1-35. それぞれの帰還
キーナお嬢様の留学はあっという間に過ぎた。
彼女は色んな思いを土産に持たされて帰る。
簡単なお別れの場が設けられた。警備の俺達にとっては迷惑な行事なだけだ。
翌朝には魔列車に乗って首都を早々に離れる。
俺はといえば答え合わせをしていた。
魔列車の乗り換え駅には幅の違うレールが同じホームを使うよう設計されていた。
しかも1つはクハドール王国のものと同じ幅になっているのも確認できた。
そして国境の峠にはトンネルが通っている。
車軸にそれぞれの幅に合わせた車輪を持つ車両なら、止まらず一気に王都クルバドンまで行ける。列車による兵員輸送はこの世界でも馬鹿にできない。
役人の乗り換えはやはり川から離れた場所。両国の役人の態度が明確に現状を物語っている。
乗り継ぎ時とクルバドンでの式典は遠慮させてもらった。担当の貴族が自分の見栄で派手にしていると知ったからだ。
馬鹿らしい。
無事ガナターン領に到着。
道中トラブルになりそうなのは、ザクロフトにも相談せず即座に対処した。時間が惜しい。
到着後領主様への面会をキーナお嬢様にお願いしていた。
俺の真剣な思いが伝わったのか意外に早く呼ばれた。
謁見の場にはマルもいた。
ちなみにマルはあの騒動後、国に戻されていた。
「オリがお父様に大事な話があると言うので連れてきました」と最初にキーナお嬢様。
「お時間を取っていただきありがとうございます」
床に膝をつき敬意を示す。
「オリ。私は君を高く買っているが、こうした事は手順を踏むべきだと忠告する。若さがそうさせたのだと思うがもっと考慮すべきだ」
「申し訳ございません。ですが早く領主様にご報告すべきかと思いまして」
「そう急くな。今回の働きの褒美として当家の騎士に取り立ててやる。そこから娘にふさわしい所まで自分で何とかしろ」
「はぁ」「まっ」俺が間の抜けた声を出し、キーナお嬢様が高い声をだした。
何でそうなる。
「マルから聞いている。娘が君をよく自分の部屋に呼んでいると」
彼を見るとニヤけていた。お〜ま〜え〜か〜、マル。
大きく深呼吸をして「そのような話ではありません」
「何、遊びだったと。第5爵位の娘に手を出してそれで済むと?」
「お父様、私たちはそのような関係ではありません」
「お前はこいつをかばうのか」
何だよこの喜劇。
「領主様はクハドール王へ共和国侵攻の中止を進言出来るお立場ですか」と大きな声を出す。
「何!」
やっと空気が変わってくれた。
「どうしてお前が」
「答えをいただけないでしょうか。王をお止めになれるのでしょうか」
領主は椅子に深く座り直し
「無理だな私程度では王と直接言葉すら交わせない、上の者に上申するのが精々。それも王の意に反する諫言では忠臣のところで止まる。そもそも王のお気持ちはすでに固まっている、誰も言えぬし聞き入れはしないだろう」
「そうですか」
「お前は何故それを知っている。間者ならばここで私に言うはずがない」
「この噂は共和国で聞いた話です」
苦い顔をし「すでに情報は漏れていると」
「いいえ。すでにクハドール王国は負けているのです」
領主の顔がさらに険しくなった。
一瞬俺を怒鳴ろうと吸った息を、ゆっくりと吐き出した。
上に立つ人とはこうであるべきだ、社長時代の昔の自分に言ってやりたい。
人払いされ俺とキーナお嬢様、領主様それにハフルケイト卿と執事が1名ずつ。2人は信頼されているのだろう。
「キーナお前は知っていたのか」
「いいえ、知りませんでした。ただそうだとすれば納得の行く話が幾つかございます。オリの言ったすでに負けていると話も嘘と切り捨てられません」
「お前がそう言うか」
「オリ話せ」
俺は自分の意見は言わず見てきた事実のみを報告した。続けてキーナお嬢様が自分の考えを父親に伝える。
「山に穴を開けるか」
「一緒にいたのに、あのヘビが車両の外にいたなんで気づかなかった」
トンネルはシュリーゲンで確認した事にした。
「お前の見立てでは王が宣戦布告をした次の日には王都に敵兵が押し寄せる。我が軍が国を出る前に」
その列車にはガパが乗っている。王国が勝てる要素が何もない。
