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1-16.商売は度胸だぜ

 今日は休み。こっちの習慣にならって4日働いて1日休むようにしている。


 休みだが商業ギルドから呼び出しを受けたので行かなきゃならない。

 以前引き継いだ配達の仕事がうまく回ってないらしい。

 ボトリスを服の中に、シュリーゲンを首に巻いて外に出た。


 指定された時間は昼前。こっちの人は決まった時間に昼飯を食べる習慣はないので、朝の一仕事が終わった時間なのだろう。


 10にこだわる世界なので時間も1日を10で区切っている、最初”時”で意訳したので混乱した。時間の単位の発音は”サラス”、”刻”として訳されるように認識を矯正。大体1日は24時間に近い気がする。

 街の中央に時計塔があり昼間は時刻を鐘で知らせている。太陽の傾きや腹時計より正確なので待ち合わせに困ることはない。

 個人が時計を持たない世界ではこれで十分なのだろう。


 約束場所は前とは違い本当の商業ギルド会館。

 商業ギルドの中は大きなフロアーになっていて人が溢れかえっていた。

 同じ服装をした人が大勢いる。案内係だ。


 112と書かれた名札をした人に「ギンと会う約束があるのですが」と言うと「こちらです」と先導する。

 商業ギルドでは必ず個室で話し合う。

 ギンさんとは初めて会う。以前商業ギルドで揉めた時出てきたギルド職員の上の人だ。

 日本で言えば前のが係長で今回のは課長か部長クラス。


 いくつかのドアを通って部屋に案内された。

 案内人はドアを開けて必ず向こうを確認して俺を案内する。誰にも会わないようにだ、徹底している。


 待っていると2人の男性が入ってきた。

 紳士と呼べる大人と清潔感のある青年。紳士がお茶を持ってきて「私がギンです」と前のソファに座った。

 それを見て俺も座る。


 ギンさんはお茶を並べながら。

「彼は私の弟子で、今は研修中です。気にしないでください」

 弟子はソファーの後ろに立った。


 お茶を一口飲んで「あ、うまい」

 本物の紅茶だ。この世界で初めて飲んだ。セイロンティーに近い。

 いままで飲んだのは、麦茶や蕎麦茶みたいに何かを炒ったお茶。これは茶葉を発酵させている。

「オリはお茶の味がわかるんですね。これはラースから取り寄せた高級茶なんですよ」


 高級ねえ。もしかしてギン氏かましてる。

 相手をビビらせて自分のペースで事をすすめる交渉術なのでは。昔読んだ「ビジネス裏技集」みたいな怪しいビジネス書に有った。

 俺はこの手の話は嫌いで内容をそのままやる人を警戒する。向こうでは長く付き合った人はいなかった。

 ミラーリングと同じで相手が手法と知っていたら逆に悪印象を持つだろうに。何で気づかない。


「俺はもう少し味に深みがある方が好きですね」実際アッサムにミルクを入れるのが好みだった。

 時間だけは有ったので、色んなお茶を時間をかけてゆっくり楽しむ習慣を無理やり作った。それにはリラックスする意味も有る。紅茶だけじゃなくコーヒーやハーブティーにも一家言ある。

