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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
雨に唄えば

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207/232

山椒という外堀は

 山椒という外堀は、もう埋まった。


 残るは本丸である鰻を捌き、料理するだけだ。


 ここまで、できる限りの手を尽くしてきた。


 馬は射た。


 あとは将を射るだけだ。



 花里には魚のアラでみそ汁を頼む。


 飯は玄米ではなく、白米をダッチオーブンで炊く。


 分厚く鋳造されているぶんだけ保温性が高い。


 甘だれで焼き上げた蒲焼を、ほかほかの白米でいただく。


 あの日、親方夫婦と並んで食べた夜の賄いを再現する。


 その日の建築作業を終えて帰っていく人々を見送りながら、俺の大事な一日が始まる。



 まずは鰻の入る桶に大量の氷を入れ、身を締めて動きを抑える。


 親方の行っていた手順を踏襲する。


 俺を小六、真之介、花里の三人が囲んでじっと見守る。


 少し緊張しながら、一尾目の鰻を掴んで俎板の上に置く。


 緩慢に身をくねらせる。


 独特のぬめりが手に残る。


 頭の後ろに、一気に太い竹串を刺し、俎板に開けられた穴に留める。


 首のあたりに切れ込みを入れ、身に手を添えながら背開きに小刀を走らせる。


 小六が刃を研いでくれたおかげで、切れ味が良い。


 開いた身に小刀の刃を立て、内臓をきれいに取り除く。


 頭の方から中骨と身のあいだに刃を入れ、魚を三枚に下ろす要領で中骨を身からはがし、尾と一緒に切り落とす。


 包丁の先に、細い骨がこつりと当たる感触が伝わる。


 のち、ここで頭を落とす。


 頭を切り離すと、俎板の上はすっきりし、血やワタの残りを最終確認して洗い流すことができる。


 尾のほうにある背ビレの根元に刃を入れ、つまんで引き抜くようにして外す。


 血合いを峰でしごき、桶の氷水で洗い流す。


 桶の氷水が、手のほてりとぬめりを落とす。


 最後に真ん中で切り分け、上下に並べ、串を打つだけの状態にする。


 俺は小刀を置き、大きく息を吐く。


 三人も緊張を解き、息を吐いている。


 初めてにしては、形になったと思う。


 親方に感謝する。


 二尾目、三尾目も捌く。


 段々と手が動くようになっていく。


 捌き終えると、二枚を上下に並べ、四本の串を打つ。


 小六が削った竹串は少々太いが、鰻が丸々と肥えていたので打ちやすい。


 その間に、外に準備した焼き台の炭を花里に熾してもらう。


 焼き台といっても、長方形に石を高く組み、その中で火を熾すだけの簡素なものだ。


 俺が串を打ち終えると、小六が「俺にもやらせろ」と串を持つ。


 残りの二尾は小六と真之介に串を打たせる。


 俺の手元を真剣な眼差しで見ていた二人は、見よう見まねで串を打つ。


 その出来栄えは俺より上手い。


 小六が鼻を膨らませ胸を張る。


 真之介は控えめに笑っている。



 将の首は、最後に俺から奪われた。



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