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[閑話].食堂にて

 商業ギルドを出た。なんか知らないが疲れた。

 朝食を抜いているが腹はまだ空いていない。


 街を流す。そうだと思い出して中央広場へ。

 ここには簡単な舞台がある。本来の役割は偉い人の演説用だがそんなのが毎日あってはたまらない。

 空いている時には歌や演奏を披露している。前に吟遊詩人のソースさんに聞いていた。


 歌っているのはこの街に入ったばかりの旅の音楽家、要するに吟遊詩人。ここで自分の腕を披露してスカウトを待っている。

 基本1人1曲。1曲中にチップを貰えれば2曲目が許される。

 厳しく審査されていてほとんどの人はチップをもらえない。


 舞台を降りると人が集まる、彼らが手配師。吟遊詩人は気に入った手配師を選んでこの街で歌う場所を紹介してもらうのだ。

 大体が2、3人が声をかけられていた。5人以上から選べる人は優秀。1人の場合は最初から顔馴染みかな、互いに気軽さが見える。

 無論、誰からも声がかからない人もいる。出直してこいという事だ。


 曲調も腕もバラバラなのを続けて聞くのは思ったよりきつい。

 適度に腹もすいたし、飯屋を探すか。


 この国では食事は朝と夕方に食べるが、昼は決まっていない。腹がすけば食べる。

 食べない人も2回食べる人もいる。だから俺が適当な時間に食べるのも自由。


 ここでの生活も長くなり、地球との違いにも色々と気づく。

 まず家事が圧倒的に楽だ。

 魔法を使って仕事が楽になると言うのもあるが、それだけではない。


 まず一般家庭に台所と呼べる設備はない。

 家の中に全く食べものが無いとは思わないが、食事は外でするのが普通。

 これで食事の準備、残った物の処理や洗い物が無い。


 毎日きている服が汚れないので洗濯物が少ない。

 気温や外出用作業用などTPOに合わせ着替えはするが、同じシーンでは同じ服を着る。

 オシャレで着替えるのは貴族くらい。

 それだけでどれほど洗濯をしなくてよいか。


 掃除が唯一残る家事だが。

 毎日しないと気が済まない人や、一生しなくてよい人もいるだろう。ここでは後者が多いように思う。

 家事が楽になっているのではなく、家事自体がなくなっているのだ。


 しかも家事が女性の仕事と考えられていない。

 身体強化を行えば男女での力の差などなくなる。

 身体強化を使えない人も多いので性差も多少残っているが、男性だというだけで威張れるほどの根拠にはならない。


 性別に大きな差があるのは出産のみ。しかも、これは女性の特権と考えられている。

 日本の女性が聞いたら何と思うのだろうな。


 結婚も離婚も当人同士の合意のみで完了、届出も不要だ。

 そもそもが雑婚が黙認されている。関係者全員が納得していれば誰が誰と結びつこうが問題にはならない。

 ただ愛した人が他の人と関係するのに耐えられないので一般には一夫一妻が多い。


 貴族になると一夫多妻が多いがこれは子を多く残すためだ。男は種をいくらもばら撒けるのが理由だ。

 男女で社会的地位に差が無いので、男側の好き放題と言うわけではないと聞く。

 中には子供を2人産むと別れ、それぞれ1人を引き取る契約結婚というのまである。それはもうブリーダーと変わらないのでは。


 ついでに性へのハードルが低い。特に冒険者。

 魔力を持っているので性病にならず避妊も自由。中学生程度の俺にまで誘いがある。

 逆に婚姻すると結びつきは強い、覚悟しての婚姻だからだろう。


 ぜ〜ん〜ぶ〜、全部魔力が有るせいだ。


「いらっしゃい」

 店に入る。

「パン2枚とスープ。肉何かある?」といつもの注文。


「パン2枚とスープですね。ソーセージがありますよ。お客さんなら2本かな」と店主。

「今日は1本でいいや」胃が重い。

「わかりました」


 そしてどの食堂にも本日の野菜スープがセットである。迷う必要がない。

 パンは未発酵の生地を薄く焼いたもの。見た目はクレープかトルティーヤ、味もそんな感じ。

