1-3. 命を賭けて生きてます
街に入ってそのまま大きな建物へ。
『冒険者ギルドだ、待ってろ』と2人カウンターへ向かう。
カウンターが並ぶその風景は俺のイメージした冒険者ギルドそのもの。
話し込んでいた1人がこっちを向いて手招きする。
残り3人に囲まれてカウンターに向かうと『じゃ、後よろしく』と6人とも離れていった。
『待って、まだ話が終わってない』とカウンターの女性。引き留めようとするが逃げ足の方が速かった。
『どうした』と少し離れたところにいた男が寄ってきた。カウンターの女性が説明を始める。
話を聞いていた男が『お前話せないのか』
頷く。
『自分が誰かもわからないと』
この世界ではと頭で補足して頷く。
プロレスラーのような体型の男は腕を組んで悩み始めた。
首を何度もゆらしてぶつぶつ言っている。
『俺はここの副ギルドマスターのダロン。お前を冒険者ギルドで保護する。ただし自分の飯代は自分で稼げ。冒険者として登録しろ』
ダロンはキョロキョロして『ヒューダマインちょっといいか』と人を呼ぶ。
呼ばれたのはヒョロ長い中年。片腕が無い。
『こいつはヒューダマイン、ベテランの冒険者だ。ヘマで腕を失って戦闘は苦手だ。今は自分の冒険者稼業とは別にギルド専任の新人指導員をしている』
『どうしたんだダロン、まさかこの子を見ろって言うのか』とヒューダマインは俺を見た。
『そうだ、ちょっと大きいが訳アリだ。よろしく頼む』
ヒューダマインは俺をジロリと値踏みするように睨む。
『ゴブリンの巣穴で生きて発見された。ショックで言葉を失っているし身元に繋がる物もない。このまま放り出したら目覚めが悪い』ダロンがさっき聞いていた話をした。
『なるほどな、俺はヒューダマイン。冒険者歴だけは長いが所詮6級どまりだ。あまり期待するなよ』と手を出して来た。
握手はこっちにもある挨拶なんだと思って手を握る。
『良いとこの坊ちゃんか?』とヒューダマイン。
『その線で親を探すつもりだ』と返すダロン。
『精々優しく教えるよ。じゃ明日の朝ここで』とヒューダマインはギルドを出て行った。
『冒険者登録だけさっさと済ますぞ』と受付へ。
魔石1つを渡し、登録手続きを始める。
冒険者登録は年齢制限なし名前だけでOK。
本名を名乗っても意味がない。何故か厨二心が目覚め、前世がタケシだったから「ウォリアー」と言ってみたが。
『何だって』聞き取れない。
しかも『面倒くせえ、なんだっていいだろう、オリにしろ』とオリになった。
何かの装置の窪みに1滴血を落とす。
装置に刺してあった円柱が冒険者の証明だった。
ドッグタグを想像していたが違った。直径2cm長さ10cmほどの円柱。
上に紐を通す穴があり首から下げる。
なくしたらうんぬんの説明は定番。
身分証明になるのと国を超えて大陸中全てで使えるのも定番。
ただし他国に入るには6級以上にならないと駄目だった。8級以上じゃないと他の街にも入れない。
『オリ大銅貨1枚貸してやる。服を買ってこい。って無理かオイ、カリナお前今日は終わりでいいからこいつの服買ってこい』
『終わりでいいって、もう終わる時間じゃない』
カリナと呼ばれた女性は俺を見て『もっとワイルドならよかったんだけど』
『そう思ってお前に頼んだ』
『プルトだと食べそうだもんね』
上司と部下の会話がそれでいいのか。
不良冒険者の新人イジメの定番イベントは発生しなかった。
横に強面のダロンがいたからだとは思う。
戻ってきたカリナからボロ服と靴を受け取る。
『寝るとこはここの裏。15歳未満の10級ならタダで寝られる。ただし寝る場所は早い順』
次にギルドの隣にある酒場を指さして
『飯はあそこで食える、1食鉄貨1枚。味は期待しないこと』
