1-23.新しい絆
「ゆっくり、ゆっくり、そのまま、はい止めて」チャさんが指示をだす。
3人でクーラーを移動させていた。
クーラーは円柱型。
高さは俺が手を伸ばしても届かず、円周は俺とアイシャが手を繋いでも足りない。
位置や向きの微調整をし、やっと床に金具で固定。
室外機だと思っていた箱に入っていたのは透明なタンク。上に取り付けて魔燐水を注ぐ。
「魔燐水は中品質のものを使ってください。高品質のものを使っても冷えるわけではありません」
使い方の説明が始まった。
そのまま夕方まで運転試験を行う予定。
俺とアイシャさんは暇になった。
街でも見学しようと思ったら
「止めておけ」とアイシャさん。
「私たちはカロン卿の客になっている。街に出ると護衛が付く、ウロウロするのは迷惑になるぞ」と言って自分は本を読み始めた。
「俺にも読めそうな本ないか。貸してくれ」と言うと「オリは文字がよめるんだよね」
「大丈夫、図書館にも通ってたし」
荷物を探して一冊渡してきた。
「錬金術の基礎が書いてある。オリが読んでも問題ないと思う」
おぉ、読みたかった本だ。
「ありがとう」
不思議そうな顔をして「普通魔力が有る奴は呪語魔法に行く、錬金術に興味があるなんてオリは変」
「そうか」
呪語魔法にも興味はあるが今はアクセスできない。
借りた本にはまさに俺が知りたかった事が書いてあった。
序文には魔法の基礎。
『世界全てのものはエーテルから出来ている。
エーテルとは姿を持たぬもの。触れる事も見る事も止める事も出来ない。
人が直接関われないもの。
エーテルを動かす事ができるのは魔力のみ。
生有るものの血を媒体として、エーテルが魔力に変わり蓄積される。
魔力は意思により動く。
エーテルは全てに変わり、全てのものはエーテルに戻る。
形もたぬには変じやすく、形有る物へは変じにくい』
現地発音が'フェール'意味が”名を持つ無”、それがエーテルと訳される。
要は何だかわからないものだ。
ただ魔力が血によって作られているのは経験的に腹に落ちるが、無のエーテルから実際の物質が生み出されるのには理解が出来ない。
錬金術に関しても
『錬金術には2つの魔法が有る。
1つ目は変える魔法。2つ目は書く魔法』
「どうしたの、難しかった」とアイシャが声をかけてきた。
「何を言っているのか全くわかんない」
そこからはアイシャが俺に教えるかたちで話が進む。
錬金術の1つ目の変える魔法とは、地球での本来の意味での錬金術すなわちアルケミー。性質を変える魔法だった。
この世界でも物質に気体、液体、個体の3つの状態が知られ温度で変化するのも常識だが。
その熱を無視して魔法で状態を変えれる。お湯を温かいまま氷へ、触れる液体状態の鉄などが存在する。魔法をやめれば本来の状態に戻る。
状態を変えるという意味では海水を塩と水に分ける事も含まれる。
それがこの世界での塩の一般的な作り方だそうだ。
そして何より驚いたのがエーテルを介した変化。
エーテルを基準に物を作る術だ。熱や光はもちろん水や鉄を生み出すのだ。
本物を作るには大量の魔力が必要だが、その性質の物を作るのは意外と簡単で仮水や仮鉄と呼ばれていた。
物をエーテルに戻すのはもっと難しい、いくらエーテルにしても元に戻ろうとする力が働く。
小さいものを一瞬消す手品のネタにできる程度だ。
この方法は自分を魔力で包み、血に流れる魔力から目的の物を"変化させる工程を正しく"思い浮かべればいいそうだ。強化魔法に似ている。
そして"変化させる工程を正しく"には正解がなく、本人が正しいと思わなければならない。何が正しいかと思うか人によって違うため手法も違う。
当然この方法は秘匿されている。
もう1つの魔法の魔法回路は書いた者の認識で発動する。
自身を魔力で満たし回路がどう動くかを意識しながら描く。変える魔法で思い浮かべた効果を書く。
これも間違えた魔法回路というものは存在しない。発動する魔法回路は全て正しい。
間違いと人に認識されない限り魔法回路は発動する。
やっぱりむちゃくちゃだ、何でも出来てしまう。
