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1-18.ネズミの行進

 夜が明ける前に起こされて持ち場に向かう。

 任されたのは水が流し込まれる塚の隣、手を振れば見える距離。


 日が出てきて始まった。

 しばらくしてパニックになったネズミが塚から出てくる。聞いてはいた、聞いてはいたがこの数は聞いていなかった。

 でかいネズミが数十匹、文字通り湧き出した。

 思わず悲鳴が出たのは俺だけじゃない。


 無心で槍で刺した。多いので身体強化していないと逃げられる。これは9級じゃ厳しいかも。

 しばらくして俺たちの外側担当からも悲鳴が聞こえた。

 その声の輪は外へ外へと広がっていく。低級冒険者なら新人、初めてあれを目にしたら声が出るのはしょうがない。


 2~3時間すると新たなネズミは出てこなくなった。

 外側の応援へ行けと指示を受けたので走る。その頃にはこの光景にも慣れた。

 日が落ちても最外側ではネズミが出続けている。

 松明を灯してひたすら駆除。最終的に終了宣言が出たのは日をまたいでいた。


 一息ついて周りを見渡すとすでにネズミの死体は街の食肉組合が拾っていた。

 食えるらしい。不味くはないらしいが、しばらく庶民が口にする肉はあれになると街の冒険者がぼやいていた。

 解体作業はすでに始まっていた。


 本来街中の仕事しかできない10級冒険者も肉処理要員や人手として連れてこられていた。

 数百の死骸。

 解体する人手が圧倒的に足りない、質は落ちても解体できるのならと連れてこられていた。

 とにかくマンパワーで処理していた。


 夜明けには第一陣として持ち帰る便が出発。一部の冒険者はその護衛として街に戻る。

 冷蔵技術もあるがそれは貴族用、貴族様は穴ネズミなんて食べないから当然持って来ていない。

 俺は最後の便で明後日の帰還となる。アダンサの班なので仕方がない。

 そうなると肉の解体を見ているしかすることがない。


 穴ネズミ(ヨミ)の解体は、まず腹を割き内臓を取り出す。次に頭を落として革を剥ぐ。

 流れるように作業していて何も考えていないようだった。


 革は樽に集められていた。街の皮革組合に売る。

 身は水槽に投げ入れられていた。血を洗っている。その後肉は数十匹一箱が塩と一緒に箱詰め。最後に箱に水を浸す。


 腐らないかと疑問に思っていると

「あの水は仮水(ラアーラ)。半日でなくなるから残りは'穴モグラの塩で固め'となる」とトキミツ。

 濃い塩水の水が半日でなくなる、水が無くなれば塩が結晶する。岩塩ほど硬くはないが固められた塩の中に食材が固められている。

 保存食はこの'塩固め'で作るのが一般的らしい。


 これが何十箱と作られてゆく。

 しばらく街の肉がこれだけになると言ってた冒険者がいたが、理解できた。

 うちの街にだけ運んでいたので、他の街に売らないのと聞いたら。

「なんで大事な食料を他の街に分ける必要があるんだ」と返ってきた。


 頭と内臓は大きな穴を掘って捨てる。穴ネズミの巣がある所を掘ったので彼らの巣に通じる穴が開いていた。

 中にスライムが投げ入れられていた。

 この世界のスライムは大きなアメーバー。ボトリスみたいな某漫画家がデザインしたような可愛い姿はしていない。


 定番通り街の下水処理にも使われているスライム、食欲旺盛でどんどん食べていた。

 そしてどんどん増えていた。増えたスライムはネズミ穴を通り彼らの巣穴の奥へ。

 巣の中の逃げ遅れた奴や水死体をゆっくり処理、よく考えられていた。


 街への道中アダンサに食料を他の街に売らない理由を詳しく聞いた。

 彼らも交易が有効な事は知っていたが自衛のためには備蓄はいくらあっても足りないと言う。


「魔物が異常発生して他の街との通行ができなくなる事は珍しくはない」そうだ。

 そうなれば「普段街にいない村の人も街に逃げ込む」

 普段なら街の兵力で脅威を駆逐する間そうしていればいいが、そう出来なかった場合「魔物の駆除はその領主の責任で行わなければならない」と「兵を許可なく自領以外移動させてはならない」という国の決まりが邪魔になる。