 無論ここのパンは小麦製ではない。


 街壁の外には(トーヤ)の畑が広がっていて、この土地は領主様の持ち物。

 農家は土地を借り収穫は領主が全部買い上げる。俺たちの口には入らない。


 市民が食べるのは(クベ)と呼ばれる雑穀。それこそヒエやアワみたいのから大麦、ドングリみたいなものまで(トーヤ)以外の穀物を(クベ)と呼んでいた。

 粉末にすれば全粒粉みたいに使えている。

 この粉を水で混ぜて焼くパンがこの国の主食。こんなものでも焼きたては美味い。


 スープは保存のきく根菜がメイン。たまに肉が入っているが基本は野菜のみ。

 保存の効かない青物は夜しか出ないし高い。

 地下の根菜類を”下もの”、地上になる野菜を”上もの”と野菜でもハッキリと区別がある。


 ソーセージは腸詰ではない。俺が初見でそう思ったのでそう訳されている。

 手頃なサイズの腸の入手は難しい、入手が安定しない素材で料理が発達するわけがない。

 保存のため塩漬けにされた肉を水で戻し叩いてひき肉にし香草を混ぜて棒状にしたもの。

 フライパンやグリルで焼く。ちょっとしょっぱい。


 新鮮な肉が手に入った場合は、全ての店がステーキを出す。

 魔力を美味いと感じるので何もしないのが一番美味い。

 保存すると魔力がなくなってしまうので、たまに出来る贅沢だ。

 ただし新鮮過ぎて魔力が残りすぎていた場合は毒になるので気をつける必要はある。


 冷凍すると劣化が抑えられると聞いたが俺が行ける店には冷蔵設備は無い

 一部の魔術師は物を凍らせられるし、冷凍庫も有るので出来ない訳ではない。お金がかかるのだ。

 貴族の屋敷か彼らが行く高級店では専任の魔術師がいたり冷蔵設備もあるかもしれない。

 覗いてみたいがそんな場所には結界が貼ってあり、俺も2匹も潜り込めない。


 料理には香辛料が使われている。ハーブや香辛料は庶民の食堂でも多彩に使われている。安価で入手できる証拠だ。

 日本と同じ味のものはないが、似たものは食えるし美味しい。

 ただ残念ながら出汁文化はない。


 ここの飯代は鉄貨2枚とクインタ鉄貨2枚


 市民が使うお金は鉄貨や銅貨。

 上級民が使う銀貨や金貨が貴貨と呼ばれるのに対し賎貨と呼ばれている。

 鉄貨の5分の1はクインタ鉄貨、鉄貨2枚で大鉄貨、鉄貨10枚で銅貨だ。この上に大銅貨がある。

 貴貨と賎貨の両替は基本禁止だが、出来る裏道は存在する。


 今俺が借りているただ寝るだけの宿は一泊鉄貨3枚、ただし5日分前払いなら12枚で5夜寝れる。

 ざっくり鉄貨は500円程度と俺は考えている。


 物価は高いのか、安いのかは分からない。

 生産は全て人手で行っているので基本高いとは思う。

 服などは信じられないくらい高い。

 綿花のような植物があり糸や自動機織り機もあるがそれで作られる布は高い。

 しかも同じ値段なら丈夫な皮から作る生地の方が好まれている。

 エンゲル係数も高いはずだ。


 そのかわり病気になりづらいので医療費はあまりかからない。

 医師という職業はない。そのポジションに神官がいる。

 金はかかるが蘇生も出来ると聞いた。


 でも医師がいないのに薬師はいる。

 会った事はないが薬草採取の依頼が出てるし、冒険者ギルドでポーションを売っている。


 トラックやシャベルカーなどの機械が無くとも、身体強化のおかげで大体の作業は行えてしまう。

 明かりや発火の魔具もある、文化レベルが中世というわけではない。


 こうしてこの世界のことを知ろうとするのは、積極的に新しい生を歩むつもりなんだなと思う。

 それに対して前世への未練のなさは人としてどうかと思う。


 死んだ時は1人だったとしても、あの世界には以前は恋人もいたし友人もいたはずなのにな。

 そう言えば1人だけは最後まで友人でいてくれようとしていたな。

 年をとれば懐かしく思う事もあるのか。

 久しぶりにゆっくり食事したおかげで、少し昔を思い出した。



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