1-29. はるかな北へ
翌日屋敷に行くと中には入れてくれず別の場所に案内された。
そこは広い何もない開けた場所。
「よく来たな。話はハフルケイト卿から聞いてる、お前の腕前を確かめろってな」
そこで待っていたのは冒険者だった。
「俺は6級冒険者ザクロフト。話したことはないがギルドでは何回か顔見てるよな」
頷く。
「俺も噂のルーキーの実力に興味が有ってな、今回志願した。よろしくたのむ」
ザクロフトはギルドで何回か見た顔だ。
彼はいかにもな冒険者の格好をしていた。身軽な皮の防具に剣と盾。戦闘スタイルもオーソドックスなのだろう。
それに安心できる事として彼はネイロン派じゃない。
ザクロフトと模擬試合をしたが、肩慣らし程度で終わってしまった。
「まあ、こんなもんだろう。仕事に必要な分があればいい、お互い底は見せたくないだろうしな」
それは合格でいいのか
「さて本番だ。護衛が仕事なんだからいくら敵を倒しても守るべき人が倒れれば仕事は失敗。今度は守る力を試す。全力で俺を守れ」
なんだそれ。
「俺の持ってるの全部使っていいんだよな」と上を指さして聞く。
俺の上にはシュリーゲンが飛んでいる。
「もちろん」
シュリーゲンが周りに隠れている兵4人を既に見つけている。
ザクロフトは俺に飛ぶヘビが居るのを知っている。それを逆に罠に使うはずだ。
なのでボトリスにも周囲を探させる。
案の定、近くに穴を掘って2人隠れている。
「始めの合図で地上の4人が走りだした。
そっちはシュリーゲンに任せ、俺は地面に隠れている2人を出てくる前に一撃。
無論殺してはいない。穴の中に隠れている状態の2人を槍の刃の反対側で突く。
走り込んできた4人も足首を押さえ倒れ込んでいる。
終わった。
「...」
ザクロフトが黙っている。
あ!
もしかしてこれ俺を落とすための試験だったのか。
合格してどうすんだよ。面倒くさい仕事が待ってるんだぞ素直に落としてもらえばよかったのに。
「は〜。さすが超期待の新人、予想を超えるね。あれ死んでないよな」
シュリーゲンに噛まれ転がった4人のことだ。
「毒は使ってません。多少痛いでしょうけど普通に歩けます」
「だそうだ」
それを聞いた4人が痛がる仕草を止める。その前まで毒が注入されたと騒いでいた。
穴から出てきた兵士に
「お前走れ。ハフルケイト卿に連絡、起きた事を報告しろ」
「なんと言えば」
「そのままだよ、そのまま。単純な戦闘力ではお前達より上、守る能力に関しても問題なし。飛ぶ使い魔がいれば広い範囲を監視できるのでキーナお嬢様が大切なら彼を護衛に入れるべきだとな」
評価高いな。
「オリ悪かった」
「やっぱり騎士様に不満は有ったんですね」
「くだらんプライドだ。それでも領主様とキーナお嬢様への忠誠は本物だからこれ以上は間違わんだろう」
だといいな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「オリ。キーナお嬢様の護衛で隣国に行くの。いいな〜」
アイシャは領主のキーナお嬢様のことは知っていた。
「キーナお嬢様って有名だった」
「一部ではね。何せ次期領主候補だから」
あれ、慌てて補足した情報と違う。
「キーナお嬢様ってお兄さんいなかったけ」
「マル子息ね。キーナお嬢様の比較で名がよく出てくる」
あ〜当て馬か。
声を落として聞いてみた。
「妹に比べ兄さんの評判よくないの」
「あくまで噂だけどね」
そりゃそうだ、平民が貴族の息子や娘に気軽に会えるわけはない。逆に平民にまでそんな噂が流れているとなると隠せなかったととるべきだろうな。
出発の日まで余裕が有ったはずだが、色々な雑事で忙しく日々が流れた。
支度金を支給されキーナお嬢様の護衛として恥ずかしくない格好をしろと、全装備を新調するはめになった。
防具だけでなく儀礼や式典に参加できる服装も用意しろときた。支度金は全部なくなった。
最初に聞いていなかった話が1つ出てきた。
留学にキーナお嬢様の兄マル様も同行することになった。
マル様は22歳、この歳まで国を出たことが無かったが妹が留学するならと割り込んできた。
それを許可したガナターン卿は父親としても領主としても減点だ。
