あの夜と同じ献立
あの夜と同じ献立が、目の前へ置かれる。
三つの湯気がふうわりと漂い、部屋を山と海の香気で満たす。
賄いで食べた、鰻丼と味噌汁、そして濃い緑茶。
それらを前に、俺はしばし感慨に耽る。
俺が知る限り、親方は、絡み合った愛と憎しみの表情で、いつも鰻丼をかき込んでいた。
俺はどんな表情を浮かべて、この鰻丼を食するのだろうか。
ふと目を上げると、対面で小六が涙腺を緩ませ、目尻に涙を溜めながら食べている。
蒲焼を頬張り、飯をかき込み、ガツガツと。
さんざん待たされた悔しさをぶつけるように食べている。
俺のしみじみと懐かしさに浸る気持ちを、容赦なく今へと引き戻す。
「小六よ、山椒の粉は振りかけたのか」
箸を止め、しまったと深い後悔を顔に滲ませ、慌てて山椒の粉を指で摘まんで振りかけ始める。
その間も、もう一方の手で汁椀を持ち上げて啜っている。
誠、器用な男である。
隣では真之介が箸も取らずに、俺がどう食べるのかを待っている。
花里は朱椀を両の掌で包み、愛おしく眺めている。
俺は小皿に盛られた山椒の粉を摘まみ、蒲焼の上に散らす。
二度、三度と摘まみ、存分に振りかける。
蒲焼の甘い匂いに輪郭が引かれる。
真之介も俺と同じように山椒の粉を摘まむ。
小六が食べ終え、空になった木椀に自ら飯を盛り、一片の蒲焼を乗せ、山椒の粉をかける。
俺はおもむろに味噌汁を口に運んだ。
あの日と同じ白身魚の出汁なのだろうか、上品な魚の出汁が舌に伝わる。
記憶の輪郭が鮮明に甦る。
三人がゆっくりと味噌汁を啜っている。
味噌汁の椀を置く。
鰻丼を口元に寄せる。
蒲焼、白米、そして山椒の粉が三竦みで立ちはだかる。
箸先で蒲焼をほろりと崩し、飯と一緒に一口運ぶ。
じゅっ。
炭の上でたれが焼ける音。
滴り落ちる脂。
香ばしい甘い匂いと燻す煙。
そして、懐かしい俺の記憶が、山椒の香りとともに、
舌の上で再現される。
一口運び、蒲焼を噛み、飯を噛むことをただ繰り返す。
箸が止まらない。
舌に山椒のほのかな痺れ。
濃い緑茶で口に広がる甘さを洗う。
また、最初に戻り、味噌汁を啜る。
記憶もまた繰り返される。
二度と戻ることのできない時間、場所、懐かしい記憶。
紺の暖簾の向こう側、親方の喜怒哀楽、奥さんの優しさ。
三人で静かに夜の賄い。
俺の心情の輪郭が露わになり、感情が波のように押し寄せてくる。
椀の縁から感情が溢れる。
俺は今、おそらく泣き笑いの表情で鰻丼を食べている。