酒場は別の建物だが繋がっていた。
『これは服代のお釣り鉄貨8枚。服は一番安いのを買ってきた。今は残しておいたほうがいいだろう』
カリナさんなんだかんだ言って面倒見がいい。
この世界初めての食事は薄いスープと平たいパン。
パンは発酵させていないクレープみたいなもの。
穀物系を挽いた全粒粉で作られている。少ないが不味くはない。
スープは野菜と塩だけのもの、こっちははっきりとマズい。いや薄い。
宿と言われたのは訓練所だった。屋根があるので雨と風は凌げる。
毛布を借りられたので適当な場所に横になった。
これは底辺の生活なのだろう、早々にこんな生活からは脱したい。そう思わせるための環境なのかもしれないが。
食べれば出したくもなる、こっちのトイレにも行った。
男用は仕切りがなく壁の前に溝があるタイプ。
大きい用は木製和式の水洗、下に開く蓋があり匂いが上がってこないようになっていた。
紙のかわりに湿った大きな葉っぱ。
日本人には厳しいかもしれないが、車椅子生活の時を考えれば我慢できる。
毛布の中にシュリーゲンを入れるが暖かくはない。ヘビと同じ変温動物なのだろうか。
ボトリスが街に着くにはもう数日かかる。
この世界に来て、初めてゆっくりできた。さて今後どうするかと考える。
やはり転生なのだろうな。
日本に比べ生きるには不便な世界なようだが、せっかく五体満足にしてもらったんだからすぐ死ぬのはなしだな。
あんな状態でも頑張って生きていたんだ、ここで簡単に生を手放したら前の人生まで否定することになる。
それに俺にはボトリスとシュリーゲンというチートもある。簡単とは言わないが絶望的な状況でもない。
そうなるとまず問題になるのは俺が何者なのかだ。
目覚めた時の風景と今の環境が違いすぎる。
文明的に後退している。古代の超文明で眠らされていたというのが妥当な線だけど何もわからない。
わかるのは、今いるのは剣と魔法のファンタジー世界だということのみ。
現地人も地球人に似ている。それは俺も同じ。
髪の色がピンクや緑の人がいたが、あれは染めているのだろうか地毛なのだろうか。
そもそも俺は人なのか。
そう思ってしまうのは地球人当時と大きく違うのが1つ、体の中に何かが流れているのを感じる。一番近いのが血液なのだが地球人だった時に自分の血流を感じたことはない。
そして俺は成長するのか、もしかして死ななかったりして。全部不明だ。
少なくとも現地人と同じものは食べられるみたいだ。
言葉は全く未知の言語。しかも何を言っているのかわからないはずなのに理解できてしまう。自動的に日本語に訳されている感じだ。
これは2匹の従魔からのテレパスも同じ。2匹は現地の言葉を知らないそうだ。
いくら考えてもわからないことだらけ。
しばらくは自分とこの世界を知ることが重要か。
『自分探しの旅』のフレーズが浮かんで笑いそうになる、そこまで若くない。
まあいい、何か別の目標ができるまで言葉通りの『自分探しの旅』をするか。
そして、せっかくならこの異世界を楽しみたい。
剣はどうでもいいが魔法には興味がある。できれば使えるようになりたい。
それも重要と頭にメモ。
試しにステータスオープンと念じてもそれらしいものは出てこない。
鑑定やアイテムボックス、思いつく限りのチートスキルを口にしてみたが何も起きなかった。
まああれは、だいたいが神がいた時のボーナスだったからな。
俺が寝ていた場所に行けば何かわかるか?
「行けるか」とシュリーゲンに聞いてみた。
<デレル。ハイレナイ>
そんな気はしてた、あの施設に人の居住スペースは無かった。
色々考えているうちに寝てしまった。疲れていたんだろう。




