1-20.商売はきびしいのだ
「あれ、今日は休みじゃなかった」
遅い時間に現れた俺にカウンターにいた女性が言う。
プルトさんは休みみたいだ。
俺も休みだが「聞きたいことがあって」とお菓子を差し出す。
情報の対価だ。
「判ってるじゃん」彼女が笑う。
「で、何を聞きたいの」
いつの間にかシュリーゲンがレベルアップしていたので以前考えていた事を実験したい。
「仮水生成魔具って売ってるんですよね。安いんでいいんですがいくらぐらいしますか」
「仮水生成の魔具か。最低でも金貨3枚かな」
無理だ、全然足りない。
悩む俺に「仮水生成の魔具が欲しいの、仮水が欲しいの」
「仮水です」
「頼めばタダでもらえるかも」とギルドの奥の酒場を指差す。
前に働いていた、頼めるかもしれない。
「ありがと」とカウンターを離れた。
仮水は何とかなりそうなので、他の必要なパーツを集める。
まずは道具屋で樽を探す。
この世界にも酒や酢は有る、発酵が可能な証拠だ。
蒸留は錬金術で直接アルコールを分離する方法で作られていた。
地球と同じ理由でウイスキーも生まれている。なので樽もある。
人々は日々健康を願っているので”肝臓障害”という言葉はない。自己治癒できない人が二日酔いにはなる。
樽を1つ買う。
次に上もの市場。
目的は野菜。朝一番の峠は超えていたので安い野菜を1樽分買う。
俺の顔を見るなり強引に馬車に乗せようとした奴がいたので冒険者の流儀で断った。また依頼完遂のサインをもらってないので強めに言い返す。
馴染みの酒場に行って「金は出すから、仮水もらえない」と聞いてみた。
オーナーは居なかったが大丈夫だろうと貰えた。金はいいと言われたが少し多めに強引に渡す。
「ダグラスがいる時来るって言っといて」と店を出た。
樽を担いでいると目立つ、街の外に出た。
「1人で飲むには多すぎんじゃないか、手伝おうぞ」と顔見知りの門の衛兵。
酒樽を抱えて出ていくんだ何か有るとは彼らも気づいてる。人に知られたくない秘密など誰にでもあるのを知っているので、冗談で流してくれる。
でもこれが冗談にならないほど飲む人間はいる。自己治癒できる冒険者が筆頭だ。
水が一杯の樽は重いが身体強化すれば問題なく運べる。
機械が発達しない理由がこれだろうな。まったく困っていない。
ほどほどに街から離れ樽を置く。
シュリーゲンを呼んで新たな能力を試す。
それは凍結。
樽の蓋を開け「これ凍らせて」と仮水でたぷんたぷんの樽を指す。
シュリーゲンが全身白く変わった。口から冷気を出し樽を凍らせた。
後は樽に蓋をして待つのみ。
しばらく待っていると樽がミシミシと鳴り出す。
樽の上に座り身体強化。この時樽も自分延長で強化した。
そのまま夕方まで。
「出来たかな」と身体強化を解くとバキンと大きな音を立てて樽が壊れる。
仮水がエーテルに戻り樽の中からなくなったので、密閉された樽の中は真空。
空気漏れや圧力に負けないように身体強化魔法で支えていた。
壊れた樽の底に目的の物が出来ていた。
フリーズドライ。パリパリに乾燥した野菜。触れるとボロボロと崩れてゆく。
翌日フリーズドライを持って冒険者ギルド併設の酒場に向かう。
今の時間なら仕込みで店長のオーガ潰しのダグラスさんもいるはずだ。
「ダグラスいる」と前に働いてた気安さで裏口から厨房に入る。
ダグラスさんは一度こっちを向くか直ぐに調理に向き直る。これでも彼の通常運転。
無駄話はしない。
ので「これスープに使えない」と俺も早々に用件を言う。
「これはなんだ」
「乾燥野菜。お湯で戻る」聞くと近くの鍋に放り込んだ。
丁度お湯を沸かしていた鍋だった。
戻ってゆく野菜達をみてダグラスさんが肉や調味料を放り込んだ。
乾燥野菜には原型をとどめていたのもある、何が入っていたのかわかったので料理のイメージが膨らんだのだろう。
一口飲んで「軽いスープには使えそうだな」
これを口の悪いダグラスさんからも言ってもらえたなら及第点だ。
「いずれダグラスも使えるようにするよ」と厨房を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
商業ギルドでギンさんに会いたいと連絡を頼むと翌日には返事が来て「明日なら」と直ぐに会える事になった。
最近冒険者稼業を休みがち。だがこれも仕事だと気持ちを切り替える。
前回と同じように案内され個室に案内される。今度はギンさんと弟子が先にいた。
「思ったより早く会えました」と握手。
「やはりオリは私の思った通りの人だ」
何も話していないのに。
「それで今日はどのようなお話で」
「まずはこれを」と小さな袋を渡した。
ギンさんは受け取って中を見た。
「これは何でしょう」
少し手に取ってテーブルに広げる。
「草のようですが」
「極限まで乾燥させた野菜です。これなんか原型残してませんか」
指差したのはネギみたいな野菜。
しばらく見ていたが「これをどうしようと」
ギンさんは俺の意図を読めないでいた。
「お湯で戻せます。乾燥させたままなら腐りません長持ちしますよ」
ガバッと立ち上がって「お湯を、いやいや、騒いじゃダメだ、バレる。そうだ、お茶のセットを持ってきてくれ」と弟子を走らせた。
弟子が部屋に戻ると同時に動きだす。
お茶のセットにはテーブルで湯を沸かす魔具もついていた。優雅なテ○ーフェールだな。
湯を沸かしカップにフリーズドライした野菜をいれお湯を注ぐ。
ギンさんは真剣な眼差しで変化を見ている。
そして一口。
「香りは飛んでしまいますが」と補足する俺。
「いえ十分残っています」
ギンさんゆっくり味わった後
「これを私にどうしろと」
「作り方を教えます。手法を買ってください」
「無理です。私などでは正当な対価をお支払いできません」と震え出した。
あれ、これはもしや”僕何かやっちゃいました”系をやらかしたのか?
やだな〜。あれバカに見えるんだよな。
腕を組みブツブツと何か呟いていたギンさん突然「神と契約しましょう」
神と契約??
戸惑っている俺を馬車に乗せ神殿に連れてきた。
「新しいアイディアは他の人が真似できないように神へ預けるのです」
「後から同じ事をしようとしたらどうなんです」
契約魔法は契約した者にしか効果がないはず。
「神と契約出来ている事が本物の証拠になります。同じアイディアでは神と契約できません」
模倣防止にはならないが、どっちが元祖かの証拠にはなると。
陰でこっそりやられれば不正は無くせないと言うと。
「我々商業ギルドがそれを許すお考えですか。いかなる売買も私たちの目を盗んでは行えません、賄賂でさえ私たちは情報の売買と考えています」
賄賂を忌避しないと。
「我がギルドの商いに関する決め事は万人に公平な地上のルール、1800年の歴史と重みを持っています」
「それでも裁けない人もいるのでは」上級貴族とか。
「無論、商業ギルドでは手が出せない方々はおります。ですがそんな方がのうのうとしている国からは真っ当な商人はいなくなります。国が傾くのは思いの外早い、当人たちの世代で国がなくなるかもしれません」
思ってたより商業ギルドの力持ってた。
「統一代から存在しておりますので、それなりに」ギンさん怖い。




