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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
雨に唄えば

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208/230

簡易の焼き台の底で

 簡易の焼き台の底で、炭は赤く熱を溜め、程よい具合に熾きている。


 高く積んだ石組みに、串打ちした鰻を渡す。


 開いた腹側から皮側へ、焦らずにゆっくりと焼き上げる。


 裏表を返し、時折場所を入れ替えながら、満遍なく火を通す。


 もうそれだけで香ばしい匂いが辺りに漂う。


 白焼きにした熱々の鰻を皿に乗せると、小六が「出来たのか、早く食わせろ」と催促する。


 俺は「まだまだ」とだけ答え、いつも玄米を蒸すこしきに白焼きを入れ、蒸し上げる。


 下のかめでは湯はすでに沸いている。


 その上に甑を据える。


 甑と上の木蓋の間から蒸気が勢いよく漏れてくる。


 白い湯気は、また趣の違う良い匂いを漂わせる。


 蒸し終えると、白焼きを皿に取り出す。


 ふっくらとした身は、そのままでも十分に美味しそうだ。


 小六が「今度こそ、出来たのか、早く食わせろ」とつばを飲み込む。


 俺は「まだまだ」とお預けを喰らわす。


 

 たれの入った壺と白焼きの皿を焼き台の横に据える。


 串を握り、広口の中に入れる。


 壺の底に溜まったたれを木匙でそっとすくい、身にかけ流す。


 甘いたれが鰻の表面にまとわりつき、ゆっくりと飴色の艶を帯びていく。


 鰻の脂がたれに溶け込み、壺の中に虹色の油膜が浮かぶ。


 焼き台の上に戻すと、たれが炭の熱でじゅっと音を立てる。


 滴るたれが炭の上で焦げて、白い煙を沸かせる。


 俺は素早く残りの串にもたれをつけて、続けて焼き台に並べる。


 たれが落ち、脂も滴る。


 甘い匂いとともに煙が一気に立ちのぼり、蒲焼をいぶす。


 焦げすぎないように火加減を見極めながら、串を返す。


 皮目がはぜる。


 そのたびに、じゅっと炭から音がする。


 じゅっ、そしてじゅる。


 もう一つの音を手繰たぐる。


 振り返ると、小六が食い入るように焼き台を見つめ、唾を湧かせている。


 真之介は、得も言われぬ表情で匂いを嗅いでいる。


 花里は細い目に力を籠めている。


 小六は「まだか」と口端に唾を溜めて威圧する。


 俺は、その勢いに怖気付きながら、花里に味噌汁と緑茶、配膳の準備を頼む。


 花里は名残り惜しそうにその場を離れて、家の中に入っていく。


 俺は背中に強い視線を感じながら、二度目のたれつけを行う。


 蒲焼はさらに艶を増す。


 油膜は壺の中で厚くなる。


 白い煙が、赤い夕暮れの空へと溶けてゆく。


 茜色と飴色が重なる。


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