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1-36. 冷たい視線

 いつものように肉狩りをしていたら、シュリーゲンが馬車の襲撃を発見。

 定番イベントの発生だ、救うのは姫か令嬢あるいは商人。個人的には令嬢が嬉しい。

 走り出す。


 混乱した戦闘の中に飛び込み「助けがいるか」と一応聞いてみた。盗賊の方が数が多く守る方が劣勢だった。

 冒険者になれる魔力があれば、人は最悪冒険者を選ぶ。

 野盗や盗賊は冒険者になれなかった者たちなのでこの程度の数の差は本来であれば苦にしない。

 劣勢なのはこの盗賊の中に強い者が何人かいるからだ。

 能力の問題では無く、人としての資質の問題で冒険者でなくなった者たちだ。


「頼む」と言った相手が嫌な顔をした、それは俺も同じ。襲われていたのはケタラク達だった。

 嫌な相手だとしても今更'やめた'は出来ない、支援する。


 俺の対人戦の弱点は狙いがわかってしまうこと、防がれてしまう。だがその防御を上回る速度で連撃を放つ。

 捌ききれなくなり俺の一撃が入る。そうなれば痛みが邪魔をし俺の速度には対応出来なくなる。

 俺は急所に混ぜてあえて指や足先などを狙う。急所に比べ意識が向きにくい、最初の一撃になりやすいのだ。

 俺が2人目を沈めたところで相手が引いた。数はまだ勝っていたが戦力は逆転したようだ。


「助かった」ケタラクも一応礼を言う。俺を見てはいないが。

「あぁ」と俺も言って、その場を離れようとした。彼らにこれ以上関わり合いたくない。


 そこへ「ま、待ってください」と倒れた馬車の中から中年の男が飛び出してきた。

 ハズレだ、商人か。

「命を助けていただいた恩人に何もせずいたのでは、このマルンが許されません」

 何に許されないのだろう?

 面倒な事になった。ケタラクは何も言わないがやはり視線を俺に向けない、こいつも嫌なんだろうな。


「改めて自己紹介を私はマルン・カララと申します。旅商をしております」

 差し出された手を握り「オリ。ガナターンで7級冒険者をしてます」とこちらも返す。

 マルンさんは少し驚いて「私のセカンドネームに何も思わないのですか」

 ん?

 ファーストネームの意味は地球と同じで個人名。俺みたいにファーストネームしか持たないものも多い。

 それに対してセカンドネームには種類が多い。ファミリーネームだったり、生まれた地名、役職や地位を指すものどこに属しているかを示すなど色々ある。言っている者には大きな問題なんだろうが聞いて意味を判断出来るものじゃない。

