1-4. 初仕事は華やかに
冒険者ギルドに行くと、依頼のボードに人が群がっていた。
カウンターのお姉さんに『オリはそっちじゃないよ。こっちでヒューダマインを待ってて』と言われたので人を観察しながら待っていた。
髪の色は地球では染めないとあり得ない色だし、肌色や目の色もバラバラ。ゲームのキャラメイキングで作ったのかぐらい多様だ。
それに対して服装はある程度の統一感が有る、ほとんどが防具を着ていた。一部に普段着みたいなのも混じっている。それは洋服に民族衣装っぽい装飾が混じっている。
見ていると冒険者の識字率は高くないようだ。いや五割を超えていそうだから高いのか?
日本基準で考えすぎか。
依頼書には簡単な絵と決まり文句があり、下に書かれているのが詳細な説明だと思う。
受けたい依頼書を剥がしカウンターで詳しい説明を受けていた。
当然文字の読める冒険者への説明は短くなる。なので読めているのか読めていないのかは見ていれば判断できる。
感覚的には階級の高い冒険者ほど文字は読めていそうだ。
文字はアルファベットの筆記体に近く種類は多くても40字いっていないと思う。
数字に関しては今すぐ使えそう。特徴があったので文字とは区別できた。しかも10進でゼロもある。
そうしているとヒューダマインがきた。
『坊主は言葉を失っているんだったな』
頷く。
『文字は読めるか?』
横を向く。
『よしお前向きの仕事がある』と一枚の依頼書をひらひらさせた。
ヒューダマインが選んできた仕事は手紙の配達。
ただの手紙ではなく商業ギルドで行われる仕事の連絡係、他の人に見られてはいけないものも多い。
文字が読めなければもし見られても問題はない。確かに俺に合った仕事だ。
ヒューダマインに連れられて商業ギルドへ。
『この人が次の配達人ですか』と担当者に驚かれた。
『訳ありでね、読めないし話せもしない。確かめてみるか』の声で確かめることになった。
持ってきたのは例の球。文字が読めないことを確認された。
『この仕事はもっと小さな子がしていたんですが、いきなりやめて困ってたんです』
確実な児童労働。まあ冒険者登録に年齢制限がなかった時点でお察し、厳しい世界だな。
やってけるのか俺。
地図をもらう。立ち寄る場所に印があり23ヶ所。
回る場所は物を作っている各班の班長の所。
初めてみると
「これを急いで◯、今すぐだ」え。
「△とこへたのむ」今そっから来たんですけど。
「今書くから待ってな」と待たせて「やっぱ明日にするわ」だったり。
「◇△×から今日返事くるはずだ、行ってもらってこい」行けば「そんな約束してねぇ」となる。
配達していれば道端の酔っ払いに邪魔され、からかわれる。
ふ、ふざけるな、やってられるか。
しかも1日鉄貨2枚。回りきれなければペナルティで1枚だ。
それを俺より小さい子にやらせてたのかよ。
怒っても、怒鳴っても、無論泣いてもどうにもならない。
出来るとこからやってく。
まずは地図だ、いい加減すぎる。
シュリーゲンに夜中に高いところから街を確認してもらい地図を修正。
これでマシになった。
3日後に街に着いたボトリスを服の中に入れて実際に現地を確認。本当に通れるとこ、抜け道、危険な道を調べ安全で早いルートを選び直す。
6時間もあれば回れるようになった。
だが戻りや待ちが多く回りきれない日もまだある。
回る班長というのは基本職人の親方。良くいえば仕事一筋だが、この場合では頑固者の側面が悪く出ている。
イライラする。
イライラ?
怒っているのか、俺が?