「書けば何でも出来てしまうって無茶苦茶だって」
「何でも出来てしまうわけじゃない。まず書く者が制約になる」
「たとえば」と聞くとアイシャは少し悩み。
「たとえば、魔力の流れる量を制御する必要がある回路を考えて魔力量を線の太さで書いたとする。そうなるとその魔法具士の書く回路では線の太さは魔力量を表さないといけない」
「後から物凄い量の魔力を表そうとしても線の太さが現実的で無くなって回路にならないって事」
「そう」合っていた。
「だからその知識のないオリにあの本を見せてお父さんに怒られた」
「魔法回路は秘匿するっていうのは」続けて聞いてみた。
「書いた者が間違いに気づいてしまった場合、魔法回路は発動しなくなる。長年使われていた回路がいきなり動かなくなる。これは他者から指摘された場合にも起きる」
「それはまた」面倒な。
「不文律で他流派の回路を解析する事はしない」
とんでもない弱点があるものだ。
「その回路の知識を持つ人がいなくなるとどうなるの」
「継承されなくなった魔法回路は動かなくなる。無くなって困るような流派は無くならない」
言い方。
「戦争が起きると悲惨。いきなりいくつかの流派が無くなってしまう」
あ〜〜理解できる気がする。
「2人ともその辺にしないか。夕食にしたい」
チャさんが戻ってきてた、いつのまにか夕方になっていた。
「ごめんお父さん」「すいません」
珍しく会話のない食事が進む。
もう全員食べ終わるというタイミングでチャさんが
「オリ、錬金術師になる、ならないは置いておいて、我が家に住まないか」と言い出した。
アイシャの方を向いて「オリとの会話はお前にとっても有意義だったんじゃないか」
「そうねオリの質問は工房のみんなからは出ないものだったと思う。このままオリの質問に答えていけば今までにない強固な魔法回路を生み出せるかもしれない」
チャさんの視線は俺とアイシャさんを何度か往復した。
「アイシャ、お前自身が新しい源流になってみたくはないか」
「私、お父さんの後を継ぎたい」反射的に言い返している。
「それはカイムがやってくれる、すでに修行にも出ているしな。それに私の師匠も6級、お前にはそれを超えてほしい」
娘の大きな人生の選択に俺を巻き込まないでほしい
「話をするだけなら、住み込みでなくとも」
「だめです」最後まで言わせてもらえなかった。
「オリには世界を変えて欲しい」
「大袈裟な」
「大袈裟じゃない。新たな考えで錬金術が大きく変わる、錬金術が変われば世界も変わるんだよ。大袈裟じゃない。アイシャとオリには新しい流派の創始者になって世界を変えて欲しい」
アイシャさんが黙る。悩んでる。
しばらくして「わかった」と一言。
「でも10級試験は予定どおり受けたい」
俺の意思は。
まあ錬金術への興味も突かれチャさんの提案を受け入れた。
それに宿代も浮く。
「よくあの後寝れたね」帰りの馬車に乗ってすぐアイシャさんに言われた。
「私もお父さんも眠れなかったのに、スヤスヤ寝息たてて」
笑いながらチャさん「大物なのか、本人は何もしらないのか」
「知らないんだと思う」
帰り道は昨日の続き。アイシャの錬金術基本講座。
錬金術試験というものも聞いた。
試験に合格すると魔法具士の10級。10級は錬金術で使う技ができれば合格。
10級は錬金術になると、錬金術関係の書物が入手可能になる。
図書館でも関連書物が借りれるようになる。俺も欲しい。
9級から1級は各級に指定の魔具あり、その等級の魔具を1つでも作れればその級を名乗れる。
9級は最も簡単な灯りや発火。ランプやライターを作れれば合格。
チャさんは6級で冷蔵庫が作れる。飛空船は浮遊移動で2級。
1級には特定の場所への瞬間移動、聞いた感じゲームでのファストトラベル。北大陸には無いが南には有るらしい。
街につき宿屋へ出る事を申し出た。
「勝手にしな」だそうだが先払いしていた宿代は返っては来ない。
チャさんが用意してくれた俺の部屋は工房から離れた居住区の2階、一番奥まった場所。
男一人が住むには十分。家具も必要なものは揃っていた。




