1-32. ホットケーキはどんな味
議会見学の夜、キーナお嬢様に呼ばれた。
夜の相手ではない、部屋には数名の騎士とザクロフトがいた。
「今日聞いた話の理解ができなくて、色んな意見が聞きてみたくなったの」
ここに居る人の意見は収集済か。
何で俺なんだと思ったところ
「オリは話を聞いていても顔色が全く変わっていなかった。何かみんなと思うところが違うようだから」と俺を呼んだ理由を明確にした。
これは答えないわけにはいかない。
「共和国と我が王国、どちらが優れていると思うか」とハフルケイト卿。
当然王国だよなと論外から圧をかけている。
「比べることに意味がありますか」
「なっ」「へ」「何だと」キーナお嬢様以外は声を出す。
「王都とこの首都では活気は同じように感じました」
物量は王国、種類の多様さは共和国。そこに優劣はない。
「ならばどちらも正解では。パンを発酵させようがさせまいが問題ではなく、美味しければどちらもよいのでは」
共和国ではパン生地を発酵させていた。
キーナお嬢様は目を大きく開いた。そして笑いだした。
「ははぁ。本当にそうねパンは美味しければ作り方なんてどうでもいいもの。国民が幸せなら何をしてもいいんだ。そうね、そうよ、何悩んでいたのかしら」
一言で俺の言いたい事を理解した。さすがだ。
その後も笑い続けるキーナお嬢様に退出の礼をして部屋を出た。
ただし俺は共和国に一票を入れる。
共和国には北大陸で唯一奴隷制度を禁止している。これも図書館で新たに仕入れた知識。
他の国では労働力として奴隷を使っている。
救いは奴隷の子は奴隷にはならないし、戦争奴隷や借金奴隷は年季が決まって解放される事が前提。永久奴隷は犯罪奴隷だけだ。
奴隷制度が経済の中に根付いている。
俺の知る奴隷制度とは違うが、現代日本人としては嫌悪感を持ってしまう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日は今朝予定を変えキーナお嬢様のプライベートの護衛になった。
街を散策したいらしい、息抜きも必要だ。
同じ留学中の女子学生と友達との約束で街で買い物をする。
若い女性が買い物をするのを数人の男達がぞろぞろとついて回るのは、端から見てどう見えるのだろう。
宝石やドレスなど入る店全部が高級店という点を除けば普通のウインドウショッピングだ。
そう普通に女性のウインドウショッピングの付き合いなので、長い。
「さすがアムスの宝石。良いものが揃ってる」
「もっと無いのかな」
「あそこは国への出入りが厳しいから流通量は少ない、贅沢言わない。これだけ有るのは逆にすごいよ」
「そうだね。それに私の国じゃ3倍の値段するよ」
「安いといってもそうそう買える値段じゃないけど」と何がおかしいのか2人で笑っている。
ただキーナお嬢様の友人だけあって2人の会話を注意深く聞いていればこれがただのウインドウショッピングで無いことがわかる。
「さすがに東北産の生地は扱ってないか」
「カリキギンの瑪瑙がこれだけ市場に出ているのはやっぱり国の経済が厳しいのかしら」
「このマント、大型の角飛びのだけど数揃ってるね。やっぱり大きなカガル森の魔物討伐行ったんだ」
何気ない会話で情報交換をしている。
町中だが貴族同士の会話、声が俺達にギリギリ聞こえる。
2人とも時間に対して購入したものは少ない。
「あ〜疲れた。何か甘い物食べよう」
疲れたのは俺達だ。
「私は最初からそのつもりでチェックしてた。この先の区画まで移動しよ」
元気だ。
着いたところはオープンテラスのある喫茶店。
この世界、砂糖も普通に生産されているので甘味はある。
これだけ魔法で何でもやっているのだ砂糖が無いわけはない。
そのオープンテラスに知った顔が有った。
キーナお嬢様の兄、マル様だ。
貴族は魔力が高いので均整の取れた体型をしている人が多いのかと言えばそうでもない。
その魔力の抑止力を越えてカロリーを取れてしまう立場なので、ぽっちゃりしている人も意外といる。
マル様もその1人。
「よぉ。キーナが言ってたとおり、ここは美味いな」
キーナお嬢様の調査は身内に漏れていたようだ。
「何故ここに」
「朝食を取っていた」
もう昼近いぞ。キーナお嬢様が出かける時にはまだ寝ていた、今まで寝ていたのか。
今朝キーナお嬢様について街に出る時、当番が変わったザクロフトにニヤケ顔で「頑張ってな」と見送られていた。室内でゆっくりできると思ったはずだ。
そのザクロフトの顔が今は疲れ切っている。色々あったようだ。
テラスにはもう1人目を引く男がいた。
2mを超える筋肉が盛り上がった躯体の男性。頭は短く刈られていた。
その前には十数個の甘味。シロップたっぷりのホットケーキ、小さなケーキやムースが並んでいた。
異質なのは甘味と大男の組み合わせは無い。
その男をどこか無視できない雰囲気を醸し出していた。魔力が漏れ出ているわけでもないのに視線を外せない。
「ガパ」とハフルケイト卿。
ガパ?
