




