1-33. たくましい男
ガパに連れて行かれたのは郊外、休作地で今は荒れ果てた場所だ。
要するに人のいない場所、俺今日死ぬのかな。
「そうビクビクするな。殺したりはしない」
少し開けた場所にでると
「オレと手合わせしてくれ。お前は本気でオレを殺しにこい、こっちは手を抜いてやる」
何でそうなる。戦闘能力ならザクロフトの方が上だよ。本気のハフルケイト卿よりも多分弱い。
「あの踏み込みを追えなかった」
はぁ?
「あのバ_を助けるために飛び込んだだろう。あれを一瞬見失った」
それだけで、こいつ見た目通りの戦闘狂か脳筋なのか。
「俺よりザクロフトの方が強いと思うんですけど」
「ああ一緒に居たやつか、戦いという意味ではそうだろうが。そんな平均点が高い相手はもう飽きてるんでな。お前のように一瞬でも最大火力が出るやつの方が面白い」
上着を脱いでファイティングポーズをとる、彼の戦闘スタイルは素手、格闘技タイプか。
「オレからは手を出さん打ち込んでこい。その代わりいい加減な攻撃だったら容赦しねえ、死ぬ気でこいよ」
これは本気出さないとダメなやつだ。
全身強化。攻撃されないなら速度優先に力を割り振る。
行きますよ。
正面から貫こうとしても無理、刃が通らない衝撃に跳ね返る。
止まった所に左フック。それを下に避けて次に距離をとる。
「腑抜けた攻撃には反撃するって言ったよな」
アレでも鉄板には穴を開けられるんだけどな。
思っている以上に硬い。
戦法を変えた。すれ違いざまにガパに槍の刃を当てる。
それを連続的に繰り返す。徐々に速度を上げていく。バリアで体を包んでいるからこんな無茶が出来る。
もう音速は超えた。
それでもガパには傷1つつけられない。
攻撃を受けない余裕があるので更にイメージを強化。
槍の刃先も鋭利にイメージ。先端は原子の並びほどに細くそして丈夫に。そして刃先のナイフのように引く。
血が一瞬舞った。ダメージを与えられた。
そう思ったがガパは更に強度を上げる。またダメージが通らなくなる。
魔力で強化しても俺の物理攻撃ではこれ以上は無理。
ならば錬金術の応用。刃先に高温の熱を生み出す、鉄の溶ける温度をイメージ。
ガパに触れた瞬間一撃で爆炎が上がる。
今回は距離を置いて止まる。これでどうだ今の自分の最大火力だ。
足を止めて振り返れば、ガパは振りかぶってこちらに飛んでいた。
アレはヤバい。
逃げは捨てて防御に全振り。ボトリスにも出てきてもらい俺を全身で包む。
ガパは俺を直接狙わず俺の足元の地面に拳をぶつける。
今度は地面が爆発。
爆撃のような衝撃で俺は地面の土と一緒に数十メートル吹っ飛んで地面に叩き付けられた。
生きているが痛い。ものすごく痛い。慌てて治癒。
「やっぱりアレを生き延びたんだ」
「殺さないって言ったじゃないですか」やっと声が出る。
「死なねえと思ったんだよ。ちゃんと無事だっただろう」
仰向けに大の字にのびた。無事じゃないです。
「どこもちぎれてねえし、死ぬほどの傷もねえ。アレ食らって生きてるなんてお前自慢していいぞ」
何事も無かったように立っている大男とボロボロの状態で地面に倒れている俺を見れば勝負ははっきりしている。
自慢なんかできない。
「速度、攻撃、防御どれもオレが今まで経験した中で5本の指に入る。それが全部継続して出せたらいい勝負出来るのに」
逆にそれでも'良い勝負'止まりなのかよ。
何とか上半身を起こせるようになると
「お前クハドール王国が戦争を起こしたらどうする」
「逃げる」即答。
「何だそりゃ」
「戦争だなんて意味のない殺し合い関わり合いたくない」本音だ。
「国への忠誠心とか無いのかよ」
「無い」
「・・・」
一度目をつぶり。
「知り合いはどうするんだ、戦争になれば大変な目に合うぞ。そいつら置いて逃げるのか」
主戦場は王都クルバドンになるだろうから俺の知り合いはいないはずだ。
「そんな事にはならないことを祈っている」
「はぁ。なに甘いこと言ってるんだ。戦いが思い通りにならないのが戦争だ」
だから願うんだよ。それに
「すぐに終わる」
「前みたいに共和国がすぐに降伏すると思ってんのか、今度戦争が起きれば国がなくなるんだぞ最後まで戦うはずだ」
「前回とは状況が違う」
「お前何を知ってる?」
ガパは知らされていない、協力関係ではないのか?
