1-34. 許されざる怒りを越えて
キーナお嬢様の留学もあと数日となり最後の休日。
夕食にしては遅い時間に食堂に入る。ここの店はゆったりとした歌が流れていて落ち着く。
他の冒険者には受けが悪く、いつも1人で来る。
席につくと間もなく
「相席いいか」と声をかけられた。
「どうぞ」と答える。
「気づいていたか。どうりで都合のいい店に入ってくれたわけだ」
同席したのはクルンパレス。
共和国に入ってから臆病なはずの小動物の視線を感じていた。獣使いが監視していたのだろう。
どの国でも行っている、クレームを入れるほどのものではない。
キーナお嬢様も「気にしない」と言っていた。
ところが最近俺まで監視対象になっている気がしていた。
「ガパが共和国と契約を申し込んできた」
行動が早いな、単純な脳筋じゃ無かったんだ。
戦争の道具になるのも理解した上で最も自分の価値が上がるタイミングで売り込んだ。
その方が戦禍は少なくなるので俺も嬉しい。
「戦争を止める気か」とクルンパレスさん。
「止まらないんですよね」と確認する。
「そうだ」
ガポさんの存在で両国のパワーバランスは共和国が圧倒的になった。
普通であれば王国は共和国への侵攻を諦める。
そう普通であればだ。
真っ直ぐに俺を見てくる。その目は何か言いたそうだ。
「聞きたい事が有るんですが」1つ気になっていた事がある。
「なんだ。私は絶対に共和国は裏切らない」
「極めて個人的な事です。クルンパレスはどこで生まれたんですか」
一瞬で固まった。答えたようなものだ。
「国境近くの豊かな土地で生まれたんじゃないんですか」念押し。
返答はなく、それが明確な回答になった。
「共和国がおこなっている事がわかってくるほど違和感が有ったんです。この国は戦争を回避したいのか戦争をしたいのかどちらなんだろうと」
クルンパレスさんは俺を睨み「そこまで」と呟くように言った。
しばらくしてクルンパレスさんが口を開く。
「今ここにいる私は共和国の議員では有りません、クルンパレスと言う名前でもない。クルンパレスと言うのは開戦の日に生まれた弟に付ける予定だった名前、私の本当の名はテフェレック」
「その名を名乗っていると言うことは」
「ええ、あの日生まれたばかりの弟はその日に殺されました。私の故郷テメル村ごと焼かれたんです」
思っていた以上に重い話になってきた。
テフェレックさんから怒気が漏れて周りの客も騒ぎだした。
「ケンカなら外でやってくれ」店員がテフェレックさんの肩に手を置いて注意。
俺達がケンカを始めると思ったのだろう。
「悪い、悪い、勘違いさせてしまった。俺達はそんなんじゃない。共通の知人の話しをしてたらこいつが昔を思い出して盛り上がってさ」と言って誤魔化す。
「すいません」とテフェレックさんも店員に頭を下げる。
「気をつけてください」と店員は去った。
「ほんと気をつけてください。見つかりたくないのはそっちでしょう」
「済まない」
「でもスッキリしました。クハドール王国と戦争を起こし完膚なきまでに叩こうとしているのはアナタだったんですね」
「そうだ」
「復讐のために?」
2人の間に沈黙の間が生まれた。
「王都をテメル村と同じようにするつもりですか」
沈黙を破ったつもりだったがテフェレックさんの返答はない。
「何十人もの貴方と弟を生み出すつもりで」
テフェレックさんがビクッと震える。
「私に復讐をやめろと」
怒りは漏れていない。それどころか完全に感情がない。
「無理だ、この身に燃える炎は既に私を焼き尽くしている。灰になる道しか残っていない」
「俺にやめろなんて言う資格はありませんよ。ただクハドール王に名誉を与える必要は無いのにとは思うけど」
「なに!」
よし釣れた。
「貴方が王都を人々もろとも炎に包むような非道な人なら、それに対峙したクハドール王の評価は相対的に上がるでしょうね。災厄を退けようと戦い、敗れた悲劇の王として」
「そんな事にはさせません」
