1-12.不思議な星の吟遊詩人
「いいとこで会った。飯奢れ」
以前と同じように突然肩を組まれたが、今回の相手は4級冒険者パーティ「烈風」のリーダーザック。警戒する必要はない。
「なに、まだオリにたかってるの」
キリミアが呆れて声を出す。
「しゃあねえな。じゃ割り勘」
「割り勘にしてもダメだ。9対1でお前とカロガダントがほとんど飲んでいるだろうが」と神官のノリスが突っ込む。
相変わらずノリがいい。
「いつ帰ってきたの」と聞く「今」カロガダントも相変わらず。
いまだ聞き返されることが多い俺の言葉だが、烈風のメンバーは状況を理解してよく聞いてくれる。
「売れっ子だからな俺たち。指名されて今日は東の明日は北ってな」自嘲気味のザック。
「家でのんびりして~」とトード。
「お前の場合は自分の家じゃなくて、馴染みの女んとこだろう」とチャロ。
すると「また居なくなってた。いい女はすぐ居なくなる」
キリミアの前でこんな話を聞いて大丈夫なのか。
「俺もこれから飯なんですよ。一緒にどうですか。割り勘ですけど」
「話がわかるなオリ」
トード以外はやれやれの顔。
貴重な話を聞けるのだ一食くらいは構わない。ただしザックとカロガダントの酒代は自分持ちにしてもらう必要があるが。
「いいところがある」と神官ノリスが案内したのは初めて来るが庶民的な店。
自分たちの収入に合わせ上品な所を選ばないのはさすが神官、人格者だ。
初めての所だったが料理がうまい。
肉串。小さな骨も一緒にミンチにしたつくね。好みで甘辛いソースをかける。
巻貝の香草焼き物。海がないので淡水の巻貝、タニシに近いか。酒蒸しにして一度取り出し尻尾のところの苦い部分をソースに混ぜている。
野菜のパン巻き。野菜を細長く切って甘辛酸っぱい味付け、それをパンで巻いてある。形はブリトー。
肉入りスープ。肉が入っているドロドロ濃厚なスープ。
1つ1つ手が込んでいて美味い。
転生前は菓子パンやフレーク類でただ餌として義務として食べていた。食べる楽しみを思い出したのは、自分の足で立てた事と同じくらい嬉しい。
庶民が飲む酒はエールかワイン。
ビールの材料が大麦ではないように、ワインにも葡萄以外の果物も使われている。
共に日本のものに比べると薄いし少し酸味があるが、十分酔えるので問題はない。
自己治癒で酔わないように飲むのもたまにいるが、烈風のメンバーは二日酔いが怖くて酒が飲めるか派。
店には陽気な女性の歌が流れている。
少なくともこの街では夕食に音楽は必須だ。どの店でも小さなステージがあり演奏や歌が店内に流れている。
今この店には2人組の演奏家がいた。
1人は中年の男がリュートみたいな撥弦楽器を弾き、若い女性がタンバリンを手に歌っている。
2人男を狂わす奔放な女性の歌。きわどい歌詞もあるが、繰り返すところはすぐに客に覚えられ真似て歌い出す客もいる。みんなノリノリで笑っている。
「この歌いいな、流行りそうだ」と言うトードに
「そうだろう」と何故かドヤる神官ノリス。
「なんでお前が威張るんだよ。たまたまお前の行きつけにいい歌い手が居ただけだろう」
ザックが突っ込む。
「いい歌い手の歌が聞けるのは、手配師の耳がいいから。この店がいい手配師に頼んでいる証拠」
またわからん単語が出た。
「手配師ってなに?」最近はすぐ聞くようにしている。
「またオリのなになにか」トードには聞いていない、黙っててくれ。
「店は吟遊詩人を手配師に頼む。手配師は街に来た吟遊詩人に店を紹介する。良い吟遊詩人がいると売り上げが違うからね」
ノリスその説明では足りない。何もわからない。
女性の歌が終わる、拍手と共にチップが彼女の前の帽子に投げ込まれる。
「いい稼ぎになったよ」と歌っていた女性が俺たちのテーブルに割り込んできた。
ノリスの酒を一気にあおる。
「またお前こんな事して。ノースに俺が文句言われるだろう」
あれ、この2人近い。
「ノース?」
「私の旦那。今歌ってる、いい声でしょう」
残っていた男は別の歌を歌っている。さっきとは違うバラード。
故郷を失った男の歌だ。
絞り出すその声に、昔を哀愁と共に思い出す。同じ天井を何日も見ていたあの日々。
いつの間にか涙が出ていた。
「オリ引っ張られすぎ、身体強化して耐えろ」ザックが笑いながらアドバイス。
身体強化?