 結果どうなるのか、多くの人は気にしなくなる。無論俺も。


「俺は記憶を失ってましてここ最近のものしかない。おかげで常識というものを持っていないんですよ」と正直に説明した。

 マルンさんはケタラクを向いて確認、彼は頷いて俺の言葉を肯定する。

「そうでしたか。このカララと言うのは定住をしていない者の総称でして軽蔑の対象になるのです。人によってはあからさまに態度にだします」

 スペイン地方のロマみたいなものか。


 なら「逆に自由な暮らしに憧れる者もいるのでは」

「統一魔王により'かき混ぜ棒'の名を冠して生まれた経緯がございますので嫌われております。それにそうした者はカララになりますので」

 氏族じゃないのか、ならノマドが近い。

 しかし'かき混ぜ棒'か、強制的に交易が生まれる仕組みを作っている。魔物の危険に怯え引きこもり交流のなくなる危険性を知っていた。

 ほんと統一魔王って優秀だよな。


「定住していないカララにとって信用こそが唯一の財産でございます」

 だから受けた恩は必ず返すと言い張られ何か欲しいかを尋ねてくる。

 単純に金と言っても良かったが「ならカララの情報網を貸してくれ、俺はいずれ世界中を旅したい」

「旅でございますか」を不思議がられた。


 冒険者が旅をするのを不思議がるとは、と思うがこの'冒険者'は俺がそう訳しているに過ぎない。

 本来は危険な事もする何でも屋だ。

「護衛や依頼で各地を移動する冒険者は多いですが、旅そのものを目的にしている者は少ないかと」

 これはこの世界での冒険者の立ち位置。冒険者は冒険をしない。

「ダメか」

「いえいえ。オリのお名前はこのマルン・カララしっかりと仲間に伝えておきます。彼らのできる範囲になりますが、必ずやオリの助けになるでしょう」

「ありがとう」


 今度こそさようならと思ったらケタラクが

「何でトドメを刺さなかった。連れていけるわけがねえ、手間が増える」

 ケタラク顎を向けた方を見ると、俺が倒した盗賊を仲間が殺していた。

 賞金とかにはならなんだ。そんなことを考えていると

「本当に殺そうとは思ってなかったんだな」と呟いて離れていった。


 うさぎサイズの角飛び(グッカーラ)を3匹狩って戻ったついでにプルトさんに聞いてみた。

「賞金がでるのは頭目の首か野盗団の殲滅だけ。小競り合いなんて日常的な事で小者が死んでもお金はでない」

 なるほど、相変わらず命が軽い。


「しかし、ケタラクが護衛ねえ」と横にいた同僚を向く。

 視線を受けた受付が「彼も7級が長いですからね。そろそろどうにかしたんでしょう」と笑う。

 その笑いには含みがあった。

「やっと私にどうすればいいか聞き始めてくれましたよ」

 彼女がケタラクの担当らしい。

「アイツは魔物討伐一本だったからね」とプルト。

「そうそう、私がいくら言っても聞きやしない。ネイロンべったり」


「彼らも例の件で冒険者からは評判落ちてるからね。べったりもできなくなったんでしょう」

「しかもゴブリン王産んじゃったからね。ギルドも彼らに甘い顔しなくなったし」

 7級進級の魔物の数を必要以上に減らし結果ゴブリンが増えた件だ。

 いまだに影響は残っている。ギルドは低級冒険者に割増料金を払い増えすぎたゴブリンを討伐している。

 弱いといっても集団になると村も襲うのでほっとけない。野盗の類なら村は金にならないので襲わない。


「良かったねオリ、最後は正義が勝つ」

 プルトさんそれかなりの手のひら返しだからね。

「北に帰るのかな」

「それは無理、北から逃げてきた口だから。でもこの街は出ていきそうだけど」

「ここで旅をしたがっているオリに忠告。冒険者が拠点を変えるのはそこにいられなくなった場合が多い。あんまり拠点を変えると問題のある冒険者って見られるよ」

 マルンさんが不思議がるはずだ、旅と冒険者は相性が悪い。


「どうすれば良いんです」

「そう、それよそれ。行った先々の冒険者ギルドで信用を勝ち取る。怪しくても前の所の評価がよかったら問題なし」

 情報網は個人情報の概念がない分地球以上にしっかりしているからな。

「でもこの評判はどうかな」

「え!悪いの」

 何かしたかと言いかけたが、したかも。

「トラブルも多いが功績も大きい、ギルドからの評価は良いと思う、と言うか良すぎる。何せ5爵位の推薦まで有るんだし」

「そんな冒険者来たら私だったら徹底的に調べなおす」ケタラクの担当が茶化す。

 そうですか。

 頭の隅には置いておく必要あるな

「助言ありがとう」

「どういたしまして」


 推薦状もあるので近いうちに6級昇級が認められるはず。昇級したらすぐにこの国を出よう。

 どこに行くか?

 東西南北で西はない、高い山脈だしその先には魔大陸。

 東はナポリクス共和国でクハドール王国との関係できな臭い。その混乱は避けたいのでパス。

 北か南。北は聞いた話では脳筋な文化らしく俺には合いそうもない。

 真南のアムスは入国が難しいので、南東に伸びて海まで続くビィシャクイ王国が妥当かな。


 そうなるとアイシャも一緒に連れて行くか。

 ビィシャクイ王国の沿岸の街から南大陸へ行く船が出ていたはずだ。

 結婚か〜。

 昔会社が軌道に乗り面白くなってきた時、彼女の結婚アピールを面倒くさくて避けていたのを思い出した。

 その後の事を考えれば正解だったんだが。

 苦みを思い出しながら旅に必要な道具を揃えだした。

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