「貴方が生きていればそれも可能かもしれないが、後世の歴史家はどう評価するでしょうか」
彼の握りしめている拳が震えている。
「嫌だ」絞り出した声。
「なら完全に勝てば良いんです。それこそ貴方の復讐にもなる」
テフェレックさんはそう言った俺を不思議そうに眺める。
「一人の犠牲者を出さず勝つんです」
「はぁ」
余計混乱させてしまったかな。
「勝つのは確実なんでしょう」
「ええ、絶対に負けません」
「王都にある宮廷を強襲し王を拉致する。抵抗する兵士はしかたありませんが市民に被害を出さない事は?」
考えて「出来なくはない。と思う」
「王国は王が敗れれば国が負けた事になります。無論殺してはいけません、正式に裁いて罪を明らかにする必要がありますから」
「あの王は殺さなければならない。そこで生き延びさせてしまうといずれ身代金を払い国に戻ってしまう」
反射的に言い返す、逃がしたくないという思いがあふれている。
「捕囚の間は政治は行えません。王でいられなくなりませんか」
「子か孫が王を継ぐでしょう。国に戻った王は院政を始める。王国は何も変わらない」
「直系が王になるのは濃い血を残すため」
それを疑問を持っていない。
「そうだ」
「でもそれはあくまでも王国の都合であって、勝者である共和国は血が薄いほうがよくありませんか?」
「そんな事は出来ない。最も優れた血を持つ者が王でなければ国民は納得しない」
そんなとこだと思った。
「他に候補がいないのなら仕方がないですよ。それに国民は正式な継承権など知りもしないし興味もない、ただ王の子でさえすればよいじゃないんですかね」
テフェレックさん、他に候補がいないの意味を理解した。
王の子と威張ってるならそのくらいの覚悟くらい有るだろう、嫌だったら全力で現王を止めろ。
「新王は思っていなかった玉座を与えてくれたものに感謝するでしょう。それに戦後しばらくは国も不安定ですし、安定のため協力の申し出れば快く受け入れてくださるかと」
見え見えの策だけど
「王国という古い水袋を議会制という新しい酒で満たせばいいんです。結果前王の時より良い治世になったと国民が思うようになったら多額の賠償金と引き換えに前王を返せばいい。裁きは自国民が行ってくれますよ」
「君は、恐ろしいな」
「事実かどうかはこの際どうでもよくて、多くの国民がそう思えば良いんです。王国の家臣にも頭の切れる人は多い、気づくと思いますが頭が切れるからこそ王国のためには黙るしかなくなる」
テフェレックさん天井を見上げ一言。
「それが完全な勝利ですか」
そうして注がれていた酒を一気に飲み干す。
「ふふはぁぁ。こっちの方が数倍もいい。君はやはり王国民だね同胞の犠牲を少なくしようとこんな提案をしたんだね」
少しでも犠牲を少なくしたいとは思ったけど。
「現王の焦りは、自分の死期を悟り共和国侵攻を計画しているように思える」
話を変えた。
「それが」
否定しない。
「俺の話した計画だと決着つくまでに時間がかかる、王が死んでしまう可能性が有る。なのに復讐者の貴方がそれを気にしていない。本当に死期が迫ってんの」
「本当にキミは」
「王は病だ。これは本当で死に繋がる病気なのも事実。だが当人に魔力があるかぎりは病は進行しない。この病にたいして王国内だけに不穏なデマが広がっている」
「それが出来るんだったら、他の道も色々出来たんじゃ」
「私には見えなかった」
復讐で目が眩んでいたからか。
「私も聞いていいか」
今度は俺が答える番。
「君の姿はそのままのものなのか」
「自分ではそのつもりだけどわからない」
「わからない?」
「記憶を失った状態でゴブリンの巣穴で冒険者に助けられた。本当は何歳なのか全くわからない」
「それはまた」
「一応言っておくけど俺は男だから。ゴブリンに繁殖用に誘拐されたという妄想は止めてくれ」
「あぁ、済まない」顔を真っ赤して謝る。
余計それっぽくなったじゃないか。