試してみた。
気持ちが冷静になってゆく、涙が引いた。
「歌は人の気持ちを揺さぶる。その気持ちに魔力が反応する。そうなるといつも以上に体が反応してしまう」
「冒険者なら呪歌と呼ばれる技、自分のパーティメンバの底上げになる。身体強化は自分でするが呪歌は気持ちに引っ張られ効果がいつも以上になる」
確かに歌の力を考えればあり得る話だ。
「私はリトラ、少年よノースの歌を讃えてくれてありがとう」
「歌や演奏に心動かされた者はその演者を讃えた、と考えるのは私たち吟遊詩人の勝手な思いだ」
いつの間にかノースもテーブルに来ていた。
「よく俺の声聞き取れましたね」
俺の声は意識しないと聞き取れないはずだ。
「吟遊詩人というのは自分への評価を気にする臆病者なのですよ」ノースが自嘲気味に笑うと。
「人気商売だからね」とリトラ
「ノリスとリトラは知り合い」とキリミア。
「生まれた村が一緒だった」とノリス。
お、幼馴染。
「集会所の三男と兄が6人いる末の一人娘」とリトラ。
「私が12才で村を離れるまで遊ぶ悪友の1人でした」ノリスが続く。
「そういえばノリスって聖教学院行ったんだっけか」
「卒業前に辞めました。毎日同じことを繰り返す日々私には2年が限界でした」
「もったいない、あと1年頑張ればよかったのに」
「卒業後も同じ生活が続くと知って逃げ出したんです」
「私も逃げた口。村にきたノースの歌を聴いたらじっとしてるなんて無理、一緒に村を出た」
「一緒にって。あなたが勝手に荷台に隠れてたでしょ」
熱烈だな。
「まあ冒険者になる連中は代々同じだがな」トードにも似た話があるのだろう。
あれ。「冒険者?、2人は吟遊詩人だよね」
「冒険者でもありますね」とノースは首から冒険者7級の証明を出した。
リトラも。
「吟遊詩人は旅をしてこその吟遊詩人。一箇所にとどまれば飽きられるし、新しい音楽も生み出せなくなる。そして旅は安全な街だけでは済みません」
街に続く整備された道と違い村から村への移動は危険だと聞いた。自分を守る技量は必要か。
「私たちの楽隊は8人で回っています。今回は久しぶりに街に来ました」
7級が8人いれば村々を回れる戦力にはなるかと納得。
「ノートンが辞めるって聞いたから、最後に会いに来た」
「ノートンと言うのは私たちのこの街での手配師で、いつも彼にお願いしていました」
その後もたわいもない話で盛り上がる。
俺にとってはどれも初めて聞く話で面白い。
ザックが10杯目のワインを飲み干して終わりになった。
店を出て別れる時にノースが「ちなみにリトラの歌の2人の男性に特定のモデルはいません」
みんなが知りたかったが聞けなかった事だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿に戻って呪歌について考える。
俺が声に魔力を乗せるヒントになりそう。
ノースは呪歌を歌う時には意識的に魔力を上乗せしていると言っていた。
声とは波だ。空気の振動。
その空気の強弱に合わせ魔力が乗るのをイメージ。声の音そのものを魔力で強化するのだ。
試すとすんなり出来た。
散々悩んだのが馬鹿らしいと思っていたが、翌日
「魔力が乗ってるから聞き漏らしはしないけど、なんか大きな独り言みたい」
そして、従魔契約を試みたが契約できず。
みんなの話し方とは似ているが違うものらしい。