「これ完全に発酵させてますが、発酵を途中でやめたり、全く発酵させないお茶も美味しいでしょうね」

 烏龍茶や緑茶のこと。


 ギン氏一瞬言葉につまり「そうですね」何事もないように答える。

 まさか俺が製造方法を知っていると思っていなかったのだろう。

 後から知ったが紅茶の製造方法は現地で極秘とされていた、ギン氏も知らなかったのだ。


「お互い忙しい身すぐ本題に入りましょう」話を変えた。

 俺が忙しいかはあんたにはわからないと思うのだが。俺への配慮はなさそうだ。

 ほら見ろ俺のあんたへの印象が悪い、意地悪な目で見てしまっている。ここから挽回してください。


「以前やっていただいた配達ですが引き継いだ者がうまく回せていません。無論それ以前よりは良くなっているんですが」

 ギン氏ここで一口お茶を飲む。演出を入れすぎだよ。

「私たちに話されていない事がございませんか。約束では全て話していただく事になっていました」

 メガネをしていればクィとしているところ。


 嘘を言う気はないし必要もない。

「地図はあのままの物を使っていますか」と切り出す。

「ええ」

「あの地図では位置関係が距離が実際のものとは違っています」

「正しい地図をお持ちだと」ギン氏目がキラーン

「持っていません」


「そうですか。それで、いくら欲しいのです。時間を無駄にしたくはありません」わかってますと言わんばかりのギン氏。

「無いものは売れません」

「そもそも最初に渡すべきものに値段をつけているんです。交渉事は別の機会にお願いします」

「いくらお金を積まれても、無いものは売れません」

「...」

 頑張って冷静さを装っているが、声に怒りが見える。


「正確な街の地図なんて、そんな怖い物俺が持っているわけないじゃないですか」

「こわい?」

「見る人が見れば街の軍事機密なのでは」


 ギン氏ハッとした。俺が言いたい事は理解したようだ。普通気づくだろうと思うがそうじゃないのか。

「存在しちゃいけない物は作っても、買っても、持っていてもダメだと思いますよ」ととぼける。


 しばらくの静寂の後

「申し訳ありません。オリにはお売りいただけるものは全ていただいておりました」と手を伸ばしてきた。

 握手をする。

「気づけなかった私たちの問題ですね。答えがあるとわかっていたのに、申し訳ありません」


 ギン氏は後ろを向いて「今の話を理解したか」

「街の地図を作るのは危険だと」と答える青年。

 ここで部下の教育を始めた。ギン氏根は真面目なんだな。


「違う。ここに集計表が2つ。1つは確実に間違っているもの、1つは正しいかもしれないし間違っているかもしれない。時間が有限なら君はどちらを見直す」

「間違えとわかっている方です」

「そうだそれが正しい。間違えていると答えが出ているのに私は深く考えないでいた」


「ありがとうございました。勉強になりました。またお話の機会をいただきたい」

 俺への評価が、手のひらくるりん。

「ここには用事もないですから」と断る。

「オリは商売に興味がございませんか」突然変な事を言い出した。


「お話を聞いていますとオリの考え方は商人に向いています。それにその話し方も商人なら有利に働きますよ」

「魔力の乗らない話し方が。よく上品ぶって気持ち悪いとは言われますが」

「それは周りが冒険者だからでしょう」


「魔力が乗ると言うのは良いことばかりではありません。”思い”もそこに乗ってしまうという事をご存じで」

「はい」

「話す、書くという行為は魔力と一緒に自分の思いも含めて相手に伝えてしまいます」

 文字もかよ。


「取引は正直でなければなりません。ですが馬鹿正直では商人にはむきません」

 何を言おうとしてるかは何となくわかる。

「なので私たち商人は言葉に魔力あるいは感情を載せない訓練を受けます。それをオリは完璧になされています」

 ギンさん少し苦笑い、さっき怒ってしまったのを恥じていた。


「魔力が無いと聞き取りづらいといわれましたが」

「聞きたくも無い話を無理に聞かされるのは苦痛でしかない。それにオリの言葉なら聞く側は聞き逃すまいと集中します、問題ありません」

「そんなものなのですかね」

「はい。貴族は幼い時から言葉に感情が含まれないよう訓練するそうです。王族に至っては親しい人以外とは会話しないとか」

 大変だ。


「今回のお詫びと勉強代として商業ギルドの保証金は私がお出しします。お貸しするのではありません返済も不要。私が勝手にする事ですので恩義を感じる必要もございません。先ほどお願いしたように話をする機会をいただけるだけでよいのです。それだけでこの投資は十分かと...」

 ズンズンと圧をかけてくる。

 早口が続く。口を挟む隙がない。

「はぁ」

「そのご返事まっておりました」

 待ってそれは、返事じゃないから。

「では早速登録にしましょう。保証金とは客に損害が出た時にギルドが保証するためのもの。商売はこの保証金の20倍まで許されて...」


 いつの間にか商業ギルドの会員になっていた。円柱が1つ増えた。


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