ハフルケイト卿が「レールを破壊すれば」
「多少の足止めにはなるでしょう。ですが馬車はレールの上だけを走るものではありません、レールが壊れている所は道を走るでしょう」と俺は彼の案の無意味さを示す。
「しかも開戦と同時に行う必要があるが、それは単に負けを遅らせるだけ」と執事。
「戦後本来の力を必要とする時に使えなくなる。復興が遅れます」
戦うことが領分でないだけに冷静な見解を示す。
領主は固まったまま話を聞いていた。
「クハドール王へ進言しても報奨は得られないどころか恥辱を与えられる可能性が大きい。しかも下手な対策をしてしまえば最悪の結果になってしまう。国内での長い戦乱、国が疲弊するだけです」
領主様は苦渋の顔をして小さな唸り声を漏らしていた。
もう一押しか。
「ガナターン第5爵位。ご自身にとって大切なのはクハドール王、ご家族、領民、クハドールと言う国そのものどれなのでしょうか」
4人の視線が俺に集中した。
「お間違えないよう」
4人をそのままに許可も得ず部屋を出た。
翌日6級冒険者への推薦状が褒美として俺に届けられた。覚悟を決めたみたいだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「何でご領主様の推薦状を持ってるのよ」
「変?」
「初めてよ。普通はもっと位の低い人からもらうものなの。オリって馬鹿なの、ご領主様にくださいって言っちゃったの」とプルトさん。
「ガナターン卿だったから無事だったが、普通は不敬罪になるぞ」
ダロンの言葉に「オリが変わってるんで多分面白がってくれたんでしょう」
そして俺に釘をさす
「たった1回の護衛しただけで普通もらえる物じゃないからね」
「運が良かったな」と言うダロンの感想が普通なんだろうな。
「この推薦状は預かる。念の為本物かどうか確かめる必要がある」
ダロンが推薦状を持っていっちゃった。
その晩アイシャが部屋を訪ねてきた。今度は夜這いじゃない。
普段の格好だが思い詰めた表情をしている。
「相談が有って来たの聞いてくれる」
この状況でダメとは言えない。
「何?」
「私と結婚して」
ドスレートな言い方だったので口に含んだ水を吹いた。
「汚い。私真面目に言ってるのに」
「その話、終わったんじゃ」
「本当に妻にしてと言ってるんじゃないの、オリは私を気にしないで遊んでいいから」
「仮にも妻と名乗る女性が他の男と遊べば俺は良い気しないな」
「じゃオリと夫婦の間は私も他の男んとこ行かない」
俺の認識ではそれが普通なんだが。
「何か目的」
「シャーシテールに行ってみたい」
たしかシャーシテールは魔法学園都市で魔具の中心だったな。アイシャが以前から行きたいと言っていた。
「それが俺との結婚とどう関係するの」
「北大陸では各国の民にも越境に制限がかけられてる」
有ったなそんなの。だが魔法具士と呼ばれる錬金術でもレベルが上がれば国は出れるはずだ。
「アイシャも頑張れば許可してもらえるよね」
「それじゃ遅い、待てない。この国では越境を許可された者とその家族が国を越えられるの」
完全に理解した。
「偽りの結婚」偽装結婚が言えなかった。
「なによそれ私たちが夫婦だって言えばそれで十分じゃない」
そうだったこの世界では夫婦は関係者がそうだと言えばそれで成立する。
「こんな綺麗で若い私を妻に出来るんだよ。お得だよ」
若いと言うなら中身を別にすれば俺の方が若い。
「それに私たち2人で流派で立ち上げたんだよ。2人で工房持とうよ」
これはわりとアリな提案。
「断熱板の制作は」
彼女に丸投げしていた作業。あれないとチャさんが困ると思うが。
「私が10級受かった時に神と契約して作り方は公開済み。あれは魔法具士なら誰でも作れる」
対策済みか。
悩む。彼女の夢も叶えてもいい。この思いに卑しい思いは含まれていない。
「少し考えさせてくれ」
間を置いて。
「わかった」あっさり引いてくれた。
問題は2匹の存在を彼女に言うかだ。一緒に旅して隠し通せはしない。
彼女と契約とかはしたくない。そんな事をするなら置いていく、信頼して友人として旅をするかどうかだ。