そのせいで護衛の人数も増えた、ガナターン領の兵士20人、騎士5人そして冒険者11人で構成されている。リーダーは筆頭騎士のハフルケイト卿、第10爵位を持っている。
若干冒険者と領兵の間に溝があると感じた。
兵や騎士と冒険者の関係はといえば。
兵士になれない者でも冒険者になれる、そして冒険者になれる者は兵士にはならないそうだ。言い回しが双方の関係を言い表している。
騎士と冒険者ではトップ集団の力の差は多少騎士が、数では冒険者が多い。優秀な冒険者を騎士が引き抜くからなのだが。
それぞれの言い分を均すとこんな所だ。
ハフルケイト卿も俺を落とそうと画策していたとは思うが、何事もなかったように護衛任務にシュリーゲンの能力を活かそうとしている。キーナお嬢様へが一番なのは本当なのだろう。
それに比べてマル様への扱いに差がある。差を付けられている側が気がついていないのがなおさら酷い。
隣国に行くだけならそのまま向かったほうが近いのだが、一度王都クルバドンへ行く必要がある。
「クルバドンまでは馬車で16日を予定している」
クハドール王国の国土は西の山脈に沿って伸びている。日本のように長い国土を持つ。
そしてガナターン領は南西の先端に近い領地、北にあるクルバドンは遠いし貴族の移動なので無理はしない。
留学先のナポリクス共和国はクハドール王国の南東にある隣国だ。その名の通り議会による共和制の国だ。
この世界に共和制国家が有るのが意外だった。
身分差があるハドール王国でさえ王政への強い不満は聞かなかったからだ。この国に圧政に苦しむ民衆のイメージはない。
本当の意味で血によって決定しているからなのかもしれない。
貴族は魔力をもつ血を持っているので力の差が明確。しかし覆せないが絶対変わらぬ差でもない。
血の質が悪ければ貴族でいられないし、民衆から突然優秀な血を持つ者が現れることもある。
厳し過ぎない政策を行っているのは、圧政をしていて怨嗟の中にすぐれた血が現れた場合を考えれば当然なのかもしれない。
それに明確な敵である魔物がいる、多少の不便でも国がなくなるよりはまし。国民も我慢している。
馬車は四足馬が引き、その周りにには二足馬に乗る騎士が護衛として守っている。
馬車の後ろに兵士が徒歩でついてきている。
冒険者と言うと先行して危険が無いか確認している。
シュリーゲンがいるおかげで広い範囲をカバーしているので今回は楽だ。飛行タイプを従魔にしている魔物使いや獣使いが多いはずだ。
基本馬車の一行は街や村に宿を取る。街の中は騎士達の管轄。
街とは高い城壁に守られているのでそう多くはない。殆どが村だ。
街の場合は俺達冒険者も安宿の部屋で休めるが、壁のない村の場合は低い塀の外で警戒に当たる必要がある。
そのおかげで護衛対象者を見たのは出発の時見ただけで後はたまにチラリと姿を見る程度。
今夜も郊外の野営地。
俺はここでシュリーゲンで辺りを監視し、他のメンバーは交代で周りを探りに走る。
「俺達嫌われてるんですかね」と戻ってきたザクロフトにボヤく。冒険者への扱いが思っていたより悪い。
「見下してはいるがそこまで嫌っちゃいない。こうするもんだって疑わないだけだ」
「それより、もっと早く進んでくんないっすかね」と一緒に戻ってきた冒険者。
「兵士が徒歩だぞ、走って疲れてたらいざって時に役に立つだろう」
「疲れてなければ役に立つって言い方ですね」
「いないよりはマシだ」
「逃げ出さなきゃだけど」と冒険者は混ぜ返す。
「金をもらっていてはそれは出来まい。肉壁の役割がある」
ウゲ〜。酷いこと言ってる。
「そう考えれば大抵の事は聞き流せるだろう」と俺を見る。
彼らにも不条理があると。
はい、わかりました愚痴は控えますよ。チームですもんね。
道中馬車を護衛する騎士と兵士が戦闘する事は無かった。
道を使っていたのでせいぜいゴブリンとの戦闘が有った程度、俺が見つけて冒険者が排除した。
1人怪しい人がいた。野盗の斥候。
冒険者全員で何をしているかを聞きに出向いた。
そうするに”すでに見つけているしこっちの数は多い、帰りな”だ。警告は正しく伝わったようだった。大人しく帰ってくれた。
「今回の仕事は盗賊討伐じゃ無いからな、護衛対象者がいるんだ、しないで済む戦はしない」と言うザクロフトの方針。