 国へ救援要請をすれば統治能力なしと判断されるので安易に出来ない。

 国の許可のない派兵も禁止されているので救援も期待できない。自分たちで何とかしなければならないのが建前。


「協力関係を結んでおけないの」と聞けば

「条約は結んでいる、それでも兵は動かせない。許可のない進軍は反乱とみなされる。不要なのは辺境伯のみ」

 国は1つの街がなくなるより、目の届かない所で武力が集まる事を恐れている。中央の自信のなさが法に出ている。


「街同士も関係が希薄でな」

「政略結婚で固めてあるんじゃないの」地球人の感想を言ってみた。

「それでもだ。情が有っても兵は動かせない」


「だから俺たちがいる」とアダンサ。

「俺たちは兵じゃない。冒険者はどこに行くのも自由で何の罪にはならない」

「お前が言ったように領主同士は縁者が多い。娘や孫が魔物に食われるのを許せる者は少ない。それに明日は我が身、友人を励ます手紙を書く」

 励ましの手紙それが何になるだ。


「支援者が多ければ彼らから手紙も多く届く」

 ああ、そうか「その手紙を冒険者が届ける」

 そしてその街の兵力になるのか。


「その増えた冒険者も食い物がなければ来ない。この時ばかりは金は無意味だ」

 物流が止まっている。それに金ならそこで活躍すれば後から手に入る。

 当たり前に魔物がいる世界を俺はまだ想像できていない。


 魔王統一時代にできて国を跨ぐ組織がギルド、街や国の補助会として運営されているのが組合と分けられている。

 そういえばギルドと組合と言い分けていたな、自動翻訳されてるので気づいていなかった。


 教会はもっと複雑で説明を聞く相手により変わるらしい。

 世界共通で51神を祀っているという事だけが大枠として決まっている。

 51体。多いって。

「そこに含まれる神様もバラバラで、全部数えたら51を超えると言われている」

 アダンサは笑いながら言ったが、それでいいのか。


 アダンサも暇だったのだろう雑談もした。俺が街の仕組みに興味をもった事もあってその辺の話が多い。

 組織の長そして下級といえど貴族とあって詳しかった。


 今回の遠征に呼ばれている肉市場組合は街では一定の権力を持っている。平民でありながら街の提言議会に1席あるからだ。

 他に平民で提言議会に席があるのは酒組合と清掃組合。

 組合でも物を作るの集まってる製造組合と冒険者、商業、2ギルドはトップが第10爵位の貴族。

 村の代表は貴族籍であれば参加が認められ。特別枠で教会に1席って感じだ。


「この提言議会はあくまでも領主様への提言する機関、この調整がひたすら面倒くさい。俺がギルドに顔を出せないのもそのせいだ」

 決定はあくまで領主様だが、彼の前で議論させられる。結果は出す必要はない。

 領主様はこの議会の意見を聞く必要はないが、議会では何を議題にするのか誰がどんな質問をするのか何と答えるのかなど緻密に調整するそうだ。


 1つの発言で自分の後ろにいる何百人が迷惑する、相当なプレッシャーだと思う。

 大昔スポンサーにプレゼンした時を思い出して、胃が痛んだ。


 しかし提言議会「清掃組合も?」意外

「不思議なものか、飲み水とゴミ廃棄を担っている。どっちも街の生命線だ」と説明され納得した。

 街のトイレは水洗だった。飲み水の確保は無論だが下水も適切に処理しないと病気が流行する。


 ガナターンの街の領主様は第5爵位。その領地に住む人の半数以上が食に関係した仕事をしている。

 街にも農民は多い。朝街周辺の畑で仕事をして日が沈む前に街に戻る。

 この街周辺の畑は麦物用。


 外の村は麦の農作物を作っている。

 比較的近い村は痛みの早い上ものを、離れた村は保存の効く根菜などの下ものを主に育てている。


「何だオリこんな事に興味が有るのか。なら8級や9級には護衛兼人手として食料輸送の依頼が出てるぞ」

 一度受けてみるのも有りだな。

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