「ほんと何も知らないんだな」
ザクロフトが呆れる。
「北大陸の圧倒的な第1番。共和国に傭兵として雇われていると噂があったが、本当だったんだな」
番は強さを数える時に使われている。北大陸第1番とは北大陸で一番強い事になる。
「まずいな、キーナお嬢様にはここは我慢していただこう」
ザクロフトはトラブル回避を選択。
俺もそうしたほうが良いと思う。あの大男がケーキを一口で頬張るのを邪魔しちゃダメだ。
そう感じなかった|馬と鹿の区別が出来ないヤツ《バ_》がいた。
「なに、ガパだと」とマル様が大声を出して立ち上がった。
そして何を思ったか近づいて行く。
「お前があの有名なガパか」
大男は無視して次の甘味を口に運ぶ。
「聞こえんのか、無視をするな」
何を考えているんだあのバ_は。
「返答をせん...」
もうダメだ。一気にマルの横に飛び槍の柄で彼を引っ掛け後ろに思いっきり飛ばす。
そのまま槍を置き、地面に頭を付けた。日本の由緒正しき土下座である。
大男はチラリと俺に一瞥し続けざまに甘味を食べた。
「お楽しみの所邪魔をしてしまい申し訳ありません」
「アイツはお前の雇い主じゃないのか」
「私の仕事はキーナお嬢様を守ること。キーナお嬢様を危険に晒すものは邪魔者でしかありません」
「オレがそのキーナお嬢様に何かすると」
言葉に詰まった。そう思いましたとは言えない。
「良い判断だ」
「はぁ」間の抜けた俺の声。
「さっきの奴があれを言い終わったらお前ら全員ぶっ潰していた」
ギリギリセーフ。
「兄が申し訳ありません」
キーナお嬢様が俺の横に来て深く頭を下げていた。膝が震えている。
「お詫びにガパのここでの食事代を立て替えさせてください」
「めぐんでもらう言われはない」
「では私も同席してもよろしいでしょうか。同席ならば支払いを等分にすれば施しを受けた事にはなりません」
後ろを向いて青い顔の友人に「リリせっかくの機会よ」と声をかけた。
彼女を道連れにする気か、怖え〜。
「せ、せっかくだしね」
お前もすげーな。
大男1人と2人の少女。共に美人。
一つのテーブルでお茶しているシーンを俺達は離れて見ていた。
彼らの会話はかろうじて聞こえる
「甘いものがお好きなのですね」
「だからここにいる。共和国の菓子が一番うまい」
「クハドール王国のお菓子をお食べになったことは?」
「甘過ぎる、ただ甘いだけだ。オレの好みじゃない」
「それは残念。国に戻りましたら職人たちに発破をかけないと」
「頑張ってくれ。うまいと噂が流れたら食いに行ってもいい」
「ここを出てもよろしいので」
「良くしてもらってるが契約しているわけじゃない。ここには菓子がうまいから居るだけだ」
ガパは自分の事情をすんなりと話している。キーナお嬢様への礼のつもりか。
「ガパが共和国に居る噂は有ったんだが。これで確定だな」とザクロフト。
「それが」何だというのだ?
「ガパの戦力は桁外れだ、敵になるなんてのは自殺行為だ。それはクハドール王も知っている」
彼がここにいる噂が戦争の抑止力になっていたんだ。
これも共和国の策の1つだな。
「ごちそうさん」
そのほとんどを彼が食べたが会計は綺麗に三等分して支払っていた。
彼女たちにも有意義な時間だったので双方に不満はない。
そのまま解散と思ったその瞬間
「そいつ借りてっていいか」と俺を見た。
圧倒的強者のワガママは誰も止められない。