起き上がりガパの目を見る。
「共和国の準備はすでに終わっている」
「オレは共和国とは契約してない、あてにされても迷惑だ」
彼はあてにさえされていない。
「あんたが共和国を離れる時が戦争が始まる時だ」
それが俺が考えた答えだ。ガパさんで王を制止しイラつかせ準備が整ったところで戦争を仕掛けさせる。
「準備万端な上にタイミングまでコントロールしている、負けるはずがない」
あはははは!!
俺の言葉にガパは大声で笑い出した。
最後は叫び声のような笑いを数分した後
「お前には先が見えてるんだな」
静かに言う。
「オレはどの国にも属さず自分の力だけを頼りにここまできた」
ガパの自分語りが始まった。
「オレが本来倒すべきは魔人。全人類の敵だ、倒さなきゃならない。
そう言っても奴らは魔人大陸からなかなか出てこない。次々と生まれるから、こっちから攻めても意味がない。
奴らとは一回も戦った事がない。
かわりに何度か国同士のくだらない戦いにも加わった。
だが戦争にはオレは関係無かった。勝敗はオレが戦線で戦っているうちにオレの関係ないところで決着している。
何故だ」
「戦争は1人で行っていないからだろう」
俺も本当の戦争は知らない、せいぜいゲームでの知識だ。
「?」
「ガパは強い。なら強い敵がいると最初から計画をすればいい。多分ガパには弱い相手を切れ間なく相手にさせられて前線に縛られたんだろう」
「そうだ、そんなだった。何故わかる?」
高い火力の敵の前に自軍を置かなければ被害は少ない。そしてどこにいるのかわかればそれを避けて戦いをする。いくら強くとも個数が限られればダメージコントロールしやすい。
経営でも同じライバルの得意なもので勝負しても無駄に消耗するだけだ。相手がいないところを攻めるのが一番効率がいい。
「戦争は好き」
答えは想像出来ていたが一応聞いてみた。
「いいや。戦いは好きだったはずだが、アレはダメだ。オレが好きな戦いじゃ無い」
「なら次の戦争が終わったら共和国に契約を申し込めばいい。喜んで契約してくれるよ」
「お飾りの看板になれと」
「くだらない戦争をしないですむ。それにあんたの好きなのは戦いは可能だ」
俺の言葉に興味を持ったらしい、次の言葉を待っている。
「武闘大会でも開いて北大陸の力自慢を集めてみたら。共和国もガパがここにいると宣伝になるから協力してくれると思うよ」
医療体制が整っていればこの世界では即死以外どうにかなる。
ガパは軽く考えて。
「それも良いかもな」
「これは礼だ」
次に気がついた時は夕暮れ。
気を失っていた、突然意識が切れた。
ただ何をされたのかは理解出来ていた。
威圧だ。
殺気に魔力を乗せ相手や周囲に向ける。それの強力なやつをガパが俺にした。
恐怖で意識が飛んだ。
こっそり宿に戻って後始末。誰にも見つからなかったのでどうにか自尊心が保てた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
キーナお嬢様の留学では学園での座学と施設の見学が繰り返される。
「オリ今日教室で聞いた話だけど」
最初にキーナお嬢様に呼ばれて以来こうして彼女から質問を受ける事が多くなった。
予想外な方向に跳ね返る壁打ちに使われている。
この留学受け入れは良く練られた計画だ。
共和国賛美一辺倒ではないので自分の考えがコントロールされているのに気づけてない。
それでいて留学にきた若者には疑う視点がしっかり植えられてしまっている。帰国後その目を自国に向けるだろう。
俺は彼らとは浴びてきた情報と策謀の量が違うので、裏の目的が見えてしまい露骨とさえ感じる。
しかしこの留学、共和国には利益があるが送り出す側は何を考えて留学させているんだ。
ダメもとでキーナお嬢様に聞いてみた。
「えっ」
そんな驚くこと聞いたか。
「そう言われればそうね」
熟考した後
「多分だけど」
そこからは独り言だ
「すでに将来有望な若者を共和国に留学させるのは一種のステータスになってる。
実際国に戻り活躍してる人も多い、すでに国の意思決定に関わる重役を任された人もいると聞いてる。
それは愛国心ゆえの国をよくしようとする意識、問題の本質を見極める目、問題を解決する柔軟さをこの留学で植え付けられているため。
この留学では諦めるな自分を貫けなどの共和国式を見せつけられている」
国政を合議制にする気がなくとも、国を良くするやり方として受け入れられる。
それはやり方を教えた共和国への親近感にも繋がり、各国には共和国側に立つ人が国中央にもいる。
前回みたいに強引な誤魔化しをそのまま受け入れる国ではなくなっている。
これではますますクハドール王国が勝てるわけがない。




