1-13.言葉が消える
数日ぶりの冒険者ギルド。
「今日は何をするんですか」
「青鳥を獲りにいこうかと」これも常設依頼。
プルトさん震え出した。
「ふざけないでくださいオリ。ブルーフェザーなんて1人で捕まえられるもんですか、そもそも見つけだすのも難しいんですよ」
「昨日、蝶にならないイモムシを狩った帰りに見かけたんです。青く光る羽を」シュリーゲンが。
「そうですか。オリは前に十分収入有ったのでまだ大丈夫でしょう」
俺の懐具合も考えて依頼を割り振るのか?
「いいですかブルーフェザーは、賢く用心深い。近づくことさえ難しいのに飛ぶ速度も早い。木々を避けながら飛んでいきます」
ニコニコしながら「危険はありませんが仕留めるのは非常に困難だとお考えください」と締めた。
街に近い森の中。1人と2匹がいる。
言ってなかったが見つけていたのは巣。居るのは確実だ。
ヒナが3羽。2匹の親が懸命に餌を運んでいる。
親鳥を力技で捕まえた。シュリーゲンがひたすら追いかけたのだ。
思った通り持久力はシュリーゲンが上。早い動物は持久力が無いという偏見に基づいた作戦だった。
ヒナの餌はボトリスがそこら中の虫を捕まえていた。
鶏小屋の中には巣にヒナが3羽、オスメス揃った成鳥2羽。
「生きたブルーフェザーですか」プルトさん引きつっていた。
「巣を見つけたんで簡単でした」
「普通は親鳥は逃げて戻ってきません」
「運が良かったんですね」
「どうやって捕まえたんです」
「秘密です」
生きたブルーフェザーと卵は食用としてではなく鑑賞用として高く売れた。
このせいでまた五月蝿いハエが湧いた。
相手にするのも面倒なのですぐ街に戻る。することが無い。
懐も温かいので街をぶらついて冒険者らしい買い物をする。
中古の胸当てを購入。修理して見栄えを直せば十分に使える。裏にボトリスがいるし。
身体強化している世界なら防具の需要は無いと思ったが、ちゃんとある。
魔力の大きい方が固くなる原則は崩れないが、強化魔法で防具を強化した時、硬い防具と認識しているとより固くなるそうだ。
原理がわからん。
わからないといえば相変わらず俺の声には魔力が乗らない。
正確には音に魔力は乗せられている、その魔力がみんなと同じような働きにならないのだ。
'思いがこもっていない'と言われる。全く理解できない。
感情のこもったセリフと言えば声優を思い浮かべるが、発音の仕方では無いらしい。
そんなことを考えながらうろついていると、屋台の多い通りに出た。
食事は朝夕食べる習慣があるが、時間は決まってないし2回でなければならない決まりもない。
手軽に食べれる屋台も多い。
いい匂いが漂う。
「いいオーク肉が手に入ったよ、買っててくれー」屋台のオヤジの声が聞こえる。
オーク肉か。オークは今の俺では狩れない。
珍しい肉ではないが屋台に並ぶのは珍しい。食べたことはない。
思わず「豚串か、うまそうだな」とつぶやいてしまった。
屋台のオヤジと目がある。
「なにそんな大きな声出してんだよ。そんなにうまそうなら買っててくれ」
大きな声?
「腹減って頭回ってねんだろ、変な声出して」と続く。
変な声?
<<マスター、シラナイコトバ、イッタ>>
知らない言葉?
