1-17.地下帝国
「お前がオリか。悪いがお前の強制依頼が決まった。というか運悪く7級と8級全員に穴ネズミ討伐の強制依頼が決まった。みんなには報酬は出るがお前には出ない」と冒険者ギルドで知らない男に言われた。
「出発は次の親指、日の出にはここに集合」
3日後だ。
「詳しくは自分の担当に聞け」と去って行った。
後ろにいた冒険者に「誰」と聞いたが「知らん」だそうだ。
装備の見直しを行ったばかりなのでこれは痛い。お金に余裕がなくなってきている、どこかで稼がないと。
プルトさんに並び直して強制依頼の詳細を教えてもらう。
まずは「さっきの人誰?」
「ギルマスのアダンサ」ギルドマスター、ここのトップだった。
「初めて見た」思わず出てしまった。
「滅多にここ来ないからね」
それでいいのかと思っていると
「元冒険者だけど第10爵位を賜ったお貴族様。そのおかげで使いっ走りにされて忙しいらしいよ」
ふ~んという感想しか出てこない。
「冒険者がさっきから言ってる地下帝国って何?」
「ここに座ってる身としては、毎回こんなふうに素直に聞いてくれると嬉しいんだけどね」
俺は基本的な知識が少ないのを自覚している。
「冒険者は変なプライド持ってるからね」と困り顔。
「穴ネズミというこのくらいの生き物がいる」と手で大きさを示す。
俺の知るネズミより2回り大きい。
まあ'ネズミ'は翻訳時に脳内で近い生き物が勝手に選ばれた結果。地球のそれと違うのは当たり前。
「その名前通り穴を掘って地中で暮らしている。しかも増え方が異常」
こっちのネズミもネズミ算式で増えるのか。生態はネズミとモグラを合わせた感じか。
「そして大食漢で何でも食べる。彼らの巣穴のある地域は草木も食べ尽くされ生き物も居なくなる」
「災害だねそれは」
「そして最も恐ろしいのはその増えた穴ネズミが掘る穴。数が多くなればなるほど地中の迷宮も広くなる。最大級の巣穴は地下帝国って呼ばれている」
どんだけ広いんだよ。
「地下帝国といっても広さはこのガナターンの街ほど、国を覆うほど大きくない」
この街だって狭くないぞ。円状に広がっている城壁の最も離れた直径は6キロほどだと思う。
「縦横無尽に掘られた穴はいずれ耐えきれず一気に崩れる。付いた2つ名が砦落とし。昔本当に砦が崩壊したと聞いてる」
「幸い今回の巣は近くに街や村はないんだけど、崩落すると分散して別の場所に巣を作るから無視も出来ない」
増えすぎないようにしてるのか。
「領主様からのご依頼だから強制依頼になってる。今では殲滅手順も確立してるけどお金がかかるんだよね、それと人手。お金と作戦は領主様の配下が、人手は冒険者が担う」
なるほど。
「穴ネズミそのものは角飛びより安全」とプルト。
笑顔で「手間なだけで簡単な仕事さ」と言いやがった。
手間なのは簡単な仕事じゃない。
約束の時間にギルドに行くと早々に班に分けられ出発。
目的地までゆっくり歩いて3日。
飲食は領主が準備。領主関係者も多数参加している。
「揉めるなよ大抵はこっちが罰せられる」
出発する冒険者に注意を与えているのは副ギルドマスターのダロン。
彼は居残り。
俺はギルドマスターの班に割り当てられた。領主様関係者のグループ。
荷物を乗せた馬車の横を人がゾロゾロと歩いている。
例外は騎士様、彼らは二足鳥馬に乗っている第10爵位を持つ貴族だ。
アダンサもその1人。彼は俺の横にいる。
「お前がオリか」と話しかけてきた。
「はい」
「詳しく調べたがお前のような貴族の子供はどこにもいなかった」
俺の身元を調べたのは彼か。
「記憶は戻らないのか」
「はい」
しばらく質問のラリーが続いた。
「この班の冒険者はお前を除いて貴族になりたい連中か血縁者だが」
突然班の説明を始めた。
「街の冒険者と多少毛並みが違うが所詮中身は冒険者だ、そう身構えるな」
「揃いの装備をしているのが領主様の兵だが全員が平民」
綺麗に進軍している一段。
「俺と同じ緑のマントをしているのは騎士。貴族だが今回来ているのは本当に剣を振り回したことのある連中だ」
説明を受けながら彼らを確認。騎士なのに振り回さない人も居ると。
騎士は濃い緑のマントを羽織っている。中央に白で街でよく見るマークがある。アレが領主の家紋かな。
「緑のスカーフをどこかに巻いているのは、今回領主様が雇った錬金術師。クセの強い連中だ。人を不愉快にするのが上手いが、無自覚だから流せ」
ひと呼吸おいて。
「緑と白が反転しているマントをしているのが領主様の文官。ほとんどはまともだが勘違いヤローもいるので近づくな」
