車のアクセルを強く踏み込み
車のアクセルを強く踏み込み、同時にブレーキも踏む。
どうなるのだろう。
俺は、そんな危険なことをしたことはない。
いつかは暴走してしまう。
それでも本人は止まらない。
振り返ると、今の小六は、まさにそんな状態だった。
視線と鼻先が吸い寄せられている。
皿に乗せられた蒲焼は、飴色に照り、どこか神々しい。
俺は両手で皿を持ち、真之介には甘だれの壺を持たせて家に入る。
すぐ後ろから小六が音を鳴らしてついてくる。
じゅる。
匂いに釣られて、導かれるように。
中では花里が夕飯の支度をして待ち構えていた。
味噌汁はたっぷり湯気を立て、緑茶はふわりと香りを立てる。
四人で狭い板の間に座り、寄り合う。
三人が俺の一挙手一投足を真剣に窺う。
俺は四本の串に上下二枚に打たれた蒲焼を、串を摘まんで回しながら引き抜く。
ごくり。
真之介の喉が鳴る。
二枚の蒲焼はずっしりと、そして大きい。
さらに半分に切り分ける。
すんすん。
花里が鼻を鳴らして、匂いを利いている。
じゅる、ごくり、すんすん。
誰もが言葉少なに、五感だけが研ぎ澄まされる。
俺の手仕事を、何かの神事のように無言で見つめている。
すべての串を抜き終え、それぞれ二枚に切り分ける。
皿に並ぶ十二片の蒲焼。
並ぶ宝石のように俺たちを蠱惑する。
圧する空気に負けないように、ダッチオーブンの重い蓋を持ち上げる。
白米の良い香りが立ち上がり、蒲焼の甘く香ばしい匂いと混ざり合う。
杓文字で切り返す。
程よい具合におこげもある。
俺は木椀に白米を盛り上げ、甘だれを少し振りかける。
二片の蒲焼を上に並べて、さらに垂らす。
こぼれるたれが白米に染みてゆく。
四つ目の木椀に白米を盛ろうとすると、花里が俺の手を止める。
はてと、思うと花里は目に喜びを宿し、鎌倉で買った漆塗りの朱椀をそっと差し出す。
俺は感心する。
花里は分かっている。
食は目で楽しむ。
親方であれば、笑みを浮かべ、無言で「よし」と頷いたはずである。
俺も力強く目で答える。
花里の両手から丁寧に受け取る。
朱椀には波打つ金泥の縁取り、そこへ白米を盛り、飴色の蒲焼。
俺は最後に画竜点睛、花里の鰻丼だけに、山椒の粉を振りかけて仕上げる。
それは一幅の絵となる。
俺の中で鰻丼が昇華する。
小六と真之介が食を忘れて、花里を優しく見つめる。