ボトリスが頭の中で再現してくれた。
日本語だ。俺日本語でつぶやいていた。
俺の言葉の問題解決のヒントになりそうだ。
お礼のため3本肉串を買って帰った。
宿に戻り意識して日本語で話してみる。
意識しなくとも言葉に魔力が乗っている。
今度はこっちの言葉、相変わらず魔力は乗らない。
”話そうとすれば勝手に魔力が乗る”確かにそうだ。
俺が話そうとすれば本来日本語が出る。すると意識しなくとも魔力に意識が乗っていた。
ヒントがありそうだ。
考えろ、考えろ。
・
・
・
獣魔契約の呪文を日本語で唱えてみる。
あっさり成功した。
俺とシュリーゲンに契約の紋が現れた。
日本語で話し始める。完全に独り言。
うるさいと壁を叩かれたので、やめる。
大声は出していない、俺の日本語に魔力が乗っている証拠だ。
翌日、プルトさんに試す。
耳を抑えて「うるさい」
「何の呪文よ、一部はわかるけど聞き取れない。そもそも魔力の乗り方がバラバラ大小の差がありすぎよ」
だそうで、会話には使えそうになかった。
「それでその呪文がどうしたの」
「これ」と腕を差し出すが、そこにはシュリーゲンが巻きついている。
プルトさんの顔先で舌を忙しく出し入れした。
大きな悲鳴を上げ倒れたプルトさんの代わりに、ダロンさんが「どした」と飛んできた。
怒られたが、従魔登録はしてもらえた。
翌日、街の外に出た。
依頼は受けていない。大声を出すので広い場所に移動したのだ。
整理してみた。
こっちの人の話す意味は日本語に翻訳され脳に届く。音も聞いているが補助的なものだ。これは最初から自動的に行われていた。
俺がこっちの言葉で話すと魔力は乗らない。でも日本語で話すと自然と魔力が乗る、それも自動的にだ。
日本語は考えがそのまま言葉になっている。
そしてこっちの言葉は一度翻訳して話している。ボトリスとリンクした時に得た知識のおかげでそれほど不自由は感じていない。
ここに差が有るのか?
まずは日本語で現状を語ってみた。問題なく話せ魔力も意思も乗っている。
次に現地の言葉を試してみた。
魔力は乗らない。
その後数日、狩りを早々やめこの訓練を繰り返した。
「どうしたの最近渋いじゃない、1日1匹なんてオリらしくないわね。もっとも9級で1日1匹なら超優秀なんだけど」
「そのヘビとの連携うまくいってないのか」
プルトさんもダロンさんも気にはしてくれているみたいだが
「そうですね。もうちょっとなんですけど」と笑って誤魔化す。
一人草原に向かって独り言を言うのは精神的にキツイ。
相手もいないので話すことがなくなる。
そのうち従魔を相手に話だした。もっとも従魔は相槌を入れるだけだ。
<<マスター、ダイジョウブカ>>
「あぁ、大丈夫だよ」とは返事してみたが、大丈夫じゃない。
<<ワタシ、デキルコト、ナイ?>>
シュリーゲンが俺の顔をペロペロと舐める。
従魔に気を使われてしまった。
この2匹が話せれれば別の実験も出来るんだがな。
従魔は話せない。俺の頭に響く言葉も単語ではなく意味が直接伝わってくる。
発音の機関が無いのだろう。
ん!
話せない。
ボトリスこの前みたいにリンクして俺の体で話せないか?
<<ヤッテミル>>
2度目だったからか前回のリンク時の気持ち悪さは少なくなっていた。これなら耐えられる。
<<ハッセイキカン、セイギョ、ワタシテ>>
残念ながら人の体は機能ごとにオン・オフ出来るほど便利にはできていないんだよ。
<<キョウセイ>>
発声関係の機関をボトリスに乗っ取られたようで声が出せなくなる。それでも声を出そうとするとボトリスが俺に変わって発音しだす。
俺が話そうと思ったことをボトリスが俺の口を使って話になるが日本語ではなくこっちの言葉に変わっていた。
しかも魔力が乗っている。
何でだ?
魔力を切れるか。
<<テストシマス>>
言葉が出ない。ボトリスが話すのは音ではなく魔力の出力だからだ。
色々試したが10分程度がリンクの限度だった。
リンクを解くとお互いにぐったりした。気軽に使えるものじゃない。
俺の魔力の乗せ方でも聞こえないわけじゃないから、発音はこのままにしておく事にした。