といって離れていった。
これを言いたかったらしい。
野営で出された飯は意外に食えた。
「ここで食えない物をだす領主だと、街から冒険者が消える」そうだ。
目的地は森の中、ぽっかりと大きな空間が広がっていた。草木がなく地面が剥き出し、砂漠かと勘違いしそうになる。
そしてあちこちに数mの高さの山が点在している。
「あれがネズミ塚」聞く前に横にいたトキミツが教えてくれた。
彼は錬金術師。錬金術に興味が有った俺が積極的に話しかけて知人になっていた。
「掘った穴の土を地上に積み上げたのがあれ。1山1つのファミリーが作ると聞いた」
「ファミリーって1家族って事」
「メスを産めるのは最初の女王のみ。生まれたメスは繁殖しない子を産みそいつらが働く。この子供のメスの産んだ一群をファミリーって呼んでる」
「1つファミリーが1つの巣を作る。ただし帝国内では全部繋がっているらしいけどね。今回の作戦もそこを狙う」
モグラをネズミに加えて蟻の特性も持ってるのか。
キャンプの用意をするグループと周りを調べるグループに別れた。
調査メンバーは数人単位で当たりを歩き始めた。錬金術師と護衛のセットで動いている。
トキミツから護衛を頼まれ彼についてゆく。
何かを探しているようだった。
探していたのは大きなネズミ塚。一度散らばった調査隊がゾロゾロと戻るとサイズを報告して一番大きいのを選定。
「これですね。回りにも大きめなのがありますし」決まったようだ。
「'始まりの母'はここにいる。今日中に準備して明日朝日の出と共に討伐開始だ」とアダンサが宣言。
その声で錬金術師達が作業を始めた、
冒険者は夜に餌を探しに出てくる穴ネズミ《ヨミ》を警戒してネズミ塚を見張る。
目標のネズミ塚に足場を組み始めた。
トキミツもその作業に加わっている。もっとも指示する側で実際の作業は冒険者がしている。
頂上付近に足場を組み立てて装置を数台固定。そこから伸びた大きなパイプが頂上の穴の中に入れられている。
作業を終えて「何だいこの装置」トキミツに聞いてみた。
「あれは仮水の生成装置さ、巣に流し込んで穴ネズミを追い出す」
何を言われたのか理解できずアホな子になった。
「本当に何も知らないんだな」とトキミツが視線を変える。
その視線の先にいたのはアダンサ、頷いてトキミツにその先の話を許可していた。
もしかして俺マークされてる?
「仮水は名前の通り仮の水」何だそれは。説明になっていない。
「'名を持つ無は全てに成り、全ての物は名を持つ無に戻る'は知ってるよな」
「知らない」
「そこからか」と引かれてしまった。
こっちの発音がフェールが勝手にエーテルと訳されているが、現地語の意味は”名を持つ無”。
魔力はカラスフェール。色と名を持つ無で”色のあるエーテル”。
ほんと勝手に訳すのはやめてほしい。
グジャグジャになる。混乱するそれに正確でなくても問題ない。
「魔力とはエーテルを血で変えたもの。魔力は意思で力に変わる、この力とは身体を変えるものだったり炎や灯りになる」
それは聞いている。
「魔具への魔力供給は魔燐水が行う。あの淡く光っているのがそう」
装置に光液体が注がれていた。
「俺たち錬金術師はエーテルを物に変えられる技を持っている。水や鉄みたいな簡単なものに限るが」
無から有を生み出してる。物理法則が地球と違う。
ザ・ファンタジー!!!!
「ただし俺たちが作っているのは仮のもの、錬金術師の間では仮質って呼ばれている物になる。仮質はそのままなら半日もすればエーテルにほどけてしまう」
「仮質に魔力を大量に与えると本物になる」
「魔力を大量に必要とするので、仮水を飲んでしまうと体外に排除されるまで魔力が吸収され続ける。1口2口なら問題ないが取り過ぎれば死ぬ。ここまでは理解出来たか」
「毒」じゃないか、口に出ていた。
「そこまでじゃない、荷物を減らしたい旅商や冒険者は飲食以外はこの仮水で済ます。街でも飲みはしないが水場が遠いところや水を大量に必要とするとこでは使ってるしな」
知らなかった。
「話を戻そう。'始まりの母'は巣の最も深いところにいる。そいつのいる巣穴に大量の水を流し込んで溺れさせるのが今回の作戦。近くに川でもあれば楽だが、そもそも奴らそんな場所には巣は作らない」
「全てのファミリーは繋がっている。普通は危険が迫れば穴を塞ぐが、'始まりの母'へ繋がるルートは必ず残す」
だから'始まりの母’のいる巣を攻めるのか。
「後はパニックになって巣から出て来たのを捕まえる」
なるほど。そこは人海戦術なんだ。




