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1-24.謎また謎のイノセント

 魔法回路は書く魔法だ。


 魔燐水から作られた魔力を持ったインクで回路を書く。

 この回路がどう動くか理解して書く必要がある。このどう動くかは勝手に理由付けされている。

 それじゃ何でも出来ると思っていたが、過去に否定されたりしていると動かないらしい。


 問題は過去すべて否定された論理を覚えている人がいない事。それに対し各国には記録が残っているので過去に否定された論理だといきなり否定されかねない。

 戦争時によく行われる手法だ。


 俺が元にしているのは地球の電子回路図。大学が理系だったので回路図は読める。

 そしてあれはリアル地球で多くの人の知恵が詰まったものだ。簡単に否定されるようなものではない。


 ただし魔法は未知。

 勝手に想像して論理を組み立てるんじゃなく、この世界のルールを調べ理解し回路に反映させていけばいいだろう。


 この世界の常識が俺には足りていない。

 ゆっくりとこの世界を調べ構築していこう。


 書かない錬金術の物質の変化。

 形状の変化から分離、融合も別エネルギーを与えずに人の手で行える。

 最初工房で鉄を粘土のように素手でこねくり回している職人を見て驚いた。しかも熱くなっていない。


 鉄が作れると言っても仮水でさえ本物の水にするには多くの魔力が必要なので、魔力で作った鉄は金より高い。

 チャさんの工房では鉄は買っている。

 そしてその鉄を手で成形して冷蔵庫の壁にする。


 工房で作っている冷蔵庫は部屋だ。日本では肉屋で使う小型の冷蔵倉庫のようなもの。

 その内壁は一体型で作らないとだめらしく、その壁に熱を通さない魔法回路を仕込み断熱している。


「鉄板にして組み合わせた方が作りやすいのでは」と聞いてみたが。

 工房の人に「これだから素人は」笑われてしまった。

「魔法回路がその分必要になっちまう。性能そのままで値段も動かすための魔力も3倍になる。誰も買わないさ」

 なるほど。


 工房の人は口が悪いがいい人ばかり。それに口の悪さなら冒険者のほうがひどい。

 それに俺が狩ってきた肉を工房の食堂に流しているので、みんなからの受けはいい。


 昼間は冒険者として働き、夜はアイシャと一緒に試験に向けての錬金術を学んでいた。

 アイシャは今までの分があるから俺より進んでいる。失敗しなければ難なく試験は合格するだろう。


 俺はと言えば変形や分離合成は出来る、魔力から熱や光への変換もそれほど苦労しなかった。

 だが魔力で物質を生み出すことが出来ない。地球の知識が邪魔をしている。

 試験では仮水を作る必要がある、このままでは受からない。


 回路は俺とアイシャが共同で理論を構築していっている。

 回路に関しては地球の知識が使えるのでアドバンテージが俺にある。


 俺はアイシャの論理に問題を指摘。逆に俺のミスを指摘するアイシャの質問を逆に論破する。

「オリなんでそんなこと思いつくの」

 正直言えば5級までの魔具は作れるかもしれない。地球にあった物を魔法で再現できそうだった。

 基本4級以上はまさにファンタジーの領域。

 2級の空飛ぶ魔具は飛行機を作れば行けそうだが、3級の時間経過しない収納する魔具は無理。

 物語ではよくある異空間収納だが仕組みを想像できない。


 最近時間が出来ると工房に来ていた。働いている人を眺めながら考えていた。

 俺とこの世界のすり合わせにも役立っている。

 工房にはネジは無い。それらは魔法で代用している。

 鉄の板の組み合わせも魔法で合成、1つにしているのだ。ネジなど余計な発想はない。


 ただ大工はいる。彼らは魔法職じゃないので釘は使う。

 鍛冶屋もいる。錬金術で作った刃物より良い刃物が作れるからだ。

 錬金は鋳造に近いので納得できた。いくら折りたたんで真似しても分子の並びまで制御しなければ丈夫な刃にはならない。


「だめだ〜。漏れてる〜」工房の一角で大きな声があがる。

 依頼された仕事は昼間に行うが、彼らはこうして夜は研究や実験を行なっている。

