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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
雨に唄えば

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ざるに入った山椒の実

 ざるに入った山椒の実を、そのまま桶に沈めて冷たい井戸水で洗う。


 二度、三度と水を替えながら、小さなごみやほこりを落としていく。


 ざるを上げると、清水に濡れる一粒一粒が艶めいていた。


 軽く振ると、実が細かく揺れ、水の粒が細かく散る。


 その青い一粒を摘まんで口に入れて噛んでみる。


 まだ実は硬くならず、鋭い澄んだ香りが広がった。


 隣にいた花里も、また一粒摘まんで口に運んだ。


 花里と目を合わせ、笑みがこぼれた。



 俺はざるを持って、舟へ足早に向かう。


 花里が遅れないように、すぐ後ろをついてくる。


 背中に、夏の暑さと蝉の声が追いかけてきた。


 

 舟に運び込むと、テーブルの上に麻布を広げ、山椒を丁寧にこぼす。


 布の上で、実を指先で優しく転がし、水気を切っていく。


 その実を皿にまんべんなく広げ、電子レンジに入れてスイッチを押す。


 皿が回転しながら、山椒の実にゆっくりと熱が入っていく。


 中で回る皿を、花里がじっと見つめていた。


 すぐに取り出し、山椒の状態を指先で確かめる。


 ほんのりと温かい実から、細い湯気とともに山椒の香りが立ち上がった。


 実の状態を見ながら、二度三度と同じ作業を繰り返す。


 そのたびに青い実が乾いて、色が少しずつくすんでいく。


 ずっと見ていた花里に、電子レンジのスイッチを押すよう勧めると、細い目を見開いた。


 それでも興味が勝ったのか、こわごわと手を伸ばし、スイッチを押す。


 とたんに小さな唸りとともに皿が回り出し、花里は短い声を上げて喜んだ。


 回転する皿を見つめる目が、ゆっくりと細くなる。


 十分に乾燥した実は、指で摘まんで軽く押すと、ぱりっと乾いた音を立てて潰れた。


 指から、濃い香りがふっと広がった。


 

 摘まんだ山椒の粉を鰻丼に存分に振りかける自分を想像する。


 一人で満足げに笑う。


 そんな俺を見て、花里が小さく首を傾けた。


 目が合うと、小さくまばたきを繰り返した。


 そうして理由は分からずとも、一緒に微笑んでくれた。



 テーブルに、鎌倉で買った白い茶臼を据える。


 山椒の実を少量ずつ、茶臼で粉に挽いていく。


 上臼の中央にある穴から実を落とし、ゆっくりと臼を回す。


 実と石がこすれる乾いた音とともに、山椒は少しずつ粉になった。


 すべてがうまくいくわけではなく、油分のせいか粉が石臼の溝に溜まっていく。


 それでも上臼を外し、溝に固まった粉を竹串で丁寧に掻き出しながら、なんとか山椒の粉を仕上げた。


 竹串の先にふわりと粉がまといつく。


 貴重品を扱うように、皿の上に和紙を敷き、粉になった山椒をそっと落とした。


 できた山椒の粉を見ていると、自然に笑みが浮かんでくる。


 花里も、和紙に小さく盛られた山椒の粉をじっと見つめていた。

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