1-21.クーラーくらくら大混戦
同じ冒険者ギルドなので”ドラゴンの爪”はたまに見かける。低レベルの俺と違い彼らは長期の指名依頼を行なっている。
リーダーのネイロンが俺を見る目でこいつは敵だと再認識する。
早めに街を出たい。戦う気などさらさらない。トラブルはごめんだ。
6級になれば国境も越えれると聞いてる、早く昇級して街を出たい。
冒険者として最も多いのが7級、6級は頭1つ出た状態。
上がるためにはもっと強くなる必要がある。
自分のできることを見直した。
俺の今の高速化では上級には通用しない。
バリヤもあっさり破られている、どちらもネイロンで実証済み。
関節部分のカバーは捨て、見えない薄い強固な壁を皮膚の外側に作る。
バリヤと違い外からだけの攻撃を防ぐ。バリヤとはイメージを分けたほうがいいと思いシールドと名付けた。
一回イメージすると複製は簡単、何重にも重ねられることに気づいた。
意識しないと無理なので無限には無理だが、必要な強度に合わせて強化できる。
次は攻撃系の強化、スピードとパワーを上げる試みを試す。
魔力で全人を満たし筋肉の変わりに魔力で体を動かす、その動きで体を痛めないよう保護するのも魔力。
こっちはバリヤの改良版、イメージの修正だったので実現は簡単だった。
ただ慣れていないので出しすぎたスピードやパワーに振り回されてしまう。使っていけばましになるだろう。
剣を強化している魔力を伸ばす。体から離れれば魔力の効果が弱くなる原則に従って有効なのは50cmほど。見えない刃が伸びる。
イメージで変わるのならと刃ではなくハンマーへ。
これで相手に合わせ攻撃の質を変え切り替えれるようになる。
斬撃波は残念ながらあまり飛ばなかった。有効なのは5mほど、相手が強化されていればもっと短い。使い所を選ぶな。
鍛錬所では少しずつ新式バリヤでの強化を試す。
ベテランに対しても勝率が5割を越えた。
「強くなりたいならまず実践じゃないですか」とプルトさんが魔物討伐の依頼書をピラピラ。
「やだ」と言ってボードから剥がした輸送護衛の依頼書を出す。
「7等級になるにはオーク相当の10体討伐実績が必要ですからね」
魔物討伐の評価レベルも10段階。ゴブリンが9、コボルトが8でオークが7。
一言忠告して俺の持ってきた依頼の説明を始める。
「オリは文字読めるから理解していると思いますがこれも現地での作業を含む依頼です。依頼内容はクーラーの輸送と設置」
”クーラー”そう意訳される。実物を見たくて受けようとしている。
「行き先は隣のカベラルド領の領主街カベラルド、往復に道を使うので魔物に出会う可能性は低い。行きに2日、設置作業に1日、帰りに2日の計5日の予定。いいですか」
「いいよ」の返事を待って俺が受注。
「いい事教えましょうか」とプルトさん、悪い顔してる絶対いい事じゃない。
「街と街の間は道で繋がってるんで魔物の出る可能性は低いんですが、領地の狭間ってお互い遠慮して警備が薄くなっちゃうんですよ」
魔物が出ない安全圏で目が届きにくいとなったら。
「この依頼は8級以上になってますが、報奨金のある盗賊は討伐レベル7以上になります。討伐実績になるので頑張ってください」
おい!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
早朝の待ち合わせは依頼主の工房だった。
「君が今回一緒に行ってくれる冒険者かい。私は依頼人のチャ」と男性が声をかけてきた。
「えぇ」と依頼書を渡す。
「いくつだい、娘と同じくらいかな」お~いと誰かを呼んだ。
中学生くらいの少女が慌てて出てきた。
「父さん早いって、待ってよ」
この世界の住人外見では年齢が判断出来ない、思わずジロジロ見てしまった。
「アイシャはやらんぞ」とチャさんに誤解させてしまった。
「いえ違いますよ。こんな若い錬金術師がいるんだなって思って、冒険者なら珍しくないんですが」
妙な間ができた。
「私たちは魔法具士だよ」とアイシャ。
「この国では錬金術師と名乗れるのは貴族だけだ」またそれかい。
じゃあトキミツも貴族だったのか。
「向こうでは3人で作業する。積み込みを3人でやってみよう」とチャさん。
クーラーは円柱の形をしていた。俺にはどちらかと言えば冷蔵庫。
3人で持ってみた。
親子は軽い身体強化はできるようだ。
「押さないで」「ゆっくり、衝撃を与えないで」「一度おくよ」などチャさんの指示で馬車にのせ中央に固定。
「これなら君で大丈夫だね」
街を出た。
今回は俺も馬車に乗ってもいいみたいだ。荷台にアイシャさんと向かい合って座る。
馬車と訳されているが牽引しているのは大きな亀。
軽トラックほどの亀の甲羅に棘ビッシリ生えていた。そこに牽引用の鎖が繋がっている。
クーラーは衝撃に弱いらしくゆっくりと進む。馬車も揺れない。
「板バネ式の馬車初めて乗りました。思ったより振動が少なくなるんですね」
御者席のチャさんに世間話をふる。
「あぁ、このサスペンションは特別製だからね。この馬車に合わせて私が作った」
「へ~すごいですね」
鍛冶屋は少ない。鉄の加工はだいたいが錬金術師の仕事だからだ。
「魔法具士ならこれくらいの鉄加工なら出来て当たり前じゃない。お父さんをバカにしてるの」
この子、お父さんっこだ。
「俺、最近半年の記憶しかないんだ。常識が無いのは許して」
「そ、そうなんだ」声が小さくなる。
素直でいい子じゃないか。俺は腕組み後方おじさんの気持ちになっていた。
アイシャさん気まずくなったのか、その後話をせず本を読んでいた。
”錬金術の基本”と書いて有る。
「それ錬金術の本、どこで手に入れたの」と反射的に言ってしまった。
「え」
「俺、錬金術に興味あって図書館で探したんだがなくて」とオタク特有の早口。
「魔法回路が動かなくなる可能性があるから広く公開するのは禁じられている」と御者台から。
「父さんそれ言っちゃダメじゃない」
「その本に書いてある程度の事なら問題ないさ」とチャさんが笑う。
大人の余裕だ。
「それに、オリこのままだと騙されそうだからね。そうなると僕らが困る」
アイシャさん俺を見て「それはそうだけど」
俺ってそんなに騙されそう?
「身体強化魔法は願う魔法、呪語魔法は話す魔法、錬金術は書く魔法ってね。僕らの使う魔法回路は書いて発動する魔法だ」
チャさんの講義が始まった。
「書かれたものに魔力が籠るのは知っているよね」
頷く。
「錬金術に流派がある、それは回路にそれぞれのルールがあるからさ。魔法回路は書いた人の考えた通りに動く。そこに間違った知識を混ぜられてしまうと回路は動かなくなってしまう」
は?
「それじゃ何でもできてしまうじゃないか」
「考え方に矛盾がなければね。それが難しいし錬金術の面白いところだ」
「錬金術は積み重ねの技術だ。新しい考えができても今までのルールと違えば動かない。これを見ろ」とアイシャがページを開く。
簡単な図がいくつか載っている。
「灯りの魔法回路だ、代表的な回路が書いて有る。それぞれの流派は以後この回路に反した回路を生み出すことはできない。追加はできても書き換えはできないのさ」
「こらアイシャ、何てものを見せるんだ。オリ回路を理解しようとしちゃあダメだ、彼の可能性を潰してしまう」
彼らの会話が理解できない。
経験上これは俺の知らない魔法の世界の話だと思う。