 残業の概念はない。自分のスキルアップのためだから当人たちが生き生きとしている分、日本よりマシか。


「どうした」とチャさんが駆け寄る。

 工房オーナーが普通にいる。


「新式の回路ためしたんですが、冷気漏れてまして」

「この回路、3年もかかった自信作だったんですよ」

 チャさんやれやれという感じで。

「私は20年以上頑張ってるんだ。たった3年で追い越されてたまるか」

 言われた2人は床に座り込んでいた。


 座り込んでいる一人が俺に見られているのに気づいて

「今までより魔力を使わずに熱を抑える回路を考えていた。そうすればオリが以前言ったようにバラバラに作って組み立てれる。安く出来るんだよ」

 俺がすぐ思いつくようなことはすでに考えられている。


「この半分程度なら使えるのに」とボヤく。

 半分?

「全部冷気を閉じ込めるんじゃなくて」と思わず聞いてしまった。

「それは今使っている魔法回路でもそんな事出来ませんよ」とチャさん。

 微妙な顔をしている。

「私の生涯の課題ですね」

 高い目標なんだろうな、素人の俺が口をだしていい話じゃない。


 冷気が漏れたという大きな鉄の板。向こう側から冷気を当てていた。

 触って冷気が伝わるか試していたのか。基本全部人手なんだよな。

 手の跡が水滴の中に残っていた。


 こんなことが夜毎繰り返されていた。


「水滴!」

 夜中にベッドの中で叫んでしまった。


 試験で水を作る必要はない。集めりゃいいんだ。

 起き上がり、寝間着のまま作業台に向かう。

 大気中の水分、水蒸気を集める。


 錬金術は身体強化魔法の応用。頭の中でより具体的にイメージして指先に魔力を流し込む。

 指先が湿ってきた。

 しばらくかけて一滴したたり落ちる。


 翌朝、アイシャに再現して見せると

「オリ、残念だけど時間がかかりすぎ。不合格」

 断言した。

「でも試験会場の・・」

 あ、'湿度'の単語がない。


 ボトリス

 従魔で'湿気'を発音

「空気に溶けた水」

 へ!

 俺、変な事言ったぞ。

「??」アイシャはますます混乱したが、俺も混乱している。

「オリ、頭大丈夫。熱でもあるの?」

「大丈夫。でももう一回寝る」

「それがいいよ。母さんには言っとく」


 その日はベッドから起き上がらず、ボトリスとリンクして独り言。

 長くは無理なので、数分喋っては休み、数分喋っては休みを繰り返す。

 おかげでとんでもないことがわかった。


 日本語に有り、現地の言葉に有る言葉は現地語で発音される。

 何故か俺やボトリスの知らないはずの言葉も勝手に発音される。これが前に聞いていた、話そうとすれば言葉が出てくるという事なのだろう。

 びっくりだ。これも魔法が関係していると思うがどう関係しているのかも全く想像できない。


 これだけでも驚くが、こちらにない言葉で話そうとすると2つの現象に分かれる。

 1つはこちらの言葉で言い換えられるもの。さっきの'湿気'が'空気に溶けた水'になったようにだ。

 そして概念さえ無いものは日本語で発音されてしまう。


 'チョコレート'が'テカルの実から出来た菓子'になるのはこの世界でも似たようなものがある証拠。

 'カカオ'と言おうとすると'テカル'になる。

 こっちにない概念や置き換え出来ない単語は日本語で発音されてしまう。

 '水素'や'酸素'は日本語になる。空気の成分はいまだこの世界では知られていないことだ。


 なんだよこれ。

 この世界に有るか無いかの判定に使えるじゃないか。

 初めて聞いた話だ。なんでこんな簡単なことが知られていない。


 よく考えれば当たり前な事だ、知らない事は話そうとも思わない。

 俺にはこの世界に無い知識があるので話そうと思える。


 喜んだが、何に使えんだよこの能力。

 俺のチートおかしくないか、チートになってねえ。もっと使いやすいチート能力をくれよ。

 罰かよこれ、何の罪も無いぞ。



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