そう気づいた瞬間声をだして笑った。
何も望んでいなければ、苛つくことも怒りがわくこともない。いつの間にか忘れていた感覚だ。
「フフ、アハハハハ……」
俺は、今の生に希望や可能性を感じているのか。それでこそ生まれ変わったかいがある。
笑いが収まるころには冷静になっていた。本来ないはずの'もう一回だ'、俺の好きに使ってやる。
「今準備するから待ってろ」は、待たなくなった。
「これをXXへ届けろ」や「○○から返事もらってこい」も無視した。
待つも、戻りもしない。準備できていなかったらすぐ次へ。
自分で決めたルートを昼前と夕方に二周する。
そもそも時間の指定もないので俺はいつ行ってもいいはずだ。
ルートを決めて3日目で、冒険者ギルドに呼び出された。
「どうして、指定された場所を回らない」
商業ギルドの職員は怒っている。
全部行っている、しかも2回。
冷静に首を横に振る。
「回っているだと」
イエス。頷く。
「嘘を言うな。組合の連絡担当者から苦情が来ているんだぞ」
それは嘘だ。静かに横を向く。
それを見ていたヒューダマインが「全部回ってると言うのか」
うなずく。
「嘘言ってもすぐわかるんだぞ」商業ギルドの職員は受け入れない。
俺は球を持つ仕草をした。調べてみろと。
「ちぃ」職員が舌打ち「強情ですね」
そしてダロンに「こいつを変えてください。これは明らかに契約不履行、ペナルティが発生します」
「それはちょっと待っていただこう」
ギルド副マスのダロン。
後ろにいた冒険者ギルド職員に「おい嘘鑑定機持ってこい」
球を持たされ「オリは全部回ったんだな」
頷くが変化はない。イエスだ。
「そっちは、確認したか」とダロン。
「こんなことで”真贋の魔具”を使うわけがないでしょう」
「よそに怒鳴り込むならちゃんと確認するもんだ。特にうちにはな」
「しかし」
「ペナルティを言い出したのはそっちだ、お前じゃ話にならん上のやつ連れてこい」
「やっ、それでは私の立場が」
「お前の立場なんざどうでもいい。俺たち冒険者は舐められたら終わりなんだよ。変な言いがかりを言わせたままにはできないな」と凄む。
商業ギルドの職員は慌てて出ていった。
そのまま俺とダロン、それにヒューダマインが商業ギルドへ向かう。今行くとかなり強引な連絡を入れていた。
商業ギルドには本館と別館があるらしく、ここは別館。
いきなり本館に怒鳴りこめば大事になるらしく大人の対応。
向こうも俺が回っていたところの班長を数人呼んでいた。何だよ暇なんじゃないか。
さっきの職員がドヤ顔で「確かに彼は回っていたようですが、手紙を渡す前にいなくなっていたそうです。これは約束違反では」
口元にも笑みがある。
それに証言にきた班長が「そもそも来るのが早い、あんな時間に準備なんかできてるかよ」と続けた。
バラバラな時間より同じ時間のほうがいいと思うんだが。そもそも俺が行ってから手紙を書いていたし。
「いまのは本当か」とダロン。
頷く。
「お前そりゃ」と言いかけたのを手を広げ止めた。
両手で幅を示し、短い場合頷き。思いっきり広げて首を横に向けた。
ジェスチャーで説明してみた。これでわかってくれるかな?
「待たずに次に行ってたのか」とヒューダマイン。
「何でだ」
今度は指で1を示して長い幅、次に23を示して長い幅を23回しめした。
これは1回の説明で理解は無理だった、何度か細かく伝えて
「数箇所で待たされれば全部は1日じゃ回れないってことか」とダロン。
大きくうなずく。
「手紙を受け取らないじゃ役に立たない」と職員。
横を向く。
そしてヒューダマインに下さいと手を出した。
「何が欲しいんだ」流石に無理か。
今度も身振りを繰り返しどうにか依頼書だと理解してもらえた。
さっきダロンが「こいつをなんとかしないとな」と言って持ってきたのを見ていた。
依頼書を新しく加わった商業ギルドの人に渡す。彼はさっきの職員の上司。
読んで「これはうちが依頼している内容で間違えていないのか」職人に聞く。
だが答えたのはダロン。
「20年以上前のものだが間違いなく当時お互いの職員が確認した正式なものだ」
「ふう~」と上司が息を吐く。
「毎年変えてくれと言ってるんだが、一度決まった契約だと言われてね毎回断られてる」ダロンは苦笑い。
「いままでそれで問題なくやってきていた。変える必要ない」と職員。
「なら、その少年の行為に何の問題もありません」と上司。
「そもそも時間の指定がないのでいつ行ってもいいし、待つ必要もない」
「はぁ」
「手紙、すなわち依頼する物がないんです。待つのは契約に無い」
「そんなんじゃ連絡網の意味がない。俺たちの仕事が止まれば困るのはそっちだと思うのですが」と班長の1人。板紙担当の班長だったな。
「確かに職人の手が止まれば困ります」
班長が「だろ」
「その手を止めないためにあなた方は連絡員に選ばれたのです。職人たちの進捗を確かめ必要な物を必要な時に私たちに納品、発注するのがあなたの仕事では」と上司。
「だからやっているだろ。その注文書や発注書を持っていかないんだよ」
「彼が来る前に準備しておけば済む話です。当日に数が変わるなどないと思いますが」
リアルで”ぐぬぬ”を聞いた。
「2周しているのだから、どこかからどこかに届かないというのは起きない。良くできた仕組みだと思いますよ。これを使えないのはこちらの問題」
この上司できる。
「アルファル。君は商人になりたいのだよね」
「は、はい」いきなり名前を呼ばれて焦る職員。
「それなのに、この依頼内容に問題がないと考えていたのかね」
「契約を変えるなら、こちらの要望も言わせてもらう」とダロン。
「そんな」アルファルの声が大きくなる。
「今時こんな安い仕事はない」とダロン。負けずに大声を出す。
「たかが鉄貨数枚を惜しんで契約を変えずにいたんですね、馬鹿なことを。結局あなたのその程度の価値だと自分で言っているようなものです。嘆かわしい」
契約が見直された。
2回目に回る時間を昼過ぎから、夕方へ。
値段は4倍。
緊急は特別料金が発生、回りきれなかった場合のペナルティはなし。
しかも緊急の定義を徹底させ、依頼者に別途お金を出させた。




