山椒という外堀は
山椒という外堀は、もう埋まった。
残るは本丸である鰻を捌き、料理するだけだ。
ここまで、できる限りの手を尽くしてきた。
馬は射た。
あとは将を射るだけだ。
花里には魚のアラでみそ汁を頼む。
飯は玄米ではなく、白米をダッチオーブンで炊く。
分厚く鋳造されているぶんだけ保温性が高い。
甘だれで焼き上げた蒲焼を、ほかほかの白米でいただく。
あの日、親方夫婦と並んで食べた夜の賄いを再現する。
その日の建築作業を終えて帰っていく人々を見送りながら、俺の大事な一日が始まる。
まずは鰻の入る桶に大量の氷を入れ、身を締めて動きを抑える。
親方の行っていた手順を踏襲する。
俺を小六、真之介、花里の三人が囲んでじっと見守る。
少し緊張しながら、一尾目の鰻を掴んで俎板の上に置く。
緩慢に身をくねらせる。
独特のぬめりが手に残る。
頭の後ろに、一気に太い竹串を刺し、俎板に開けられた穴に留める。
首のあたりに切れ込みを入れ、身に手を添えながら背開きに小刀を走らせる。
小六が刃を研いでくれたおかげで、切れ味が良い。
開いた身に小刀の刃を立て、内臓をきれいに取り除く。
頭の方から中骨と身のあいだに刃を入れ、魚を三枚に下ろす要領で中骨を身からはがし、尾と一緒に切り落とす。
包丁の先に、細い骨がこつりと当たる感触が伝わる。
後、ここで頭を落とす。
頭を切り離すと、俎板の上はすっきりし、血やワタの残りを最終確認して洗い流すことができる。
尾のほうにある背ビレの根元に刃を入れ、つまんで引き抜くようにして外す。
血合いを峰でしごき、桶の氷水で洗い流す。
桶の氷水が、手のほてりとぬめりを落とす。
最後に真ん中で切り分け、上下に並べ、串を打つだけの状態にする。
俺は小刀を置き、大きく息を吐く。
三人も緊張を解き、息を吐いている。
初めてにしては、形になったと思う。
親方に感謝する。
二尾目、三尾目も捌く。
段々と手が動くようになっていく。
捌き終えると、二枚を上下に並べ、四本の串を打つ。
小六が削った竹串は少々太いが、鰻が丸々と肥えていたので打ちやすい。
その間に、外に準備した焼き台の炭を花里に熾してもらう。
焼き台といっても、長方形に石を高く組み、その中で火を熾すだけの簡素なものだ。
俺が串を打ち終えると、小六が「俺にもやらせろ」と串を持つ。
残りの二尾は小六と真之介に串を打たせる。
俺の手元を真剣な眼差しで見ていた二人は、見よう見まねで串を打つ。
その出来栄えは俺より上手い。
小六が鼻を膨らませ胸を張る。
真之介は控えめに笑っている。
将の首は、最後に俺から奪われた。




