1-30. 黄昏の駅にて
王都クルバドンに来た理由は、そこで魔列車に乗る必要があったからだ。
貴族の子女がふらりと他国に行けはしない。外交問題になる、それなりの手順を踏む必要があるのだ。
正式な手順の中に魔列車で入国するというのも有る。
魔列車とは馬が引く列車。汽車が発明される前に日本にもそんなものが有ったと記憶がある。
無論それとは違う、魔法が有る世界なのだ首の無い大きな馬のゴーレムが引く。
車サイズの馬ゴーレムが客車2両を引いている。俺もクルバドンで初めて見た。
主要な都市とは路線が繋がっているが、辺境のガナターンでは走っていない。
先頭車両は貴族様とその家来。騎士達が乗っている。
そしてクルバドンから乗り込んだ役人1名。
兵士と冒険者は2両目に押し込まれた。
何を思ったかキーナお嬢様が魔列車が走り出すと後方に来た。
「皆様、今回は私の護衛の任ありがとうございます」と軽く頭を下げた。
「皆様の労をねぎらわせてください」
父親と同じく感情の乗っていない声なのだが優しさがある。
こりゃー、人気出るわ。計算かもしれんがやらんよりやったほうがいい。
これが天然なら逆にすごい。
「キーナお嬢様、我々のようなものへの心遣いは不要です」
冒険者を代表してザクロフトが答える。
「死ぬかもしれない仕事です。ザクロフトのお仲間の命は安くはないでしょう」
「その分の対価はいただいております」
「対価以上は頑張らないと?」
この切り返しにザクロフトの言葉が詰まる。
「もしもの時はそれ以上の働きをお願いします。不足分は戻ってからお支払いします」
「はっ」
すげえな。これで頑張らないやつはいなくなった。
初めて彼女を護衛する冒険者も今ので完全に落ちてた。
その後の2両目の話題はキーナお嬢様と列車の速さでの2つだけだった。
キーナお嬢様はすでに騎士や兵士には言葉をかけていたらしく、不必要な嫉妬の目はこちらには向けられていない。
魔列車は電車ほどじゃ無いが早い。
シュリーゲンの能力では追いつけない。首に巻き付いている。
ガラス窓が付いているので景色が見える。全員初めてで驚きを隠せていない。
「すげ〜すげ〜」と1両目からマル様の声も聞こえていた。
「なんでお前は驚かねえんだよ」とザクロフト。
「驚いてるよ」
こんな機械が有るなんて。機械じゃないかゴーレムだ。
40キロは出ていないと思うが。
速さに驚けって話だと思うが、こっちは新幹線や航空機にも乗ったことがあるんでこんなのでは驚かない。
それでも早い。もうすぐ国境に着く、日が沈む前には着きそうだ。
そこで一泊。
今は広い緑の中を走っている。
大きな川には橋がかかっていた、水も豊富か。
少しして終点国境の駅に着く。
全員魔列車から降りて背伸びを始める。
「あ〜っと」俺もだ。
久しぶりに長い時間乗り物に乗った。
「気分を悪くした人はいませんか」と乗っていた役人が言い始めた。
見れば青い顔の兵士が数人いる。
「聞くって事は気分悪くなるの知ってやがったな」とザクロフト。
魔力の高い冒険者だから無事だったが、初めて乗れば当然酔うよな。それを先に忠告をしないとはいい性格をしている。
そのまま全員宿泊施設へ。
国境の辺鄙な場所だ冒険者が繰り出す遊び場は無いし、護衛任務中なので酒も無い。
留学生2人は共和国主催の晩餐会に招待されている。
簡単な式典が行われたが、慣れない魔列車で疲れただろうとすぐに解散。
なのに夜会。
クルバドンから来た役人はここまで彼の送別会が行われたのだ。
席は離れているが全員同じホールにいる。
ここでも仕事中の冒険者には酒は出ない。
「私はここまでですが明日は今日より大変ですよ」と役人。
あえて俺達にも聞かせている。
「大変とは」マル様。
「今日は王都からここまで同じ列車で来ています」
「それがどうかしたのか」ハフルケイト卿も不思議そう。
「では」
解説が始まった。
「クハドール王国は現王の号令のもと8年前に魔列車の国家で導入することを決定しました。それに3年遅れ共和国も国の事業とすることを議会が決定したのですが」ここでククッと笑いを入れる。
「我国に遅れぬようにと急いでいたため関係各所との調整不足が露呈し幾つかの規格で作ってしまったんですよ。明日中央都市に行くまでに数回列車の乗り換えを必要とします」
ザワザワと声がし始めた。
「無論我国では王の号令のもと1つの規格で作っています。だからこそ王都でもこの辺境でも同じ列車が走るのです」
なるほど〜、と声が上がる。
日本の周波数の話でそんな事聞いたな。力学が生まれてしまう合議制の欠点だな。
翌日、共和国の役人に変わる。無口だ必要最小限の事しか言わない。
しかも乗り込んだ列車は内装が豪華だか窓がない。
「この列車は峠越えをするので、もしものために丈夫に作ってあるのです。次の列車には窓が有ります我慢していただきたい」
窓が無いことへの不満が止まらない冒険者にまいったのか、役人が窓のない理由を説明した。
まあ理由を知ったところで冒険者の愚痴は止まらないが。
ゴーレムの馬の足音と聞き慣れたレールのつなぎ目の音。だんだん眠くなる。
「ご忠告を1つ」
役人の一言で目が覚める
「この列車は試作車両を使っていますので魔力制御がうまく出来ていません。もしかすると耳が痛くなりますがその場合は大した事はありませんので自分で治癒してください。自己治癒が出来ないかたはあくびをすれば治ります」
それほど間をおかずに耳にきた。
「うぉ〜」大げさに騒ぐ冒険者達。すぐ自分で治せる魔力はあるだろうに。
しかしこれは魔法関係ない、魔法の無い日本でもよく経験していた。
トンネル出入の時に感じる耳の違和感。
ボトリスに車両の外を見てもらい、ここがトンネルの中だというのを確認した。
こうなるとこの列車に窓の無い理由も別だ、外を見せないようにするためで、このトンネルの存在は極秘なんだ。
昨日教えてもらったように列車を乗り換えた。
その時に注意して見れば魔列車の規格の違いは明白、レール幅だ。これも魔力は関係ない。
首都に入ったのは日が落ちてから。
首都は上下の2本構成の路線が作られている。しかも駅へは本線を外れるバス停式。
事前に良く計画され導入されている、これでレール幅を間違えていたなんてミスはあり得ない。
これも意図的にレール幅を変えている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本日はお疲れ様でした」
駅に着く直前共和国の役人が話し始めた。
「いくつかご注意したい事がございます。皆様には客人とは言え共和国の法に従っていただきます」
騎士達が敵意を役人に向ける。
「この国には貴族制度はございません。議員がいますが彼らも期間が決められている平民です。この国では人に上下はないのです」
「かわりに金での差はあるが」と後ろの冒険者。
役人に向けての言葉じゃないので彼には届かない。陰口のようなものだ。
「王国内のご身分貴族というものは共和国では何の効力をもちません」
「なんだと!」
「はい、理解しております」
兄妹の2人の反応が違いすぎる
「疲れたとしても先に座っている庶民に席を譲らせる事はできません」
「なんだと。無礼じゃないか」騎士が騒ぐ。
役人が口を開く前にキーナお嬢様が
「それが間違いだとご説明されているのです」と言う。
声は小さいが魔力で”恥をかかせるな“とわざわざ乗せている。これは効く。
「それともう1つ。共和国にはラース族以外の人も居ます。皆様と同じ人なので問題を起こさないようにお願いします」
「獣人や蜥蜴人がいるのですか」と嬉しそうなキーナお嬢様に対して兵士や騎士は顔をしかめる。冒険者にも何人かいた。
「おりますが、獣人や蜥蜴人は差別用語となるのでおやめください」
「申し訳ありません」
ラース族とはゲームで言う俺達フューマンの事。言う人によって意味が変わるのでこれは音で覚えたほうがいい。
共和国にいるのは傭兵の嘴と羽根族。俺的にはリザードマン。
北大陸でも南の沿岸には例外的にエラと水掻き族が水夫として働いていると聞いている。
絶対会いたい。




